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ゆっくりと廊下を歩いていく。つるつるに磨かれたガラス面に映る自分の姿を見て、どこか不自然さはないかぎこちなさはないかを確認する。歩みは遅いものの大丈夫そうだ。

階段を上がり、ループしていく廊下を進んだエントランスホール。ゆっくりなので壁際を若干うつむきながら進んでいると、声が聞こえた。

「だから、部屋を教えてよ」

「すみません、仕事中なので」

「仕事って言ったって、夜はプライベートタイムでしょ」

「同室者がいますから」

男性と女性の声で、その男性の声に聞き覚えがあり、足を止める。自分のように二人のやり取りに足を止めた人が数人いて、そのうちの一組は俺と声の主達との間にいるようだ。少し体をずらして、こそっと様子を見れば、やはり思ったとおり男性はハロルドだった。

「じゃぁ、部屋を取るから今夜は付き合ってよ」

相手の女性は──レストランの前であった女性だ。焦れたように言う。

「すみません」

ハロルドが頭を下げるのにぽそりと「据え膳なら食っちゃえば良いのに」と傍観者の誰かが言ったのが、ホールに響いた。それが彼女に耳にも入ったのだろう我が意を得たりと「ね、ね」とハロルドの腕を取ってねだるように言う。

「申し訳ありませんが」

ハロルドの声に苛立ちが混ざった気がする。そして、ハロルドは腕にかけられている手を解いた。

「なんでよ」

彼女が不機嫌そうに言う。

「あーあ、引くに引けなくなっちゃってるよ。ギャラリーいるし」

「いや、周りの雰囲気でとりあえずうんと言わせようって感じじゃねぇ」

俺のそばにいた二人組の一人が、ぽそぽそと言うのが聞こえる。が、さすがにあちらには届いていないようだ。

「夫に言うわよっ。あなたに軽くあしらわれたって」

「うわ・・・すごい発言」

「俺、旦那の顔がみてみたいかも」

さらに二人組みが会話をする。

聞いていて、いい気持ちがするものではない。俺はこの場から離れる決意をした。一歩後ろに下がる。

「言ってもらってかまいませんよ」

「何ですって!?」

ハロルドが返事をするのにとうとう彼女は声を荒げた。自分の思うようにいかないのが気に入らないらしい。

「それに俺、恋人がいますから。こういう誘いは困ります」

ハロルドがきっぱりと言った言葉が、俺の胸をえぐった。

──恋人いたんだ・・・

「ここにいない恋人なんかより、私の!」

居たたまれなくなって、自分の足が動かせる最大の速さで俺はその場所を後にした。

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