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「ズィータ、シップがもう1隻ってなんだ」
センセイがズィータの元へとずずいと寄ってきて問いかける。ズィータの側へってことは俺の側でもあるわけで、俺はセンセイとズィータにはさまれんばかりだ。
窮屈さに身をよじって、何とか抜け出そうとする俺をズィータはしっかりと抑えたまま「アーサー、お祝い。お祝い」なんて軽い口調で答える。
──お祝い?何の?
俺は気になって身動きを止めた。
しかし、
「お祝いってなぁ・・・」
「良いじゃん。オアシス出てから乏しかったでしょ。今日はデザートまでどどんとつくから」
「・・・デザート」
「アーサーの好きなのも用意するよう言ってあるよ~。おかわりもた~~~くさん」
「・・・・しょうがないなぁ」
二人の会話は俺にとってとても抽象的過ぎて、全然、まったく、さっぱり検討がつかなかった。
結局は『無事到着したお祝い??』などとありきたりなことを考えている俺の横でハロルドは「ズィータ、随分とアーサーとも仲が良いんだな」なんて言ってから、はっとなり「そうかクライアントでもあるから」などとぶつぶつ言っている。
「クライアント以前に、子どもの頃からのしりあいだよん♪」
そんな独り言が聞こえたズィータが、また軽い調子で応える。・・・完全にハロルドをからかって面白がっているようだ。
「あ、来た」
俺はズィータの顔を見上げた。その視線の先を追えば、ぽつんと黒い点。かすかだが少しずつこちらに近づいてくる。
「いつまで抱え込んでるんだ」
ハロルドのそんな声がしたと思ったら、ぐいっと手を引かれる。
「ダメだよ。先に聞いちゃうだろ」
完全に体が離れる前に、ズィータがまたしっかりと俺の胸の辺りを抱え込んだ。身長差があるから胸の辺り。むぎゅっと力が入って「苦しい~!」
「聞かない。もうあんな近くまでシップ来てるし」
ハロルドがシップへと視線を振る。
俺はもう一度、シップへと視線を向けた。前よりも大きくなったそれは・・・。
──うちの船?
俺は先程のズィータとのやり取りを思い出した。ズィータの言う“うちの船”は本当に船だったということか?
もうちょっとはっきり見たいと、俺が向きを変えようとした時、
「ぜ~~ったい聞くなよ」
そう言ってズィータは俺の手を離した。
くぃっと手を引かれてぽすんとハロルドの腕の中におさまる。見えるのはハロルドの肩だ。
「ハロルド、ちょっと見せて」
手を突っ張って、ハロルドから距離をとれば「カイン・・・」とショックそうな顔をされる。
「嫌とかじゃなくて、シップ、シップが見たいの」
俺がじたばたとしながら言えばやっと力が緩む。
向きを変えて正面から見たシップはやはりうちの家のものだった。
──うちの船。・・・お祝い。ってことは・・・。




