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黄茶色の樹皮、幹に絡まる蔦と葉の緑。時々、それに花の色が添えられる。目を落とせば、下には草が青々と茂り、そこにも時々花が見える。時々香ってくるのは花の香りではなく、果樹の甘みの増していく匂いのようだ。
──すぐそこは砂漠なのに
『すごいな・・・』
さすがに口にすることはなかったが、俺はこの青々とした空間に感心するばかりだ。
体のこともあり、ゆっくりゆっくり足を進めていく。そしてできるだけ丁寧に目で様子を見て、時々頬に触れる風を感じ、さわさわと葉のこすれる音と自分の足音を聞いた。
『行き詰ったときは問題を細分化するんだ』
エルヴェに言われた記憶がふと浮かぶ。
『細切れにしたら全体がわからなくなりそう』
そう反論した俺に『こういうのは苦手そうだよな』と笑っていた。
ぐるぐると考えるタイプの俺なのに、実は問題を見つめて見つめて見つめるというのは苦手だった。今までだっていろんなことがあったのに、ふとした思いつきで乗り切ってしまった感が強い。
でも、こうやって歩いているときに思い出したということは、ちょっとやってみた方がいいということなのだろう。
俺は不慣れながらも、できるだけ丁寧に問題を見つめることにした。
途中からは周りを見る余裕はなかった。
独占心、嫉妬、不安、疑惑いろんな感情が自分の中から湧き出てきて、それを見つめるのに精一杯だったのだ。
ふと自分に『今、どうしたいのか?』と質問をする。
間もなく『好きだ。そばにいたい』とキッパリと思った。それが答えだ。
その頃にはぐるっと一周する遊歩道の2/3以上足を進めていた。
──そう言えば
答えが出て、すっきりとした俺の頭に別のことが浮かんだ。
『結局連絡していなかった・・・』
センセイに指摘され、部屋に戻った後にするつもりだった連絡をすっかり忘れていた。
俺は少しだけ足を速めてホテルへと戻ることにした。




