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遺跡のエリアに入ったのか、それとも少し手前だったのかわからないが、ムゥロの進む少
し先にぼーっと影のようなものが立ち上がったと思うとそれは人の形をかたどった。
「認証コードはありますか」
共通語で話しかけてくる。
一見、無用心にも見える遺跡は最新鋭の警備が配置されているのだ。声をかけてくるのは実際の人の投影ではなく、警備プログラムで作られた人型ホログラムだ。
ハロルドがあらかじめ取得した認証コードをかざせば「青い矢印に従って進んでください」そうアナウンスが流れ、人型は矢印へと姿を変えた。
「・・・ね」
思いついて俺はハロルドのクスコスの端を引っ張った。
「なんだ?」
俺に視線を合わせるほどではないが、ハロルドは聞いているから話せという感じでかすかに振り向く。
「認証コードとってなくて、強引に入ることはできるわけ?」
今までは、シップを利用していたから上空からそのまま停船場へと停まったシップから降りて、誘導に従って見学していたのだ。陸路からだとどんな風になるのか疑問に思ったのだ。
「そうだな。コードがなくても何段階かのチェックを経れば入れるらしいが」
「らしい?何回ぐらい?」
「三回とも、五回とも・・・十回とも説があるな」
「なにそれ」
「あくまでも噂だからな。俺はコードなしなんてしたことない」
「ああ」
言われてみればそうだ。ガイドという仕事なんだから。
「第一、警備の詳細がわかってた方が怖いんじゃないか」
「確かに」
俺はくすくすと笑い声をあげた。
そうこうしている間もムゥロは足を進め、観光用のシップを左目に俺達はどんどんと東側へと来た。と、矢印がまた姿を変える。少しずつ糸が解れていく様な感じで端から水平線に細い線が走っていく。ぐるっと一周して俺達の前で始まりの線へとつながり、大きな空間を区切って示した。
もやもやと影が立ち上がりまた人型をとる。
「このスペースを利用していただきます。シップの停船は一度に3隻までです。今から操作盤を表示します」
人型が手を胸の前に出すとその手の上に5、60センチ程のディスプレイが出てくる。実際に実体化したものではなく、こちらもホログラムなのだが指を滑らせるとその動きで反応して操作ができるのだ。──これは今まで来た時、グループに一台示されたことがあり操作は体験済みだった。
「しばらくは二台使いたい」
センセイが話しかける。
「わかりました」
返事が終わった時には、操作盤はもう一枚増えていた。
センセイが操作盤を引き寄せ──ちゃんと寄ってくるのだ──すっと指を滑らせる。
「予定通りだ。後は頼む」
俺は頷き、もう一つの操作盤へと手を伸ばした。
井戸の地下同様、いざと言う時に人が避難し寝泊りし生活できる空間はこの遺跡前の大きな砂漠の下にも眠っている。が、それはあくまでも緊急用。十日足らずの簡易的な調査とはいえ、さすがにテントに寝泊りするわけにはいかないだろうと、到着次第簡易のハウスが届けられることになっているのだ。昨日の段階で荷を積んだ大型シップがオアシスに到着していて、連絡を受けたら出発することになっていた。
実際、センセイから引き継いだデータには二つの点が少しずつだが、動いてきている。昨夜の打ち合わせ通り、大きな点へ停船場の座標を知らせる手配をした。画面に"了解"と出たのを確認し、次の小さめの点へも座標を知らせる。
ちらりとセンセイ達を見れば、操作盤を覗き時に操作をしながら二人で何か打ち合わせをしているようだ。
ハロルドはと逆方向へ視線を走らせると、ムゥロ達から荷物を降ろしている。
俺は駆け寄り「博士、ここに置いて良いって?」と確認した後、頷くのを見てそれを手伝った。




