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ガロッツのブルース  作者: T長
case-03
3/6

革命、自殺、またはキャトルミューティレイション


――まさか絶望のふりをしてやってくるなんて 〈ヒジリヤマアキノブ〉


 ヒジリヤマはごく普通の、地球の中学生だった。ごく普通に、学校に通い、ごく普通にクラスに馴染めず、ごく普通に、イジメというものをうけた。

 今となっては、そんなもの別に何てことはなかった。と、ヒジリヤマは思う。現在のヒジリヤマの生活に比べれば、遥かにマシな境遇である。

 それでも、当時はやはり辛くてたまらなかった。死にたいとすら思っていた。

 ズタズタにされたノート、見つからない上履き、水浸しの椅子、体に巻かれた運動マットの圧迫感、クラスメートの囁き。

 ヒジリヤマの足をマンションの屋上へと向かわせたのは、そういった、彼をとりまく理不尽な世界そのものだった。

 世界征服でもしてこの世界を初めから作り直せば、こんな苦しみを味わわなくて済む、よき世界になるだろうか?

 いいや、むしろ。自分自身をリセットして作り直した方が、手っ取り早くていいかもしれない。

 その時のヒジリヤマはそんな風に考えた。そして屋上のフェンスを乗り越え、両手を広げ、


 リセット!


 確かにリセットは行われた。ただし、別なものになったのはヒジリヤマ自身ではなく、ヒジリヤマを取り巻く世界の方であって、それも、ヒジリヤマが思っていたような幸せな変化ではなかった。

 最初は何がなんだか全くわからなかった。耳をつんざく超音波。叫び声すらかき消され、気が付けばヒジリヤマは、見たこともない奇妙な素材でできた檻の中に閉じこめられていたのである。

 ヒジリヤマが理解したのはだいぶ後になってからの事だが、この時の超音波は、よろずガロッツショップを営むグート星人の狩り船の、エンジン音であった。ヒジリヤマの足がまさに屋上のコンクリートから離れた瞬間を狙って、まるでカラスが獲物をかすめ取っていくように、狩り船は光線捕獲網で彼の体をまんまとゲットしたという訳である。


 ただ狩り船にさらわれただけならば、大した不幸ではなかった。何もわからないうちにサクッと加工されて、どこかの宇宙人類の家族の食卓に出されるのであれば、結果としてはマンションの屋上から飛び降りるのと変わらない。

 その狩り船が、本社のある都市惑星にたどり着く前に〈宇宙海賊に襲われる〉という特殊な事態に見舞われた事。これがヒジリヤマの不幸であった。

 茫然自失となって檻の中にへたり込んでいるヒジリヤマの目の前で、ヒジリヤマを捕獲したグート星人が撃ち殺され、どろりと溶けた。

 撃ったのは、巨大なコガネムシを二足歩行にしたような姿のギギ星人。彼こそが残虐非道で知られる宇宙海賊団〈黒渦〉のキャプテン、氷血のヤアゴことヤアゴ=ゼブルバズル本人であった。

 無論この時のヒジリヤマに理解できるはずはない事だが、ヤアゴは、小柄で体重の軽いヒジリヤマを一目見て、「こいつはいい」と思ったのである。

 地球犬、大きさからして少なくともこの先三十年は賞味期間。教え込めば軽作業もできるようになるだろうし、こいつは、万が一の非常食として持ち歩くのに最適なガロッツではないか、と。

 こうして。文字通り首輪を付けられたヒジリヤマは、この日以来ずっと、ヤアゴの携帯非常食として生きている。


 サイレンが鳴った。地球のものとは似ても似つかない、奇妙な打楽器のような音だ。食料貯蔵庫のコンテナの隙間に体を横たえて眠っていたヒジリヤマは、サイレンと同時に首輪に流された電流に驚いて飛び起きる。

