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手をかざしロックを解除する。
もどかしい気持ちで履いていたブーツを脱ぎ、それでも棚に揃えて置いた。
置き方が雑だったのか、自分のベッドへと足を進めている時にごとっと音がしたので『落ちたな』と思った。
バッグの口を開け、弾力のある袋を取り出す。袋の中はいくつかの仕切りがあり、その仕切りも弾力性に富んでいる。その仕切りの一つに俺は指を入れた。
指の腹にひやりと冷たくて硬いものが触れる。俺はそれをそっと取り出し、左の手のひらに転がした。
クリスタルの塊だ。通信機を使っても良いのだが、今回はこだわってプログラミングをしてみた。出発前の実験ではしっかり通じたので大丈夫だろう。ただ、距離が距離なので増幅器が必要となる。
俺はちらりと室内を見渡した。そしてテラスを見る。室内よりも、外の方が良いかもしれない。
テラスへの窓を開けて、クリスタルと袋を持ったままテラスのテーブルへと足を向けた。
テーブルの上にクリスタルを置き、袋から増幅用のアンテナを取り出し広げる。他に必要なマイクとスピーカーから伸びる線をペタリペタリと貼り付けた。
部屋の中の椅子の上からクッションを持ってきて、椅子へと腰を落ち着ける。
数度深呼吸をしてから目を閉じる。クリスタルに波長を合わせながら回線がつながるイメージをする。
『なに、なに?』
スピーカーから声が聞こえる。しかし、それは予想していた声ではなかった。でも、聞き覚えがある。
「ズィータ???」
恐る恐る声をかけると『カイン!?』と応えがある。
『ああ、これ通信機かぁ』とズィータは納得した様子だ。
「エルヴェは?」
俺は肝心なことを聞いた。
『お茶淹れに行った。たった今』
「お茶・・・」
『間が悪いよね~』
呼んでやろうとか考えないのがズィータらしい。ズィータにこそ今回の旅で知った粉茶を教えたい。ってか、買って送りつけよう。そう心に決める。
『そっちはどう?』
「・・・・ん」
俺は言葉に詰まった。何を言えばいいかを考える。
「・・・順調だよ」
『そう?今はオアシス?』
「うん」
『アーサー達は元気?』
「うん」
『"うん"ばっかりだ』
向こう側でズィータがくすくすと笑う声が聞こえるのに釣られて、おもわず俺もくすりと笑いを漏らした。
『エルヴェじゃなくて良かったな』
「え?」
『エルヴェじゃなくて?』と思い聞き返す。
『そんな声してたら、すぐ飛んでくぞ』
「え、そんな声って?」今度は口に出して聞いた。
『自覚ないんだ。さすが』
ズィータの言いたいことがわからなくて、俺は首をひねる。わかるようにと催促しようと思ったときに、増幅器のランプが点滅し始めた。
「あ、ズィータ」
『なに?』
「時間が・・・新しいのを準備するから待って」
『いや、良いよ』
「良いって・・・じゃ、もう少ししたら」
『やめとけ。通信するなら・・・そうだな2、3日たってからにしろよ』
「え・・・」
『通信しても応答しないからな』
「ズィータ・・・」
『情けない声出さないっ。旅が続けたかったら言うとおりにする!』
「わかった」
勢いに押されて、思わず返事をする。
『あ、こっちも点滅し始めた。なにこの時間差。じゃ、な。愛してるぞ』
ザザザザとノイズが入り始めたと思ったら、あっという間に激しさが増してくる。
「俺も!」
俺の言葉はズィータに届いたのか?




