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「・・・お前、はぁぁ」
ハロルドが呆れたように言って、ため息をつくのに俺はピクリと肩を揺らした。
と、ハロルドが間をつめて俺の肩口へとその額を乗せる。
布越しに感じるかすかな温かさを俺は振りほどくことは出来なかった。
硬くなった俺の体と壁の間にハロルドは手を入れる。背がかすかに浮いた。宥めるように背中を撫でられる。
「・・あのなぁ・・・。俺の仕事ってのは口コミが多いんだ。旅の途中に粉かけられて手を出すようなことがあればすぐに広まっちまうんだ」
「・・・・」そういうものなのかと俺は心の中で思いながら聞いていた。
「そんな意味で体を使ってまで仕事は欲しくないしな」
その言葉に、思わず頷く。言われてみればそうだと思う。誰だって、ハロルドだって。
「で、でも。俺には」
がばっとハロルドが顔を上げた。しっかりと俺の目に視線を合わせてくる。
「ああ・・・本当はラファニャーランに着いてから口説くつもりだったんだ。契約が切れたら」
──そうだったのか?
俺は視線で問いかけた。
それが伝わったのだろうか。
「それなのにお前は当然のように同室だろうなんて言うし。好かれていると思ったら」
我慢できなかったとぽそりと付け足すのが聞こえる。
『俺?俺が悪かったのか?部屋が同室って?』心の中で疑問を感じつつ、嬉しさに「ハロルド!」とその胸に抱きついた。
腕に力を込めてきゅっとしがみつく。
「カイン」声をかけられてハロルドの顔を見上げる。
真剣な瞳に、唇が重なる予感を覚えてまぶたを閉じれば、コツンと額に衝撃を感じて目を開ける。
目の前にハロルドの顔があった。近すぎて瞳を見続けるのがなかなか照れくさい。
ついつい視線をずらすと「おい、あれは誰だ」と聞かれた。
視線を戻して「あれって?」と聞き返す。あれと聞かれる人物に全く心当たりがなかった。
が、ハロルドは追及をやめる気はないらしい。
「お前に愛してるって言ってたやつ」
「はい?」
とぼけるつもりはなかったのだけど、思わず聞き返してしまう。
と、気付いた。
「ああ、あれは兄だ」
「兄?」
「うん。次兄。・・・・・ハロルド、あれ聞いて機嫌が悪くなったのか」
今更ながらに気付き問いかければ。盛大に呆れた視線を送られた。
「部屋に帰ったって聞いて帰ってみれば、愛してるなんて言われてたらかーっとなるだろう」
「そっか、そうだったんだ」
向けられた怒りの理由がわかり俺は少しだけ口元を緩めた。なかなかに気分がいい。
「ぼろぼろ泣いていたくせに」
ハロルドが面白くなさそうに、ぼそりと言う。
それにかーっと顔を赤らめた。忘れて欲しい。
「お前、俺のこと好きすぎるだろう」
得意そうに言われて、俺は絶句した。