 急いでデッキに出ると、宇宙海賊達は手に手に恐ろしげな光線銃を持って小型船に乗り込んでゆく所であった。どうやら近くを通った宇宙船を襲撃するようだ。

 一人の団員に、ピィ、ピッピピィと笛で指示を出され、ヒジリヤマは倉庫に走る。ここに連れてこられて何年(或いは何十年?)が経ったのか、もはやヒジリヤマにはわからないが、笛の指示を全て暗記してすぐに命令を実行出来るようになるほどには、長い。

 笛を吹かれてから十秒余りで、素早く、倉庫から、重いキャプテンの甲冑と溶解銃、弾薬パックを抱えて戻ってきたヒジリヤマだったが、数名の団員を従えたキャプテン・ヤアゴはヒジリヤマの首輪に電流を流した。

 遅い、という事らしい。

「ご、ごめんなさい!ごめんなさい勘弁してくださいすいません!」

 言葉が通じないのは判っていながらも、ヒジリヤマは、ペコペコと頭を下げまくる。連れてこられたばかりの頃、お前もこうしてやるぞ、とばかりに美味しく料理された地球人を見せつけられた恐怖がヒジリヤマには染み付いていた。食われてはたまらない。

 ヤアゴは床に這いつくばったヒジリヤマの頭を、黒光りする鍵爪保護シューズで一蹴りすると、一際豪奢な小型船に乗って、ハッチから標的の船へと向かって行った。

 ヒジリヤマはため息をついて食料貯蔵庫に戻る。もはや怒りも悲しみもなかった。諦めと倦怠感のため息である。

 今日はどれだけ、怒られずに済むだろうか。まだ食われないでいられるだろうか。

 ヒジリヤマの思考はいつしかそれしか考える事がなくなっていた。


 襲撃が終われば酒宴の準備で忙しくなる。暗い貯蔵庫でじっと待機していたヒジリヤマだったが、ふと妙な物音が聞こえた気がして、肩を緊張させた。

 バルルルル、と、小型船のエンジン音にも似ていたが、襲撃に出た団員達が帰って来るには早すぎる。一体何の物音だろう、と訝しんでデッキに出てみた瞬間、ハッチから、ヒジリヤマの見たこともない小型艇が飛び込んできた。

 船に残っていた〈黒渦〉の団員達は混乱したテレパシーを送りあい、わらわらとその小型艇に群がっていたが、バクン、と小型艇の扉が開いた途端、何か巨大な緑色のものに弾き飛ばされた。

 おはようございます みなさま

 緑色のものは、第一宇宙標準文字でそのように表示された電光掲示板を掲げていた。地球人であるが故にテレパシー会話はできないヒジリヤマだったが、第一宇宙標準文字は、ほんの少し、理解できた。食料貯蔵庫の食料にも第一宇宙標準文字で書かれたラベルが貼ってある。もちろん、ヒジリヤマ自身の服にも大きく、

 ちきゅう おす ひじょうしょく

 といったような意味の事が書かれている。

 だが、その文字の意味する内容よりも、ヒジリヤマが衝撃を受けたのは、緑色の巨大な生物に続いて小型艇から姿を現した、もう一匹の生物、だった。

 ……嘘だろう?

