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あくまでも!  作者: 壱原優一
第二章 悪魔狩り
11/23

[V]

 思わぬ闖入者に、マチヤは困惑していた。珍妙な骸骨、そして白衣姿の女性。

「初めまして転校生。科学兼生物の白木百だ。そんでもって、放課後はこいつと一緒に妖怪退治みたいなことをしてる」

 しかもその相手が、ご丁寧にも自己紹介を始めたのだ。

「……そう」

 だがそれで彼女は納得した。

 白木百はいわば同業者だ。悪魔と契約したマチヤが悪魔を殺して回るのと同様に、彼女もまた骸骨という怪異を従えて怪異を殺している。

 ──ならばまずは様子を見てから、場合によってはこいつも……。

 と物騒な事をマチヤが考えていると、カタカタという音を立てながら骸骨が口を開いた。

「んんん! これは美少女ですぞ!」

 文節ごとにカタカタという音が混じっていて、少々聞き難い。常に笑いながら話しているような奴であった。マチヤは眉根を寄せて、あからさまに不快感を示した。それを見取ったのか、単に自身もうざいと思ったのか「黙ってろ」と白木百が命じると「お口チャックですな」と骸骨はひょうきんな身振りと共に口を閉じた。茶化しながらも、骸骨は命令を守るのだ。でなければ接着剤で封じられるハメになる、脳はないが以前の経験を生かすことは出来た。本人は生きてもなければ、生きていたこともないが。プラスチック製で日本製である。

 骸骨の奥にいる少女へとマチヤは視線をやる。へたり込んだまま立ち上がる様子はない。呆然、そんな表情だ。

 ──ちょっと、驚かせ過ぎたわね。半分以上はこいつらの所為だけど。

 自分は当然のことをしたまで、とマチヤは思いつつも同情心めいたものが少ながらず沸いて出た。次いで、自身の判断が正しいものだったかを考えた。

 ──面倒なことにはなった。寄り道などすべきではなかったか? だがそれは……。

 答えは明確であった、間違いなど何一つない、だ。しかし不手際があったことも事実、人払いをしっかりとすべきだった。

「で、だ。お前たちは何者だ?」

 モモの質問に、マチヤは思考を切り替える。今はまず、この場を収めなければならない、反省会は後回しだ。

 わざわざ嘘を吐くメリットはマチヤにはない。モモ視点ではマチヤたちは生徒を襲う下手人なのだから、正直に答えるしかない。そう考え、自分たちの所属と目的をマチヤは話した。

 あとは信じてもらえるかが難点だったが、意外にもモモはそれで納得した。

「お前たちの言い分はわかった。秋村、立てるか?」

「……あ、はい」

 ずっと呆けたままだった楓の手を引いて立たせると、フラついてはいるが、腰が抜けたようなことはなかったようだ。

「秋村は、どうだ? こいつらの話を聞いて」

「そんなこと……言われても」

 今まで何か悪いことをしてきたつもりは楓にはなかったし、マチヤの話を聞いてもそんなこと自分とは関係ないという思いが強かった。何より、悪魔や怪異は悪と決め付けるような思想が、だから処分するという姿勢が、とても不愉快に楓は思ったのだった。

 それが彼女の狭い世界でのことだとは、到底思い至ることはない。

 そんな楓にマチヤは、諭すような声音で話しかける。

「アナタのそれは、悪魔とは違うから、本当は我々には関係ないことなんだけど」

 だったら、放っといて欲しい。それが楓の本音だ。私は無関係だ、ミサキは貴女たちの言う悪魔とは違う、何も悪いことない、むしろいい子だ。

「それでも、私は見逃せない。不幸になった人を、沢山見てきたから」

 それが、マトリョーナ・カラスの正義だった。

「っ……この子が、いるから! 私は今幸せなの!」

 そして秋村楓にとっては、ただの理不尽だった。自分だけは違う、という驕りが根底にあるのは違いなかったが、マチヤはあえてそれに触れることはしなかった。

「これから先もずっと幸せなわけない!」

「先のことなんて、普通に生きててもわからないじゃない! 人は、怪異がなくても不幸になるじゃない!」

「それは“かも”の話でしょう!? 怪異がいたら“絶対に”なるわ!」

「じゃ、じゃあ、その統計を出しなさいよ!」

 どちらも譲る気はなかった。当然のことだ、どちらも自分は間違っていないと思っている。そして相手の方こそ間違っている、自分の意見こそを認めるべきだと思っている。思想の対立に妥協点など存在しないのだ。どちらかが消え去るまで、それは続く。

「落ち着けお前ら」

 このままでは平行線だろう、とモモが間に割り入った。それは、先ほどの構図とまるで同じだ。骸骨の代わりに人が入っただけである。

「あー……とりあえずのところ、学校で何かするのは禁止だ。こんな人払いのような真似も仕事が止まって困るし、私の仕事の邪魔にもなる。わかったな?」

 マチヤはその提案に、大人しく頷いた。どうしても今、というわけではなかったし、むしろ、学校外でのことは不問にする、と言質を取ったようなものだからだ。また、これと敵対することは骸骨を、ひいてはこの学校における退治屋を始末することになる、怪異の脅威から人々を守る為には目を瞑ることも必要だと、マチヤはモモと自身を重ねながら結論付けた。

 対して楓は不満だった。自身とミサキの安全が確保されていないことは明白だった。どうしても今、言質を取らなければ明日にでも、また彼女たちは自分の前に立ち塞がる。けれどもミサキに促されて、最後には渋々ながらも了承することになった。

「じゃ、人払い解いたら帰れよ、転校生。秋村は残れ」

「では先生、さようなら。カエデも、じゃあね。……よーっく考えることね。一晩、じっくり!」

 子供のように手を振りながら、マチヤは褐色肌の悪魔と共に下校していった。その後姿を楓は「べーだ」と舌を出して見送った。

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