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「愛してるか・・・」
ぽそりと呟きながら、俺は片づけを始めた。もう一度通信しようとしても応答はないだろう。
家族の愛に触れて、心がじんわりと温かくなっている。見放されないという安心感。それは今の俺にはありがたいものだった。
「あ・・」
すべてを袋にしまい、さあ中へ入ろうと振り返り、思わず声が漏れる。
ハロルドがいた。窓枠に寄りかかり腕を組んでこちらをにらむようにして見ている。その視線の強さに俺は身をすくませる思いがした。
生まれてから今まで、こんなに強い視線を受けたことはない。
どうしたものかと挙動不審になっている自覚はあるがおたおたとしながら、それでも「か、帰ってたんだ」とぎこちなく笑みを浮かべながら言った。
「え・・ちょっ」
舌打ちの音がしたと思ったら、次の瞬間とてつもなく強い力でハロルドのそばへと引き寄せられていた。
びっくりして、つい抗議の声をあげる。それとともに腕をつかむ手を振りほどこうと体をよじり腕を振るが外れない。
「放せよっ」
大声で言う。めったにないことで、息切れがしそうだ。それでもこの理不尽な仕打ちが腹立たしい。
ハロルドの視線がますます強くなる。
「愛しているって言われてたな」
その言葉にはっとする。
「聞いてたのか?」
もちろん聞かれて困るような話は一つもしていない。それでも聞かれていたと思うといい気はしない。ハロルドの顔をにらみつける。
「姿が見えないから、あちこち探して」
「あ・」
さらにギリギリと腕をつかむ手に力が入り痛い。心配をかけていたことを知り、その点では俺も反省をする。・・・が。
「それは謝る。が、腕放して。痛い」
「戻ってみたら、他の男に」
腕をつかむだけでなく、がくがくと体をゆすられる。
「人聞きの悪い、あれは・・。痛いって、やめろよ」
こんな人ともみ合うことなんて今までなくて、正直頭がぐらぐらとする。大声で怒鳴りあうのも初めてで、俺の目は潤み始めていた。
「とりあえず一度放せって」
俺が再度大声を上げたとき、部屋のチャイムが鳴った。
思わず二人で顔を見合わせる。大声を上げすぎた為の苦情か?ととっさに思う。
──どうする?
といわんばかりに、ハロルドと視線で会話をしていると「いるのはわかってるんだ。こっちまで声聞こえてたぞ」とノック付で言われる。
「センセイ・・・」
俺は声の主の名をぽそりと呟いた。
「早く開けなさい」
ハロルドが手を放しドアへと向かっていく。俺は自分のベッドにへたり込むように座った。