 それは、ヒジリヤマがとても久しぶりに目にする、生きた、地球人の女。

「おいおいおい羽振りがいいんじゃないの?これ」

 女はヒジリヤマがとても久しぶりに聞く地球の、日本語でそう言い、自分の背丈と同じぐらいある長い筒を構えた。


「デストローイ!」

 女が叫んだ。手にした筒から粘液の絡んだ網が発射され、〈黒渦〉の団員たちを包み込む。身動きが取れなくなった彼らに、女は中指を立ててみせ、

「オッス!オラ強盗!」

 通じない日本語でそう言った。隣に立つ緑色の生物の持つ電光掲示板には、

 しょくりょうひんを いただきます ごりょうしょうください

 と、出ている。呆気にとられる団員たちの目の前を駆け抜けて、2人はヒジリヤマの居る方に近づいてきた。慌ててコンテナに身を隠したヒジリヤマだったが、

「あっ!」

 見つかった。女に指を差される。

「うわあああごめんなさい許して、許してくださいヒイイイイ」

 泣きながら謝るヒジリヤマを見て、女は緑色生物と顔を見合わせる。

「ダーリン、何でこいつ謝ってんのかな」

 緑色生物はたどたどしい日本語で

「わか、る、ら?ない」

 と首を振った。

「ね、おい、あんた地球人でしょ。食料でしょ。ちょっと、聞いてる?食いもんあるとこどこよ、教えてよ」

「あああ……そ、その奥が食料貯蔵庫になってます何でも持ってっていいから殺さないでくださぁい」

 強盗女に肩を掴まれてヒジリヤマは頭を抱えて縮こまる。長い宇宙生活だ。地球人がこの宇宙で食料品、家畜扱いである事をヒジリヤマは知っている。だが強盗女は地球人のくせに、強盗。それも他の惑星の生き物をダーリンと呼び、海賊船を襲うなんて、ヒジリヤマの理解の範疇を超えている。この広い宇宙で生きた地球人に出会えた懐かしさよりも、恐怖が先にたった。

「ねーねーミルクみたいなのあるといいんだけどー、ある?」

「ああああります右端の棚の上ですううっ」

「やりっ!ダーリン、ミルクとビール持って」

「おれ、それ、赤いの、食べる」

 強盗女と緑色生物は食料貯蔵庫から大量のベンケット星ミルクを始めとして、惑星ビール、ルルサ虫、電気ニンジン、液キャベツなどの食料を詰め込みまくった袋を抱えて戻って来ると、再びヒジリヤマの前で立ち止まった。


「うう……ま、まだなんか用ですか……」

 強盗女は怯えるヒジリヤマを不思議そうに眺める。

「や……あんた何で逃げないのかなぁーって。チャンスじゃん」

 ヒジリヤマは、思いもかけなかった言葉に絶句してしまった。

「……なん…そ、……」

 無理に決まっているではないか、僕の飼い主がどれだけ恐ろしいか知らないのか、だいいちこの首輪がある限り、

 と、そう言おうと口を開いたヒジリヤマの首根っこを緑色生物が鋭い爪の生えた腕でいきなり掴み上げた。

「ちょ、何を……」

 緑色生物は、もがくヒジリヤマを、赤い目玉で見つめると、

「ゆずこと似てるかたち、ちきゅじん、つめ、やらかくて、壊せない」

 パキン。

「あ、あああ……」

 いとも簡単にヒジリヤマの首輪を破壊してしまった。

「やべえ……ダーリン…なんて優しいの!素敵すぎる!鼻血出そう!」

 強盗女はやけにキラキラした目で緑色生物を抱きしめ、緑色生物は緑色生物でそんな強盗女の頭を撫でたりしている。ヒジリヤマは完全に置いてけぼりであった。

「……」

 呆気なく自由になってしまったヒジリヤマはしかし、逃げて、それでどうするのか、何も思いつかなかった。地球に帰る方法なんて見当もつかないし、大して帰りたいとも思わなかった。同じだからだ。帰ったところで、また、どうせ。

 じゃあ、逃げて、どこで何をする?

 ヒジリヤマは、そこで愕然となった。

 何もない。

 僕は、僕自身がどうしたいのかなんて、考えたこともなかった……。

 酷く空虚で、みじめな気持ちに襲われ、ヒジリヤマはその場にへたり込んだ。

 同時に、

「あ!やばい!」

 デッキでハッチの開く音。強盗女と緑色生物が弾かれたように頭を上げた。


 誰かが連絡したのだろう、デッキにはヤアゴの小型船が戻って来ていた。トリモチのような網に絡んだ手下どもの情けない姿を見てヤアゴは激怒し、図々しくも海賊船のデッキに停泊した強盗の見慣れない小型艇の屋根に登り、力任せにその扉をこじ開ける。

