表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あくまでも!  作者: 壱原優一
第一章 秋村楓
2/23

 土曜日の朝だ。

 起き上がったはいいけれど、私は未だベッドに座ったままでいる。

 寝起きでぼんやりとした頭の中で「そうだ、ゲーセンに行こう」のキャッチコピーが小躍りした。

 最後にゲーセンに行ったのは一ヶ月くらい前のことだろうか。子豚ちゃんを取ってきたきりだ。

 いい機会だし、と思い立ちベッドから降りて着替えを済ませる。

 ジーパンとTシャツに、今日は暖かいけど薄手の上着を羽織って、とそこまでして美咲との会話が頭をよぎった。

 少し迷ってから、私は上着を脱ぎ捨てて机へと向かった。



 起きたのは九時頃だった、宿題を終えたのが一時くらい。

 午前中は勉強をして午後から遊ぶ、まるで小学生みたいだけど悪くない配分だろう。

 むしろ良いんじゃないだろうか。



 一ヶ月ぶりのゲーセンは休日だけあって学生らしき年齢層がひしめいていた。

 年々その数を減らしていくゲーセンだが、この様子ならここはまだ当分もってくれるだろう。

 一階は若いのが多いけど、二階になるとぐっと年齢層があがる。パチスロやら競馬やらネット麻雀などがあるためだ。

 最近はパチスロを楽しむお年寄りをよく見るようになった。暇をもてあましているのだろう。

 ゲーム余生はちょっと憧れる。私が年老いた時にも、あまり反射神経を使うことのないゲームがあるといいのだが。

 それらはフロアのおよそ半分を占めている。

 残りは格闘ゲームとかメダルゲームとか。あとは少々昔の懐かしみを覚えるゲームたちだ、インベーダーとかよく置いてあるものだ。

 私は二階へと上がって、とある格闘ゲームの前に座った。

 対面には既に一人のプレイヤーが座っていた。

 私の方の画面にもその戦闘風景が映っている。

 ……ふむ、それなりに出来る人のようだ。

 ここは一つご教授願おう、と私は彼がそのコンピューターを片付けるのを待ってから、鼻歌交じりにコインを投入したのだった。

 結論から言えば、そいつはかなり強かった。私は得意キャラをもって全力で臨んだ。

 三勝先取で勝利は決する。一戦目は手加減されたのが丸わかりだった。コンピューター戦の時とは動きが雲泥の差だ。

 あからさまな手加減は気分のいいものではないが、二戦目では本気だと思った。ほぼ互角の戦いだった。僅差で私が勝った。

 これであと一勝。「これならなんとか勝てるかも」そう思った。

 そこからの三連戦は屈辱的だった。

 三戦目、今までとはまるで違う鋭い攻撃に動揺して、あれよあれよとゲージを減らしてしまった。まさかのパーフェクト。

 ここで私は気合を入れなおす。

 四戦目、これは私の中で上位三番内に入るほどの好プレイだったと思う。

 相手のゲージを半分は削れた。

 けれども超必殺技をもって抹殺された。

 そして五戦目に、本当に信じられないことだけど、再びパーフェクト。

 見事なコンボだった。まるで抜けられなかった。

 圧倒的なご教授でしたよ、うん。敗兵はただ去り行くのみだ。



 そそくさと格ゲーコーナーから離れた私は、一階へと降りてキャッチャーコーナーをうろうろとしていた。

 けれどもぬいぐるみはこないだ取ったばかりだし、駄菓子を食べたい気分でもない。

 ……うーん、他のとこに行こうかな。

 そう思い踵を返そうとしたら一人の女の子が目に入った。

 小学生高学年くらいだろうか、あるいは中学生か。筐体の中をじっと睨み付けている。

 それから財布の中を検めて、意を決したようにコインを投入した。

 ウィーンウィーンと天井のアームが縦横に駆動しガコンと一時停止してから下降、ぬいぐるみの頭部を掴むも、あれはパワー不足ね、ずるりと滑り落ちてしまった。女の子が「あーあ」と呟いたように見えた。

