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「カインが怒鳴ってるの初めて聞いたわ~」
センセイののほほんとした声に俺は下げていた顔を上げた。正直自分でもびっくりしていて、返す言葉もない。
「アーサー」
とりあえずドアを開けたものの、どんな声をかけたらいいのかわからないのだろうハロルドはセンセイの名前を呼んだだけだ。
「泣かすなと言ったのに」
センセイはハロルドの背の辺りをぽんと叩いてずずいと部屋の中へと足を進めてくる。
俺は慌てて、目じりを拭う。興奮しすぎた。
三人して口をつぐんだままで空気が重い。
堪えきれずに「センセイ、どうしたの?」と口を開いた。
「熱出したんだろう」
「あ・・・」
すっかり忘れていた。慌てて額に手を当てれば熱ぽっさはない。歩き回っているうちにこもっていた熱が放熱されたのかと首を傾げる。
「大丈夫そうだな」
センセイが苦笑いするのに、俺は頷いた。
「じゃ、予定通り夕飯はいけるな」
センセイがハロルドと俺の顔を交互に見ながら言う。
「アーサー、俺はちょっと」
ハロルドが切り出すのを聞いて、俺は肩をピクリとさせハロルドの顔をあわてて見た。
確かに気まずい。が・・・。
「却下だ」
「だが・・」
「人数の変更はできないよ」
──先程まで俺の体調を気にしていたのだから、実際にはできると思うけど。
心の中で思うだけで、口にはしなかった。
「さ、用意したした」
センセイの声に俺達はしぶしぶと支度をはじめた。