 強盗女が駆け戻って来た時には、ヤアゴは黒い爪の先に、不思議な塊を引っ掛けて扉から出て来る所だった。遅れて付いてきたヒジリヤマは、またしても、絶句。

 ヤアゴの爪に引っかかった不思議な塊は一瞬、地球人の赤ん坊に見えた、が、何かがおかしい、緑色で、長い爪を持ち……。

「ちょ、待っ、わかったよ!返すから!盗ったもん全部返すからっ!」

 強盗女は金切り声を上げて、食料の詰まった袋を投げ捨てた。しかしヤアゴは残忍なテレパシーと共に赤ん坊(のような塊)に近づけた爪をかちかちと鳴らして見せる。つまりは人質、という事だ。テレパシーの通じない地球人にも完璧に理解できる、

「にゃあああ!ごめんなさい!悪かったってばぁあ!謝るから!謝るからうちの子離してよォオオオ!」

「う、うちのこ……?じゃあ、じゃあまさか、」

 ヒジリヤマの驚愕の呟きに、背後のコンテナの裏側から緑色生物が答えた。

「ベイビーはうちのこ。おれと、ゆずこの、こ」

「そんな馬鹿な、だって地球人と宇宙人の間に……」

 ヒジリヤマが言い終えるより速く、緑色生物はコンテナの上から、

 跳んだ。緑色の閃光、空中でカーブを描き、宇宙海賊の背後を襲う。

 だがヤアゴも素早くそれに反応し、溶解銃を発射した。ピンクのゲル状の溶解物質が緑色生物を直撃するか、と、ヒジリヤマは目を覆う。ところがそうはならなかった。

「ウルトラカッター!」

 強盗女の投げた電光掲示板が、回転しながらヤアゴと緑色生物の間に割って入ったのだ。白煙が上がって、どろりと溶けた掲示板がヤアゴの足の上に、落ちる。同時に、緑色生物がヤアゴに掴みかかる。金属を叩きつけるような音をたてて、ヤアゴと緑色生物はもみ合いながら小型艇の屋根を滑り落ちた。

「あ、」

 強盗女が駆け寄る。緑色生物に飛びかかられた衝撃で、赤ん坊はヤアゴの手から離れた。離れたのはよいのだが、赤ん坊の小さな緑色の体はそのまま小型艇の扉の中へスルリと落ちてゆく。そして。

「ギャアア嘘ぉ!!アイドリングストップなんかするんじゃなかったァアア!」

 間一髪の所で間に合わなかった。赤ん坊を乗せた小型艇は、強盗女の目の前で浮き上がり、ハッチを半分破壊しながら、凄まじい勢いで、真っ黒い宇宙へと飛び出して行ってしまったのだ。

「ダーリン!シドが!はやく追わなきゃ!」

 強盗女は泣いてはいたが、実に強盗らしく何の了解もなしにヤアゴの小型船に乗り込んだ。

「いまいく」

 床でヤアゴを押さえつけていた手を離し、緑色生物は振り返る。

 同時に、

 このSF活劇さながらの一部始終をただ震えながら見ているしかなかったヒジリヤマの耳に笛の音が響いた。

 ピッ、ピッ、ピピィ

 銃をとれ

「……!!」

 ヒジリヤマはびくりと肩を竦ませた。床に倒れたまま笛をくわえたヤアゴと目が合う。

 ヤアゴの足は、先ほど掲示板が当たったせいなのか、溶けていた。ぎりぎりで届かない位置に、溶解銃が落ちている。

 それを、取れ、と言うんですか……?

 染み付いた非常食としての反射神経が、ヒジリヤマの体を少し動かした。が、ヒジリヤマはそれを押しとどめ、涙目で首を振ったのだった。

「い、いやです」

 ヤアゴの触角が、怒りと驚きにビンと立った。


 長い非常食生活である。今までだって、ヒジリヤマが手渡した武器でヤアゴは宇宙生物を殺していたのだ。なぜ、今、そんな選択をしたのか、ヒジリヤマ自身にもよくわからなかった。

 地球人だから親近感が沸いたのか?

