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エルヴェはにやりと笑う。
・・・こういうところも実は執事っぽくないのだ。逆に言えば、それだけ砕けた関係と言えばいいのか。線引きしている時のエルヴェは完全な執事だったりする。
──とりあえず、ハロルドはOKなのかな
エルヴェの笑いにそんなことを思っていた俺は、続く言葉を予測できなかったことを後悔する。
「第四執事って話が出た時に、カインが、僕もエルヴェが良い~ってダダをこねたんですよ」
あの時はかわいかったなぁ~なんて余計な一言つきだ。
「なっ、エルヴェ!」
エルヴェの顔を睨むが「ほんとのことだろう」とニヤニヤとされる。
──本当のことだけど、本当のことだけど!ハロルドの前で言われるのは違う!
慌てて向きを変え、むんずとハロルドの胸の辺りの服をつかむ。
「言ったかもしれないけど、子どもの頃の話だから。どうせ家出るだろうし。だったら専任はいらないと思ったのもあるし」
「わかった、わかった」
宥めるようにハロルドに背を撫でられ、俺はハロルドの肩に額をコツンと乗せた。心臓に悪すぎる。
「レモンド家の三番目がお前だったとはなぁ」
背を撫でたまま、ハロルドがしみじみと言う。
「俺のこと、知ってるの?」
俺は顔を上げてハロルドの顔を見た。
「外見とか、名前は知らなかったが・・・ほら、適性検査で」
「ああ、あの時・・」
俺は数年前の騒ぎを思い出した。
現在、この世界は世襲制は皆無と言って良い。適性検査が行われ、適正が高いものが会社のトップに立ったり、責任ある職務についたりしているのだ。
だが、レモンド家は祖父、父、そして俺達三兄弟も経済系の適性検査で高得点を叩き出したのだ。祖父が管理していた会社を父が継いだときもそれなりに騒がれたが、長兄、次兄までも適正で高得点を出し実際に経済の道へ進んだ時にはさらに騒がれた。とどめは俺だ。祖父、父共に俺達兄弟へと英才教育をしたのではないかと疑いを持たれ、実際に調査まで入ったくらいだった。
「てっきり三番目も経済に進んだのだと思ってた」
「ははは」
ハロルドだけじゃなく、俺のことを知らない人はみなそんな風に考えたらしい。
適性検査で高得点を出していても、その道に進まなければいけない訳ではない。進む、進まないはあくまでも個人の意志だ。結果が出た時には既に俺は考古学に出会い、その魅力に既にどっぷりと浸かっていた。
「・・・家を出るつもりって?」
「考古学やるなら家を出なきゃって思ってた」
ハロルドに聞かれて答えれば「そんなこと考えたのか」とエルヴェが呆れた声を漏らした。
「・・・実際には今も家に居るけど」
そんな俺の言葉にハロルドがくっと笑いを漏らした。




