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編入試験と電能遊戯2

 俺は案内されて、美穂が電能遊戯試験を受けている場所に向かった。その場所は意外にも学校の体育館だった。いや、単に俺が電能遊戯を基地のトレーニング施設でしかやったことがないから意外に感じられるだけかもしれない。


 体育館の中央に大きなモニターが設置されていて、前方のステージで二台のパソコンが向き合うように置かれ、そこに両者それぞれが座りマウスを動かしキーボードを叩いている。


「どうかね、凛補佐官から見て私が用意した対戦相手は」


 俺は既に対戦相手の方に視線を向けていて、動作を微細に観察していた。眼球運動、マウスやキーボードの操作速度と正確性、戦局による表情の変化。どれも隙がない。


「優秀ですね、基地に居た幹部クラスかそれに近いものを感じます」


 そして視線を美穂にうつす。対戦相手を観察したのと同じように動作を見る。


 そこから、美穂はアトラスシステムの処理能力を半分程度まで解放していることが分かる。意識をアトラスシステムに渡さずに行使出来る限界値が五十パーセント。


 これでも幹部クラスかもしくはそれ以上の情報処理能力──普通なら押し切れるはずなのだが、モニターに表示されている形勢はほぼ互角だ。


「──厳しいですね」


 あの対戦相手、なにかでかなり集中力と持久力が強化されていて美穂の猛攻にも耐えている。こうなるとなにより厳しいのは美穂の体力になる。見れば額から汗が滴り落ちていてやや呼吸が乱れている。


「国から機密と書かれた資料が送られてきていてね。アトラスシステムの詳細もある程度は把握している」


 美穂がアトラスシステムに完全に意識を渡さないのにはリスクがあるからだ。そのリスクなしでも彼女は補佐官である俺が居ない状態ではトリガーを引かない。


「俺と美穂を引き離したのはそういう意図ですか」


「さあ、どうだろうね。しかしどう出る凛補佐官」


 一瞬美穂の視線がこちらを捉える。俺はそれを合図だと受け取って自分の脳内にある彼女のアトラスシステムに接続するための神経回路を発火させる。


 ──凛補佐官による接続を確認。形勢、神里電能官の状態から神里電能官の意識のシステムへの完全譲渡または補佐官の処理能力の六十パーセントをシステムに譲渡することを推奨します。


 俺は後者を選択した。半分以上となるとかなりの反動が来そうだが、慣れたものだ。


「ほう、これが」


 直後、美穂の動きが凄まじい加速を見せる。一方の対戦相手は強化が切れたのか失速し一気に押し込まれて負けた。


「美穂、よく耐えたな大丈夫か?」


 決着がついた後、駆け寄ってくる美穂の頭を優しく撫でて言った。しかし、彼女は逆にこちらを心配そうに見上げる。


「凛くんこそ」


「俺は大丈夫だよ、ただ美穂が早く決着をつけてくれなかったら危なかったけどな」


 強がってはみたものの久しぶりの譲渡の使用は中々こたえるものがあった。気を抜いたら膝をつきそうだ。


 彼女は小さな色白の手の平を俺の頭にポンとのせて同じように撫でる。


「ごめん、凛くん」


 今にも消え入りそうな小さな声で彼女は言う。彼女は俺が譲渡を使うことを極力避けられるように戦う。対して俺は彼女に譲渡を積極的に使いたいと思っている。


 電能官として戦いの時は補佐官である俺をこき使うくらいしても良いのだが、そうしないのは彼女なりの俺への思いやりなのだ。


「試験は終わりですか?」


「ああ、二人共合格だ」


 それを聞いてから俺は美穂の手を取って彼女に笑顔を向ける。


「帰りにどこかで甘い物でも食べて行こう」


「わあ、良いの!? じゃあパフェ食べたい、あと今日の夕飯はすき焼きが良い!」


 食べ物の話を振った瞬間、さっきの罪悪感を滲ませた表情がパッと明るいものに変わりハイテンションになる美穂がなんだかあどけなくて、俺の頬が自然と緩んだ。


「それにしても、うちの近くにパフェが食べれるところなんてあったっけ」


「ある、私がマークしてたカフェ」


「ほう、それは楽しみだな」


「ちなみに凛くん、すき焼きは牛肉多めにね!」


「はいはい、合格祝いってことでな」


 俺と美穂はそんな会話をしながら体育館を出て茜色に染まった空の下をバス停に向かって歩く。バスはもう来ていて俺たちは手を繋いだまま乗り込み学校を後にした。


 ちなみに彼女がマークしていたカフェのパフェの値段は異様に高く、これに加えて牛肉を大量、すき焼きの他の具材も買うのかと脳内でシュミレーションした結果、パフェを頼むのを非常にためらった。


 しかし、向かい側に座る彼女が「楽しみ~」と笑みを浮かべているのを見て、考えるのをやめて素直にパフェを二人分注文した。


 それにしても、と俺はカフェの窓に視線をやり思考を巡らせる。普通科を希望したのに電能遊戯をやらせたり、手練れの兵士をぶつけてアトラスシステムを試したり、俺はあの学校に対して少し不信感を抱いていた。


「ん~極甘だよ凛くん」


 何事もなく普通の学校生活を送ってみたい、俺たちが電能科ではなく普通科を選んだ理由。それが実現するといいのだが。


「おお、本当だ脳に染み渡る甘さだな──」

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