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「ハロルドはそういう経験ないわけ」
俺は少しだけ身と顔をハロルドの背と顔に近づけて聞いた。ムゥロの背の上で聞き取りづらいかと思ったのだ。
「すぐに思い出すようなのはないな」
ハロルドが即答する。
先程の休憩時間、それぞれが思い出すと「わーー」となる話をしたのだけどハロルドはしなかった。
ハロルドはガイドという仕事での同行だから、こういう時の盛り上がりは少し離れたところで静観していることが多い。
「ハロルドは?仕事柄意外とそういう話多そう」とセンセイが水を向けたが、さっきと同じで「すぐには思い出せない」と言って話すことはなかった。
確かに落ち着いてはいる。が、駆け出しの頃とか慣れてない時には何かあってもいいと思うのだが。
「本当に?」確認するが「本当だ」と取り付く島もない。おれはすごすごと引き下がるしかない。
「お前こそ、さっきは何を思い出してたんだ?」
「え、俺?」
先程は盛り上がりすぎて、突っ込まれずにいたことを聞かれる。
「あーー、ねーーー」
俺はごまかしながら地平線を見た。察したのだろう、ハロルドは突っ込んで聞くことはなかった。
基本的には二度目の移動先で昼食と長めの休憩をとることにしている。その頃は一番陽が高くなる頃なので、日よけの下で大人しく過ごす。暑いにもかかわらず、ぼーっとしているうちに気がついたら寝てることが多く、昼寝の時間と言っても過言ではないかも知れない。
ローテンションさせ、人を乗せないムゥロに手分けして荷物を背に乗せる。
終わったところで、先に背に乗っているハロルドの下へと足を向けた。乗り合わせはすっかり固定だ。
出される手をガイドにハロルドの後ろへと乗ろうとすれば、前へと誘われた。
「なんで?」
「気分転換だ」
「なにそれ」
そんなやり取りをしながらも、後ろじゃなきゃ嫌だってわけでもないので大人しく前へと座った。
出発してから数分。
──落ち着かない
へんな動きをしないようにと意識してしまい背中に力が入っている。多分、ハロルドにもバレバレだろう。
「なんだつまらないな」
「面白さを求めるな」
きっと俺がワタワタとするのが見たかったのだろう。言いながらながらハロルドを振り返ると陽が目に入ってかなりまぶしい。
こいついつも陽を背負ってるなと思いながら、顔を前に向け気付いた。
──日除けだ
うわ~と思うと同時に顔に熱を持つのがわかった
「おい、耳が赤いぞ」言われてそんなところまで!?と思いつつ「何でもない!」と声をはりあげた。




