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──恥ずかしい
俺は膝を抱え込んだ。膝頭に顎を乗せて、はふとため息をついた。
『世間のことを知らないでしょう』
エルヴェに言われた言葉を思い出す。
『本当に・・・温室育ちだから』
歯に衣着せぬ言いっぷりに、俺は半分自覚を持ちながらも『うるさい』と反論をしたのだ。
実際に歳の半分以上がセンセイや博士を初めとしたあの研究室での記憶なのだ。もちろん学校に行ってそれなりに友達もいた。学年なりのキャンプに参加したり、旅行に行ったりもしていたし、放課後に遊びに行ったりもしていた。だが──友人達に比べて、一直線だったことは間違いない。環境もあって、アルバイトなどすることがなかったのも大きいかもしれない。研究室に行って、行って、行った結果、気づけば助手の席に納まっている。それは、傍から見れば生ぬるいものなのだろう。ふとした瞬間に、成熟できない子どもっぽさがポロリと出てしまうのだ。
座り込んで数秒の間に、そんなことが一気によぎっていった。
──いけない
このままだと、どんどんと落ち込む一方だ。自分にダメ出しをしてぐるぐるしても、変わらないのは知っている。
俺はぶんぶんと頭を振って、すくっと立ち上がった。二度、三度と深呼吸をする。
閉じていた目を開けると、バスルームが目に入った。
「うわぁ」
思わず声が出る。思っていたより大きい。自宅の風呂に比べれば半分もないかもしれないが、透明のガラスがしっかりとシャワーブースと浴槽を分けている。シャワーだけのところが多いと聞いていたので、期待をしていなかった分嬉しい。夜はしっかりと湯を張って疲れをとろうと俺は決めた。
「おい」
控えめなノックの後に声をかけられる。
「なに?」と返事をしながら、バスルームのドアを開けた。
俺がバスルームに閉じこもっている間に、どうも着替えを済ませたらしい。ハロルドはクスコスを脱いでざっくりとしたシャツを身に着けていた。
「いや、今変な声がしたから」
「・・・変な声・・・」
一応、心配して声をかけてくれたらしいが、変な声といわれると複雑だ。
「風呂が広かったから、つい」
そう素直に言うしかない。
「で、夜、浴槽に湯を張ってのんびり入ってもいいか?」
ついでに先手を打っておく。
「構わないぞ。・・・お前風呂好きなのか」
ハロルドが微妙な顔で聞いてくる。その微妙さがちょっと気になったが、それについては触れることなく俺は大きく頷いた。