 あれなら首のあたりに引っ掛けるのがいいかなと私は考えた。

 女の子は再び財布を取り出して、先ほどよりも長く長く迷っている。

 私も少し迷ってから、その筐体へと近づいた。


「ごめんなさい。次、いいですか?」

「あ、はい。すみません」


 すっと女の子が横にどいたけれど、そのままじっとこちらを見続けていた。

 私はコインを投入して、女の子が取ろうとしていた熊のぬいぐるみへと狙いを定めた。

 そういえばこれ、うちにもあるなぁと思いながら矢印の描かれたボタンをポチポチと二度押した。

 アームは狙い通りに熊の首の下へと入って、持ち上がる。大きめの頭部がアームをすり抜けることはないのだ。

 あっと女の子が息を呑むのが聞こえた。

 もしかしたら落とすように祈っていたかもしれない。

 だがここまできてそれはない。落ちるとすれば、それはそう、出口の上でだ。

 ……ガタン。

 この音がたまらない。達成感を満たしてくれる。

 ハードカバー本ほどの大きさのそれを取り出して女の子のほうを見る。ちょっと悔しそうな顔をしていた。

 私はその子へと近づいて熊を差し出した。


「これ、差し上げます」

「えっ」


 女の子は私と熊を丸い目で交互に見比べた。


「取るのが好きなだけで、物には興味ないので」


 この子持ってるし、ダブりはなんだかなぁ。

 まだ遊ぶつもりだから邪魔にもなるし、素直に受け取ってくれるといいのだが。


「じゃ、じゃあ、お金払います!」


 女の子はよっぽど欲しいのかそんなことを言い出した。

 欲しいけど、タダは悪い気がする。私でもそう思ったな。けどあの時彼は、


「私にとってはぬいぐるみ代ではなく、ゲーム代ですから」


 とかなんとか言って、押し付けていったっけ。

 私も同じ。

 彼女の腕にそれを抱えさせて、私はそそくさと立ち去った。なんだか今日は、そんなのばかりだ。


「ありがとうございます!」


 女の子の声が、喧騒の中で微かに聞こえた。

 ……恥っず! 恥っず!