 それもあるかもしれないが、それが全てではないような気もした。だがとにかく、ヒジリヤマは銃を取らなかったのだ。そして、そのせいで強盗女と緑色生物は撃たれることのないまま無事に、ヤアゴの小型船に乗って逃げていった。

 世にも珍しい〈犬の強盗〉が去ったのと入れ替わりに、略奪に出ていた団員たちの小型船が帰ってきたが、宴は始まらなかった。船内は静寂に包まれたまま。しいんと。だが〈黒渦〉の団員たちがテレパシーを飛ばしあっているのはヒジリヤマにもわかった。触角がちらちら動いているからだ。

 幹部だった団員が、床に這いつくばったままのヤアゴに近づいた。触角を揺らす。ヤアゴはじたばたと、溶けていない脚を動かし、何か怒っているようだったが、そのうち静かになってそっぽを向いた。

 やがて、団員たちはてんでに船の中の食料、或いは機械部品、レアメタルなどを小型船に積み込むと、次々にハッチから飛び出して行った。

 最後に、"黒渦"の中では一番ヒジリヤマに親切だった団員が、

 ピッ

 と笛を吹いた。ついて来いという合図だ。しかし、ヒジリヤマは動くことが出来なかった。足の溶けたヤアゴから視線を外すことが、何故だかできない。しばらく待って諦めたのか、その団員も触角を振って船を去っていった。

 海賊船は、動けないヤアゴと、非常食のヒジリヤマただ2人になってしまった。


 がらんとした船の中、ヒジリヤマは呆然と、体育座りをしてヤアゴを見つめていた。

 緑色生物はどうなのか知らなかったが、少なくとも強盗女はこの宇宙で、ヒジリヤマと同じ、食料。日本語を喋っていたことからしてヒジリヤマのようにさらわれて宇宙を放浪するはめになったと考えてまず間違いない。もっと絶望的な表情をしていていいはずだ。 それなのに、あんな、宇宙人と子供までもうけて生きている。

 強盗女がこの宇宙においてが善なのか悪なのかはわからない、ただヒジリヤマは、強盗女の中に、可能性を見た。それはヒジリヤマ自身の中にも存在しているはずの可能性である。

 ようやっとヒジリヤマは自身の行動に合点がいった。

 ああ、僕は、〈可能性〉を守るために銃を取らなかったんだ。

 そっぽを向いていたヤアゴが身じろぎをし、ヒジリヤマをちらと見た。なぜ逃げない、とでも言うように不審そうに触角を揺らす。ヒジリヤマは深呼吸をした。

 その〈可能性〉で何をするか、という部分に関して、ヒジリヤマは答えを持っていなかった。ついさっきまでは。

 足が溶けて、手下に見限られたヤアゴを目にするまでは。

「ぼ……僕は、孤立無援になった生き物の気持ちが、誰よりもわかるんです……地球にいたころ、僕自身が、そうだったから……」

 ヒジリヤマは言った。ヤアゴには通じない、けれど音は聞こえている。紫色の3つの目に、ヒジリヤマの姿が映っている。

「あんたには酷い事をされたけど……さ、されたけど、僕は……これが僕の選択なんです……」

 ヒジリヤマはヤアゴの傍らに膝を付く。首輪がもう無い、ことに気が付いたのか、ヤアゴのクチクラで覆われた鍵爪がヒジリヤマの首筋に、触れた。

 鍵爪は微かに震えている。

「……泣いてるんですか?」

 答えるように、ヤアゴは笛を吹いた。

 ピッピピ、ピッ、ピッ

 食事の用意をしろ。

 ピピ、

 2人分だ。

 落ちぶれた宇宙海賊の船の上、ヒジリヤマの、ヒジリヤマだけが持つ可能性は今、動き出した。


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