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あくまでも!  作者: 壱原優一
第二章 悪魔狩り
10/23

[IV]

 放課後、私はモモ先生に呼び出された。

「楓ちゃん、今日は」

「ごめんっ。モモ先生に呼ばれてて……」

「あ、やっぱり? さっき話してたから、そうじゃないかなとは思ったけど」

「ごめんね、また今度ね」

 そんな風に、いつも通りの会話をしてから、私は先生が待つであろう生物科室へと急いだ。

 呼び出される理由はわからない。訊いてみても「まぁ、ちょっとな」なんて濁されたし。そんだから、あまりいい話ではないように思う。でも、何かやらかした覚えはないし、この前のレポートもちゃんと出したはず。案外、資料の片付けとかを頼まれるのかもしれない。

 生物室は二階にあり、隣に準備室、更にその隣が生物科室になっている。私たちの教室のある三階から、一つ降りて、私はなんだか違和感を覚えた。

「なにか、変じゃない?」

 ミサキに訊ねてみたが「なにが?」としか返ってこなかった。……気のせいか。自分でもよくわかっていないことだ、違和感はすぐに消え去った。

 とぼとぼと、誰も居ない廊下を歩いていく。生物室は此処からだと真向かいの棟になるから少々遠い。途中、食堂を覗いてみたが、誰もいなかった。

 我が校の食堂は、三つの方向に入口があって、それらは全面ガラス張りになっている。だから廊下からもよく中が見える。メニューは特別充実していなかったように思うが、カツカレーや素うどんなど定番どこは用意されているし、コンビニのおにぎりやパンもある。一番の需要は恐らく、三つある自販機だろうか。

 ミサキが「妙ね」と呟いた。私もやっぱりそう思う。

 廊下どころか、食堂にも人がいないなんて……。販売員はお昼にしかいないけど、放課後でも自販機需要はあるものだし、広々としたテーブルで友達なんかとお勉強と言う名の集まりをしている人たちだっているはずなのだ、いつもなら。

 気付けば、学校から人の気配というものがなくなっているようだった。人の話し声が聞こえない。それは二階だけの話だけではなく、三階や外、運動部の掛け声すらも聞こえなかった。さっきまで、あんなにも活気溢れていた学校が、今では静かに眠っていた。

「楓ちゃん」

 ミサキの声が重い。さっきはなんてことないような口ぶりだったのが一転、ただならぬ緊張感を孕んでいた。

「早いところ、学校を出ましょう。……おかしすぎるわ」

 まるっと同意見だ。こくりと頷いて、私は踵を返した。ここはほぼ廊下の真ん中、階段までの距離は前も後ろも変わりはない。けれど、今歩いてきた道の方が、安心できると思った。この異質な空間で、前に進む勇気は私にはなかった。

 が、しかし。

 振り返った私の先に、マチヤさんの姿があった。銀髪の生徒なんて他にはいないから、すぐにわかった。本当なら、それはほっとする場面なのかもしれない。

 次の一言が、なかったならば──。

 彼女がその小さな口を開いた。

「アナタ……憑いているでしょう?」

 キュッと心臓が絞まる。美咲を思う時よりも苦しいような気がした。

「な、なにそれ?」

 声が震えている。明らかに動揺していた、隠しているつもりにもなっていない。完全に失敗した。

 大きく彼女が溜息を吐く。

「誤魔化しは無意味よ?」

 一歩、マチヤが足を踏み出し、それにつられて私は一歩下がった。

「それはよくないものだし、貴女だって困っているんでしょ? 私ならどうにかしてあげられるから、こっちに来なさい」

 私は更に一歩下がった。

 勝手な言い分だ。私のミサキが、悪いものなはずないじゃない!

「ああ、これは駄目だ。力尽くが最良では?」

 マチヤの隣に褐色の肌をした背の高い男性が、まるで幽霊のようにすーっと現れて言った。

「まずは話し合いからよ」

 どこからか見てるのだろうか「悪魔ね、あれ」とミサキが深刻そうに呟いた。

「あれも、悪魔なの? 世界狭すぎるでしょ」

「いいえ、あれが悪魔なのよ」

 どういうことかわからずにいると、隣の男がまた口を開く。

「フム。何か持っているな、怪異と縁ある物を」

「ふぅん? そっちが本体ということ? それじゃあ、カエデって言ったっけ。それ、出しなさい」

 マチヤが手を差し出しながら、一歩二歩と近づいてくる。

 恐らくはコンパクト、鏡のことを言っているのだろうことは容易に推測できた。無意識にそれの入った鞄を両手でしっかりと抱えた。

「聞こえなかったの? なんでもいいから、出しなさい」

「い、いやよ」

 精一杯の拒絶の言葉だった。他にも言いたいことは数あったが、それしか出てこなかった。

 そして、そう言った瞬間、

「そう」

 少女の声に、ぞわっと全身が総毛だった。青色の瞳がじっと私を見つめている。朝に目が合った時、その時とは比較にならないほどの、底の見えない穴を覗き込んでいる時のような、落ち込んでしまいそうな感覚だ。

「理由は知らないけどね、それがアナタの人生を良くすることは、絶対に、ない。だから」

「勝手に! 決め付けないで!」

 気付いたら私は叫んでいて、

「アンドリュー!」

 彼女に背を向けて、走り出していた。ミサキが頭の中で「後ろ!」と叫ぶ。それにはっとして、首だけで背後を見やると、すぐそこに蛇、いや褐色の腕が迫っていた。

 捕まる、そう思った瞬間、何か白い影が私と男の間に割り込んで「チッ」と男が小さく舌打ちする。

 それは、骸骨だった。保健室や生物室辺りにでも飾ってありそうな、骨格標本だ。カタカタと顎を鳴らして、男に向けて制止を求めるように腕を突き出している。

「な、なにこいつ」

 マチヤは珍奇なものを見るような目線をやる一方で、私は驚き、躓いてしまって廊下にへたり込んでしまっていた。男は骸骨を睨み付け、ミサキは「今のうちに逃げましょう」と私を急かす。しかし足に力が入らなかった。

 そこで更に──

「まずは話し合い、なんだろ?」

 そこで更に現れた人物に、私の頭は今にもパンクしてしまいそうだった。

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