 まったく、あの人も随分と恥ずかしいことをしたものだ。

 いや、真似っこしたから恥ずかしいのかしら。どっちでもいいけど、慣れないことはするものじゃない。

 特にそう、知り合いのいるところでは。



 恥ずかしさでほてった顔を冷まそうと自販機の前で財布を取り出したところで、背後からあいつに話しかけられた。


「よっす。飲むか?」


 休日なのに学ランだった。


「……どうも」


 ニヤニヤした顔なのが気になるけれど、とりあえず受け取っておく。

 こいつとは、ここでの知り合いである。

 また、ここだけの知り合いでもある。他で出くわしたことは一度もない。

 名前はよくは知らない、上杉とかいうちょっとかっこよさげな苗字であることくらい。


「補習?」


 出会ったのは二年ほど前だったろうか。

 学校も違うし、住んでるところも知らない。多分、地元民。

 あとちょっと不良っぽい。でも別に怖い感じはないし、フレンドリー、それも不良によくある特徴かもしれない。


「ちっげーよ! お前んとこ校則にねえの? ゲーセンとか映画館に行く際は制服着ましょーってさ」


 見た目あれだし最初は距離を取っていたが、今ではそれなりに仲良くしている。

 前にあったのは三ヶ月くらい前かな。

 ケータイの番号やメルアドの交換をしていないから、偶然会うしかないのだ。


「多分、ない」


 校則なんて全部見てないから確かではない。

 あったとしても形骸化してるだろう、そんな前時代的校則は。

 それにしても真面目な奴だ、いかにも不真面目な格好をしてるくせに。

 学ランはボタンをまるで留めていないし、下には白のワイシャツではなく赤色のシャツを着ている。

 ズボンは腰よりも上にちゃんと履いているようだけど、ベルトはなんだかよくわからないアフリカの妖しげなお面みたいなデザインのバックルだし、髪は茶色く染めている。

 でも、私よりも上のほうの高校なんだよねぇ、確か。

 いわゆる進学校でも、このような人種はいるらしい。


「ってこれ、コーラじゃない」


 自販機傍のベンチに座って、タブを開けようとした時にようやく気づいた。


「炭酸苦手なんだけど」

「あー? ……俺も炭酸だったわ。骨溶けるわけじゃねえし飲めよ」

「そんなこと言ってないでしょ。……まぁ、飲むけど」


 いつの都市伝説よ。

 ……一応自分のを確認したのは親切かな、と思った。


「奢りならなんでもうめえ」


 好き嫌いのない人はいいわね。

 プルタブを引くと小気味よい音と共に、コーラ独特の甘い香りが鼻をくすぐった。

 ここまでは嫌いじゃないんだけど。

 恐る恐ると口をつけると、しゅわしゅわと、無数の泡沫が弾け飛んで少しの痛みを覚え、他に言いようのない甘さが口内を満たす。


「にっが」


 そして、後からくる苦味。


「はあ?」


 そんな反応には慣れている。今まで共感してくれる人に会ったことがない。

 美咲にも苦笑いと共に否定された。


「炭酸って絶対苦い。後味が」


 その苦味がどうにも苦手なのだ。

 ピーマンとかゴーヤは好きなのだけど。あとお茶も好きだ。

 炭酸の苦味だけがダメだ。

 そもそも炭酸の苦味なのかも、本当のところわからないが、みんな「それはない」って言うし。


「うはは、こいつ頭おかしーわ!」

「くたばれ」


 舌おかしいならともかく、いやそれも腹立たしいけど、頭おかしいは飛ばしすぎでしょ。


「おー、こわ」


 こいつといると、なんだか口調に粗野なところが出始めるからイヤだ。

 そりゃ相手によって少しづつ口調なんて変わるものだろうけど、これがふとした拍子に美咲の前ででも出たりしたら困る。

 気をつけないと。


「校則言うならさ」


 少し気になったので話を戻す。


「あー?」

「それ、ダメじゃない?」


 頭と胸元と腰を指差して聞いてみたところ、


「気に入らない校則には従わねえ」


 ニヒルに笑ってそう言った。

 ……痛い子ね。とりあえず触れないことにしよう。

 誰にでも俺かっこいいって思いたい時期はあるものだし、あまりそこをつついても、私のためにはならないし。


「てっかお前さ」


 また、さっきのようにニヤニヤ顔を浮かべる。

 あぁ、最悪な気分だ。


「なにあれなにあれ! おっ前かっこいいな! 超かっけえ!」


 あぁ……やっぱりね……。

 ニヤニヤ笑いながら褒められても、バカにされてるとしか思えない。


「なにがよ」


 とぼけてみるしかなかった。だって恥ずかしいんだもん。

 人に言われると尚更恥ずかしく思えてくる。

 上杉は「またまたわかってるくせに」みたいな顔をしている。

 こういう男子いたよ、小学生の時に。いつまでも前のことでからかってくるの。

 いやこれはさっきのことだけどね。

 でも多分、こいつも後々ふと思い出したようにからかってくる、絶対そういうタイプだ。


「物には興味ないから。キリッ!」

「死ね!」


 ああもう!

 本当は私は、こんなこと言うタチじゃないのに!

 キリッとか言うな!


「げ、ゲーム代で……ぶはははははッ! 超かっけえ! イケメンだわお前ー」


 死にたくなってきた。

 しかもこれ他人の台詞なのに、なんで私がこんな辱めを受けなければならないの。


「俺があの子だったら惚れちゃうー。ってあれ女だったな。じゃあ、俺が男であの子だったら惚れちゃ……あー? なんか変じゃね。あ、そうだ、お前が男だったらあの子惚れてるわー。そうだよこれだこれ」


 抱腹絶倒。膝を叩きながら大口開けての大爆笑だ。

 腹痛いとか隣から聞こえてくる。

 こんなに笑ってるところを見るのは初めてだ。全然嬉しくないけど。

 ベンチの前を通る人がちらりと奇異の目を向けてくるから、二重で恥ずかしい。


「ほんともう黙って」

「おっこんなよう。褒めてるんだぜ。コーラも奢るほどに!」

「それはありがとう。炭酸苦手だけどありがとう」


 ちびちびと飲んではいるが正直つらい。

 というか、苦手どうのだけでなく女に炭酸飲料渡すってどうなのよ。

 ゲップとか出たら恥ずかしいんですけど。


「知らんかったし」

「知ってます」

「んでなにお前……ぷっ、くく」

「窒息しろ」

「悪ぃ悪ぃ。んで、お前よう、いつもあんなことしてんの?」


 はあ?

