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ほへーーと感心するばかりだ。
「カイン、ほら」
ルパートが寄ってきて腕をとった。
「ええええっ」
いつの間にかルパートも参戦していたらしく、ずぶ濡れだ。
「ほら、濡れちゃったんだから」
言われて捕まれた腕をみれば、確かに手の周りの布が色が変わっている。
ほらほらと言われて、「いや、俺は・・・」と言い返すも、聞いてもらえずぐいぐいと引っ張られる。
諦めて俺は立ち上がった。
「ほらほら、たらいを広げて。ソープも忘れるなよ」
ルパートは今度は俺の後ろへと回り、背中をぐいぐいと押して荷物の方へと押しやる。
「タオルも出しておけよ」
乗り気でない俺の背へバートの声が飛んでくる。
俺は諦めてバッグへと手を伸ばした。
濡れそうもないところへとタオルを置いた途端、ぐいっと腕を引っ張られるとともに手にしていたたらいを取り上げられる。
「え・・・」
戸惑っている間に、ルパートがたらいへとがんがんと水を汲み上げている。
と「目をつぶれ」掛け声がしたと思ったら、ざばーっと勢いよく水が飛んできた。
目をつぶるのが遅くなり、しっかりと水が目に入った。
飛び込んできた分、痛みがある。
ごしごしと目をこすってから、ぱしぱしと瞬きをする。
つつつーーーと髪からしずくが落ちてくるのを感じ、慌てて顔をうつむければびしょぬれの服が目に入った。
それはぺたりと自分の体にくっついている。
今まで、服を着たままにこんなびしょ濡れになったことはない。
他の皆は楽しんでいるけれど、俺は楽しいよりもブルーな気持ちが強い。
「まるで濡れたリャウラーンのようだな」
声の主はわかる。ハロルドだ。
リャウラーンというのはとても毛足が長い小型の愛玩動物なのだが、体を洗おうと毛を濡らしてみれば体の大きさは見た目の1/3くらいしかないのだ。
見てくれに反して実際の体の大きさをこの動物に例えられることが多かった。
また、しずくがつつつーと走るのを感じた。
腕で顔の辺りを拭っていると「いじめんなよ」というルパートの声が聞こえた。
──らしくない
我ながらそう思うのだが、濡れたままというのがダメージになっているらしい。
『陸路なんかじゃなく、センセイ達が着いたころにシップで来ればよかった』
本気でそこまで思った。
「ハロルド!泣かすなって言っただろう」
センセイの声が耳に入った。
「な、泣いてませんっ」
慌てて顔を上げて否定する。センセイがにやりと笑った。
その人相の悪さに、うろたえてハロルドの顔を見れば、ハロルドはなんともいえない顔をしていた。
「泣いてないぞ!」
顔を近づけて、ほらほらとアピールする。
ハロルドははっとした顔をして、俺の顔をまじまじと見た。
「泣いてないだろ?」
「そうだな」
ちょっとだけ気の抜けた返事をしてから、ハロルドは手をぐいと出してきた。
「ソープよこせ」
「?」
俺は言われるままにボトルを手渡した。




