第9話 本当の姿
第9話 本当の姿
森の空気が、重く沈んでいる。
倒れた魔物たちの向こう。
森の奥から、さらに濃い気配が近づいてくる。
さくらは思わずセレンの袖を掴んだ。
「……まだいるんですか?」
セレンは森を見つめたまま、小さく息を吐く。
「ええ」
静かに答える。
「しかも、さっきより強いヤツみたいね」
近づく気配と同時に森の奥の木々が大きく揺れた。
ドンッ!
巨大な影が飛び出す。
さっきの魔物よりも、二回りは大きい。
黒い毛並み。
鋭い牙。
そして赤い目。
さくらの顔が青くなる。
「……大きい」
魔物は低く唸り声を上げた。
その背後から、さらに数匹。
完全に囲まれていた。
セレンの表情が静かに変わる。
(これは……)
普通の魔物の群れじゃない。
明らかに誰かに誘導されている。
だが今は、それを考えている場合ではない。
魔物が地面を蹴り一斉に飛びかかってきた。
セレンは一歩前に出る。
だが、その瞬間一匹が横に回り込んだ。
「さくら!」
セレンが叫ぶ。
魔物が牙を剥きさくらに飛びかかる。
セレンの魔法が、強力な風を巻き上げ空気が震える。
だが、セレンの表情は苦かった。
(この姿では……)
魔力の出力が制限されている。
さくらを守りながら、この数を相手にするのは難しい。
一瞬だけ迷う。
そして――
決断した。
セレンは静かに言った。
「……仕方ないわね」
セレンがなにか言った気がしたが聞き取れなくて聞き返すさくら。
「セレン?」
セレンは振り返った。
いつもの優しい目。
だがどこか覚悟がある。
「少し驚くかもしれないけれど」
小さく微笑む。
「安心して」
次の瞬間。
セレンの体が光に包まれた。
風が強く吹く。
長い髪がふわりと揺れる。
そして――
光がおさまると、そこに立っていたのは、今までのセレンとは違う姿だった。
すらりと高い背。
短めの銀の髪。
整った顔立ち。
女性の姿ではない。
中性的な、美しい青年だった。
さくらの目が大きく見開かれる。
「……え?」
言葉が出ない。
突然現れた青年に魔物は容赦なく飛びかかる。
だが次の瞬間。
青年は、ゆっくり手を上げた。
「――遅い」
静かな声に反応するように空気が凍る。
バチッ!
雷のような光が走ると、魔物が一瞬で吹き飛んだ。
その勢いのまま地面に叩きつけられる。
さらに手を振ると風の刃が走る。
さっきまでと威力が全然違う。
そして残りの魔物が次々と切り裂かれていく。
数秒。
だったそれだけだった。
1番大きな魔物が砂埃を巻き上げて倒れたのを最後に森の中には、もう動く魔物はいなくなった。
静寂が戻る。
さくらは呆然としていた。
青年が振り返る。
その目は、少し困ったように笑っていた。
「……驚いた?」
さくらの口がやっと動く。
「えっと……」
混乱している。
目の前の人を見る。
さっきまでの
魔女セレン
ではない。
だが、その目は同じだった。
「……セレン?」
セレンは苦笑した。
「うん」
静かに頷く。
「僕だよ」
さくらはさらに混乱する。
「男の人……?」
セレンは肩をすくめた。
「そう」
少しだけ申し訳なさそうに言う。
「……黙っていて、ごめん」
森の風が静かに吹いた。
さくらはしばらく何も言えなかった。
だがやがて、小さく言う。
「びっくりしました……」
一瞬だけ、不安がよぎる。
それでも――
「でも」
セレンを見る。
「セレンですよね?」
セレンは一瞬驚いた顔をする。
「……うん」
「よかった」
さくらはほっとしたように笑った。
「いつも助けてくれてありがとう」
その言葉に、セレンの目が柔らかくなる。
だが次の瞬間。
さくらの体がぐらりと揺れた。
「……あれ」
視界が歪み足元がふらつく。
「さくら?」
セレンがすかさずに支える。
「大丈夫?」
さくらの体は異様なほどに熱かった。
(これは……)
さっきの魔力の影響だ。
さくらは意識がぼんやりしていた。
「セレ…ン…」
セレンはすぐにさくらを抱き上げた。
「帰るよ」
真剣な声。
森の家へ向かって走る。
腕の中で、さくらの呼吸が荒くなっていた。
セレンの胸に、不安が広がる。
(さっきの力……)
普通じゃない。
そして狙われたさくら。
群れる魔物はを操っている誰かがいると思うとたださくらを狙ったのは非戦闘要員だからなのか、はたまた別の意味があるのか……。
嫌な予感がする。
森の奥。
封印の眠る場所。
そこから、微かな光が漏れていた。