 多分そんな顔をしたと思う。

 あまりにも予想外な質問だったから。


「たまたまに決まってるでしょ」


 あんな場面、そうそうあるものでもないし。


「気まぐれか」

「そうそう」


 昔、似たようなことをされた覚えがあったから、なんて言ったらまた笑うだろう。


「あー俺もああいうことしてえ」

「下心が見える」

「バレたか」


 私もどっこいだけどね。ええかっこしい、みたいな。

 こいつが思うようなのは、ありえないことだろう。

 私は別に惚れなかったし。

 惚れっぽい人が相手なら、万が一にもあるのかもしれない。

 頼りがいのある人って素敵、みたいな。

 もしも美咲にされたら……あー、惚れるわね、うん惚れる惚れる、美咲だし。


「薄笑いきめえ」

「豆腐の角に光速で頭をぶつけるべき」


 一々うるさいのよ、まったく。


「ぷくくっ……名台詞だわまじで」


 あと、とてつもなくムカツク。

 ぐいっとコーラを飲み干して私は立ち上がった。


「ごちそうさま」


 缶を捨てるとガシャンと金属の重なり合う音がした。

 随分と捨てられてるわね。


「おう」


 彼もまた立ち上がって空き缶を捨てた。さっきよりも激しい音がした。


「帰んの?」

「ううん、まだ遊ぶつもり」


 コーラで胃が重たいけど、格ゲーとキャッチャーしかやってないし。


「じゃあガンシューやろうぜい」


 こいつと出会うと大抵の場合一緒に遊ぶことになる。

 あっちから誘ったり私から誘ったりと、その時々によって変わるけど、断ったことはお互い一度もなかった。


「いいけど、私あれしかやったことない、恐竜の」

「ガキの頃やったかもしんねえなそれ。車風の筐体の。あの恐竜映画の」

「それそれ」

「立ちっぱなしなだけで、他もそう変わんねーよ。ゾンビとかどうよ、腐ったはらわたをぶち撒けようぜ!」


 はらわたはノーサンキューだけど、まぁガンシューと言ったらゾンビよね、うん。

 生身の人間だとゲームでも少し抵抗感があるけど、ゾンビは人型の化物と言った感じだし。



 入り口付近にそれはあった。

 運よく誰もいなかった。

 銃はショットガンタイプだった。

 両手で持つ必要があるが、流石に軽いものだ。

 トリガーだけでなくいくつかのボタンもついている、どうやら手榴弾も使うことが出来るようで、他には武器切り替えとか回避行動のためのものらしい。

 ただ銃をぶっ放せばいいわけではないのか。なかなか面白そう。

 コイン投入、レッツプレイ。



 そうして二十分後──。



「初心者なの!?」


 驚愕せずにはいられなかった、てっきり経験者だと思っていた。


「別に初心者じゃねえよ、下手なだけだ」


 上杉はそう弁明するけど、その方がまずくないだろうか。


「私より早く死ぬとは思わなかった」

「あー? ほぼ同時だったろうが」

「いや先に死んだじゃない」

「うっせ」


 まさか一面のボスでやられてしまうとは……まぁ相棒が悪かったわね。


「じゃ次は音ゲーいこうぜ。セッションしようぜ」

「やーよ。音ゲーはほんと苦手」

「よし、行くか」

「だから苦手だってば」


 私の主張は無視されて、気づけば私はギターを手にしていた。

 上杉はドラムの前に座っていた。

 どうしてこうなった。

 上杉は「星一つでいいぜ」なんて言っているけど、それは私のちっぽけなプライドが許さない。

 ゲームは最低でもノーマルからやるものだ、イージーモードになんて手は出さないのだ。

 というわけで中難度の楽曲を選択する。


「苦手ってわりにチャレンジャーじゃん」

「苦手イコール下手だと思わないことね」


 って強がりだけど。

 下手だから苦手、それが現実である。

