40
「風呂は大好きだ」
改めてそう言いながら俺はハロルドの横をすり抜けてバスルームから出る。
「テラスに出ても良いか?」
そう言いながらも、返事を待たずに部屋を横切って大きな掃き出し窓へと足を向ける。
背中に「いいぞ」とハロルドの返事が飛んできた。
窓を開けながら、ふと気づく。部屋の床とテラスの床材はもちろん違っていた。部屋に入った段階で履いていたワークブーツは脱いで俺は靴下のままだった。──ポーターに部屋履きを勧められたが遠慮したのだ。ハロルドはちゃんと部屋履きをはいている。
ガラス枠へ片手でつかまったまま、もう片方の手でぐいぐいと靴下を脱いぎ、ぽいと自分のベッドへと投げる。そっと、足を踏み出した。
テラスにもテーブルと椅子が二脚置いてある。それが邪魔にならないくらいの広さだ。まっすぐ、テラスの手すりへと足を進めて俺はまた「うわぁ」と声をあげた。
テラスの向こう側は湖だった。それは部屋からも充分見えていて、俺はテラスのすぐそこが湖だと思っていたのだ。だが、実際には──。
テラスの手すりが高めなのが、気になっていた。その理由に納得する。
すぐそこは湖ではなかった。下を見下ろした先に湖のふちが見える。見下ろすほど、テラスと湖からつながっている地面が離れていたのだ。
振り返ると、ハロルドが「面白いだろう」と声をかけてきた。それに無言で頷く。
もう一度湖を見ようと顔を戻そうとした時、テラスの端に階段があるのに気づいた。
「下りても良いか?」
「ああ」
今度は返事を待ってから、階段へと足を向ける。
「っ」階段の上段に立って、その長さに俺はびっくりして言葉をのんだ。ざっとみても20段以上ある。一段一段の高さが低めだからなのもあるだろうが、それにしてもやはり長い。長いというのはそれだけ高さがあるということだ。
「見てみろ」
十段近く下りたところで、ハロルドから声をかけられる。ついてきていたのに気づかなかった。
ハロルドのそばへと数段戻り、近づく。指し示す先を見れば、うっすらとした線がある。
「今年はここまで水が上がったんだ」
「はぁ?」
俺は意味がわからず、間抜けな声をあげた。




