5 女風を呼ぶのよ!
その晩、1DKの狭いマンションのダイニング。牛雄と乙葉の愛の巣だ。二人は夕食をたべて落ち着いたところで、牛雄が今日の出来事を切り出したのだが、乙葉は急にイライラしだした様子で。
「ふーん、それでその後輩女子、ユミさん?だっけ?こんな名刺を渡されて、牛雄くんは帰ってきたわけ・・・。あなた、よくうちの門がくぐれたわね」乙葉は机の上の名刺をみつめながら、テーブルを指でコツコツと叩いた。
「うちに門なんて無いだろ。オートロックもない小さいマンションなんだから」
「そういう問題じゃないでしょ!」今度は乙葉はテーブルをバンと叩いた。牛雄は腰を浮かせた。
「おいおい穏やかじゃないな。僕だって、何これって押し返したよ。でもこれを彼女さんと仲良くしてくださいって、握り返されて」
「余計なお世話なのよ!手を握られてこんないかがわしいもの渡されて。なんなのその女!トンデモない女狐ね」乙葉の顔は真っ赤であり髪の毛まで逆立っているように見える。牛雄は言葉を選びながら、なにか話題を変えなければと模索する。
「えーっとユミくんは狐より、タヌキ顔かなあ」牛雄はユミの顔を思い浮かべた。
「ますますタチが悪いわよ!タヌキみたいな女が一番危ないのよ!」
プチンと何かが切れるような音が牛雄には聞こえた気がした。
乙葉が肩で息をしながら小さな、しかしはっきりとした声で言う。
「呼びましょうよ」
「は?誰を?ユミくんを?」
「ちがうわよ!そんなタヌキ女と会いたくないに決まってるでしょ!」乙葉が頭を抱えて天井を仰ぐ。そしてそのままソファにひっくり返った。
「誰を呼ぶのさ?」
牛雄は乙葉の顔をのぞき込んだ。乙葉はどきっとして顔を真っ赤にする。顔を背け、そして目をつむって力を込めて言った。
「セラピストを呼ぶのよ」
ぶぶぶーっ、牛雄は思わず吹き出す。唾と鼻水が乙葉の顔にかかる。
「わ、わっ、ちょっと、やめてよ、汚いわねー。牛雄くんの体液まみれになっちゃったじゃない」牛雄は急いで、妻の顔にかかったヌメヌメした唾と鼻水をティッシュで拭うが・・・。
「次にあなたが拭うのは誰の体液かしらね」乙葉は流し目で牛雄を睨むと、ニヤリと含み笑いをした。牛雄はその顔に見とれた。そいて背筋にぞくっとするものが走った。冷や汗が出て、今日の角川の台詞がリフレインする。
「あんなに綺麗で、すごい身体、セクシーな表情・・・、月野先輩は女を持て余してる」
乙葉はソファから起き上がり自分のスマホをつかむと寝室に逃げるように隠れた。ドアを閉めかけながら、
「私が良いっていうまで、ドア開けないでよね」
「おい、乙葉、冗談だよな?」牛雄は泣きそうな顔で乙葉を見る。
「ふんっ。べ〜だ!」乙葉は舌を出すと、バタンとドアがしまった。
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