 リズム感がないのね、私。

 ギターの頭の方には三つのボタンがついている。

 それぞれに三原色が対応しており、音楽に合わせて画面上部から落ちてくるカラーバーが画面下の灰色の領域に重なると同時に、対応するボタンを押しながらギターの腹辺りにあるレバーを弾くと奏でたことになる。

 それから三原色の他にギターマークが降ってくることもあり、その時はギターを縦にしながら弾くのだ。


「下手くそだなまじで」


 一曲目が終わったところで上杉にそう言われた。

 ええ、ええ、そうでしょうとも。

 なんてったって、曲が半分ほど流れたところでゲームオーバーになったのだから。


「拗ねんなよ、めんどくせえ」

「拗ねてないし」


 上杉はと言うと九割以上という好成績。やり慣れてるようだ。

 結局その後一曲は最後までやり遂げられたものの、ズタボロな結果として終わる。

 上杉はそれで大分溜飲を下せたようだった。

 癪に障ったので今度は格闘ゲームへと誘ってみた。

 さっきのとは違うゲームだ。

 実を言えばこちらの方がやり込んでいる。いや本当に。

 上杉も自信があるのかノリノリだった。


「勝ったほうがジュース奢りな」


 とか言っちゃうくらい自信ありありだった。


「一日に二本も奢らせるのは悪いわ」

「あー? なめんな」


 ……で。


「いやー、悪いわねー」


 やっぱりこうなった。

 コーラではなく今度は烏龍茶を奢らせることにした。


「ありえねー……なにあれ、永久コンボじゃねえの」

「全然。普通に抜けられるし」

「まじかー」


 自信あるだけあって手馴れているようだったけど、まだまだね。

 特にこいつはガードが下手すぎる。

 ガンガン行こうぜを体現してるようだった。

 攻めはいいのだが。ま、かく言う私も実力者から見れば雑魚なんだけど。

 さて、と。

 烏龍茶も飲んだことだし、勝って気分もいいことだし、そろそろ帰りますかね。


「上杉はまだやってく?」

「あれやってくわ、クイズゲー」

「あー、あれ」


 最近は増えたよねぇ。カードに個人データを記録するタイプのゲーム。

 上杉の言うあれなんかは、その代表じゃないだろうか。

 そしてそれが昨今のゲーセンのやりにくさでもあるような気がする。

 一枚五百円とかするし、半年に一度は行かないとデータ消されたりするし、もちろんそうじゃないのもあるんだけど。

 私みたいに少なくとも二ヶ月に一度は必ず行くタイプならともかく、暇つぶしに入る人なんかはカード買ってまでやりたいものではないだろう。


「ランクあがった?」

「昨日やって落ちたから今日取り戻すわ」


 そうして、どんどんとお金をつぎ込んでしまうのよね。

 私も気をつけなければ。


「そ。ま、頑張って」

「んー。じゃあな」

「ええ、また。ごちそうさま、二本もありがとね」

「言い出しといて負けることほど、だっせーことはないな」


 大いに同意して「だっせー」と言ってやったら「とっとと失せろ」となじられた。

 肯定してあげただけなのに、酷い奴だ。

 ゲーセンを出る前に、もう一度だけキャッチャーコーナーに寄ってみた。

 ちょっと取れそうで可愛いぬいぐるみがあったので百円を投じてみたけれど、思ったようにはいかなかったからそれだけでやめた。

 あと二回もやれば取れると思うけど、小銭がなかったことに感謝すればいいのか、残念がればいいのか。

 あ……今度、美咲にプレゼントしようかな、ぬいぐるみの一つでも。

 でも、彼女はそういうの、嫌いなのかしら。

 彼女の部屋には、ファンシーな小物は一つもなかったからなぁ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