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ハロルドは俺の顔を見て、再度ズィータの顔を見る。もう一度それを繰り返し、何か納得したかのように「ああ」と声をあげた。
「瞳がそくりだ」
「ふふ」
気付いてもらえて、俺は笑いを漏らした。
ズィータは金色の髪、緑色の瞳をしている。そして俺は銀色の髪、青い瞳だ。実は長兄も金髪に緑眼で、父にそっくりなのだ。俺の銀髪は母譲りのもの。瞳は祖父が同じ色だったと聞いている。
そんなズィータと俺の瞳が"そっくり"と言われるのはレモンド家独自の遺伝的なもの。それはまるで白色の薄い膜がかかったような角膜だ。一見、瞳の病気にも見えるそれは何の問題もなく、かつレモンド家男子で優勢な遺伝子で今までは100%の遺伝率と言われている。瞳の色は違えど、その白色の膜がかかったような目がそっくりだとハロルドは言ったのだ。
気付いてもらったこと、それを"そっくり"と言われたこと二つの嬉しさに俺は勘違いを起こさせたことを素直に謝ることにする。
「ハロルド」
「うん」
「勘違いさせてごめん。あの時は確かにエルヴェと通信するつもりだったんだ。だけどちょうど席を外してて、そばにいたズィータが応答したんだ」
「ああ」
俺のまどろっこしい説明でも伝わったらしい。
「それで俺に聞かれた時に兄と答えたんだ」
「そう」
確認するように言われ、頷く。
そして側でいきさつを聞いていたエルヴェを俺は見上げた。
「エルヴェ、そういう訳だからハロルドは悪くないんだ」
「そのようだな。・・・ズィータが元凶のようだが」
エルヴェはちらりとズィータへと視線を送る。エルヴェの視線を受け、ズィータは「はははは」と乾いた笑い声をあげる。
「なぁ」
「うん?」
ハロルドが耳元へと顔を寄せて聞く。
「本当に執事がいるんだな」
「え?」
「いや、職業としてあるのは知ってたけど、身近で見るのは初めてで」
「ああ。・・・それを言ったら、俺はハロルドのようなガイドが初めて」
「そうか?」
「うん」
お互い小声で顔を寄せ合うようにして話す。
「でも、執事って敬語ってイメージがあるんだが」
「話せますよ。当然でしょう」
エルヴェの声が割り込んでくる。小声で話してても側にいた分しっかり耳に届いていたらしい。
「お二人、ズィータ様とカイン様がお子様だった頃、敬語はやめて欲しいと仰ったので普段はやめているだけです。公でお二人をサポートする時はそれ相応の言葉を使用いたします」
「俺にも敬語をやめてください」
エルヴェの口調にハロルドは早々に白旗を揚げた。
それはとてもいい選択だと覆う。普段のエルヴェの口調になれた俺にはエルヴェがかしこまった口調で話していると慇懃無礼に思えてとても落ち着かないのだ。──エルヴェの言葉遣いが間違えているとかではなく、慣れ親しんだ言葉じゃないってだけだ。
「それにしても第3執事っていうのは?」
ハロルドが聞いてくるのに、俺はエルヴェを振り返った。俺が説明するよりもエルヴェ自身が説明した方が早い。
「第1執事はレモンド家の現当主──ズィータとカインのお父上──の家での身の回り及びのお世話がメインだな。秘書が別にいるから会社にはいかない。あとはレモンド家全体の管理。料理の打ち合わせから始まり季節の行事の手配や使用人の管理。その他諸々」
──あ、最後めんどくさくなったな
俺は頭の中で突っ込みを入れる。
「第2執事のスティールは長男アーロン様付き。家を出ている上、会社へも同行しているから秘書的なことも兼ねている」
──どんどん簡略化してきたぞ
「そして私が第3執事。主にズィータとカインの世話だ」
──最後は簡単なんてものじゃない
俺はエルヴェの手抜き返答に大いに呆れた。
質問したハロルドは納得しているのだろうかと心配になり顔を見れば、ハロルドも若干難しい顔をしている。やっぱり最後は不満だろうな。
「ハ、ハロ」
「なんでエルヴェ、あなただけ二人の担当なんだ?」
とりなすように口を開けば、ハロルドはエルヴェへと質問を口にした。
え、不満なんじゃなくて、気になるところ、そこ!?




