開戦
この世界の平均寿命は約1000年です。
あと今回の舞台である星暦戦争は本編ではまだ入っていませんが、書いてみて意外と良かったので掲載してみました。
作品の投稿頻度も作品展開もゆっくりですが、良かったら読んでいってください。
銀河歴18万6700年銀河は大きな戦火に包まれようとした。
銀河の3分の1を支配する軍事国家、クロースティア連邦は帝国の内乱の終結とともに今までにない規模の軍拡を始めた。
その影響はレオン=ベルゲンの所属する第12管区方面軍にも及んでいた。
「なあ、なんか最近演習の頻度多くないか?」
食堂で昼食を食べていると同期のマーセル=ブレコフに話しかけられた。
「確かに最近降下訓練とかも増えたよな」
「だよな、方面軍まで動かすってことは結構大規模な作戦でもあんのかな?」
「確かにありそうだななんか最近志願制から徴兵制になったもんな」
「えっと…確か5年前だっけ?」
「5年前…だとすると徴兵組は今年に訓練学校を卒業だよな?」
この時は考えもしなかった銀河規模の戦争が始まるだなんて。
銀河歴18万6701年
あれから1年がたった。
相変わらず訓練は厳しいままで頻度も高くなっていた。
徴兵で入軍してきた新兵たちも訓練を共にしていた。
そして今年の新兵の数はここ数年の中で過去一番多かった。
通常の配属数は一年で2000人ほどだった。しかし今年の配備数は噂に聞くと3万人を越していたという。
「なあ、やっぱしおかしくないか?」
一年前と同様に昼食中にマーセルに話しかけられた。
「なんで?」
お気に入りのメニューであるポトフを頬張りながら耳を傾ける。
「考えてみろよここ一年でこの基地の兵員数は10万人から13万人まで増えた、戦闘とは縁遠いこの基地がだぞ」
「それは確かに変だなまぁ徴兵したら思ったより人多く集まったからここにとりあえず配置したとかそういう感じじゃないのか?」
「いや、これはどうやら連邦の基地全体で起きていることらしくてな、多いところでは入隊数が10万人を超えたところもあるらしいぞ。それにここ最近輸送艦の出入りも多いだろ」
マーセルがスープを一気に飲み干して一息つく。
「俺たちが入軍して23年、多少の人員増量はあったがここまであからさまな軍拡は初めてだこれで何もないって方がおかしいだろ」
「確かにそれは異常だな…なんかあるのかもな」
「あぁ、俺は近いうちに連邦が宣戦布告するんじゃないのかって思ってる」
「宣戦布告?どこにだよ」
「そりゃあ帝国か共和国のどちらかだよ」
「は?いやでも確かにありえないことではないか…」
「だろ?戦争の準備だと考えたら演習とか輸送船の行き来が増えたのにも理由がつくだろ」
そんなあり得ることのない話をしていると食堂の外からすごい勢いで走ってくる足音が聞こえた。
うるさいなぁ建物内では走っちゃダメって言われてるだろ。
その直後、勢いよく駆け込んできた兵士の1人が大声で知らせる。
「大変だ!うちの政府が星環同盟に宣戦布告したぞ!」
その知らせに皆が固まった。
当然だ。
星環同盟といえばクラスティオ帝国、フロッセルド共和国、ゼスティア評議国の3カ国の集まってできた連邦より規模の大きい国力を持つ大同盟だ。
そんな同盟に宣戦布告?ありえない。
「おい、つまらない冗談はやめろ」
食堂にいた1人が皆が思ったことを口にする。
「冗談じゃないってば!今ニュースでやってるんだよ!」
その瞬間皆立ち上がった。
テレビがある場所は…休憩室!
食堂にいる全員が同じ考えに至った。
直後、皆が走り出す。
廊下にはすでに人がたくさんおり、皆休憩室に向かっていた。
俺たちもそれについていく。
そして俺とマーセルも休憩室に到着した。
息が荒れたままだがテレビに目をむける。
テレビで流れていたのは連邦政府の公式チャンネル。
そこにはスーツ姿の政府の報道官が話している様子が映されていた。
「おい!なんて言ってるんだ?」
「静かにしろ!聞こえないだろ」
休憩室にテレビの音が響く。
「本国クロースティア連邦は宇宙進出から8万年、拡大によって我が国は発展してきました。また、この行いによって我らが国家は銀河の秩序維持を行なってきました。しかしここ数百年で銀河はさまざまな危機に見舞われてきました」
「過去の銀河規模の内乱や反乱、その多くは帝国とその同盟が引き起こしてきた」
「よって本日銀河歴18万6701年9月8日、我らクロースティア連邦は銀河の危機となる原因を完全排除するべくクラスティオ帝国フロッセルド共和国、ゼスティア評議国の3国、星環同盟に宣戦布告する」
……冗談だと思いたかった。
だが、画面の下に流れる日付と国名が、それを否定していた。
その直後、休憩室の一角で歓声が上がった。
「よっしゃ!やってやる!連邦にかかれば星環同盟なんて敵じゃないぞ!」
「だよな!戦果上げまくって出世してやる!」
それは今年徴兵期間が終わって今年から入軍したものたちだった。
アホか、いくら連邦の軍事力が強いからって3国同時に相手できるわけないだろ。
星環同盟は軍事改革と軍拡で3国合わせたら戦力は連邦に近く…いや、そのための軍拡か。
考えがそこまで至ったところで背筋がぞくりとした。
偶然じゃない。
演習の増加も、徴兵制への移行も、輸送艦の往来の増加も。
全部、今日のために積み上げられてきたものだ。
今、この休憩室には宣戦布告に歓喜するもの、事態を重く見ているものの2つに分かれていた。
「レオン、お前は連邦が3国相手に勝てると思うか?」
「さあな、だけどお前の言ってた通り連邦は今軍拡の果てに過去に類を見ないほど軍事力が大きくなっている」
「だな、楽に勝てるといいな」
そんなあり得るはずのない願いを口にした。
《全将兵は現在の作業を一時的に中止。各大隊ごとに指定された場所に集結せよ。繰り返すーー》
皆が呆然としてるなか、放送が流れる。
その放送で皆我に帰り、
「すぐに移動するぞ!」
直後、すぐに移動が始まった。
廊下はすでに人で溢れかえっていた。
いつもなら冗談などの軽口が聞こえるが、今日は皆無言だ。
その後、人の流れに乗って俺たちの所属する第12管区方面軍第18師団第185大隊の司令部前の広場にたどり着いた。
そこにはすでに数百人の人が集まっており、すでに整列は始まっていた。
「急げ!10分以内に整列を完了させろ!」
大隊長の声が拡声器越しに響く。
俺とマーセルも急いで列に並び、点呼の準備をする。
「点呼!」
1!2!3!4!5!
小隊ごとに点呼が行われ、大隊長の元に次々と報告がいくのが見てわかる。
そうして10分以内に集結を完了した。
皆が緊張で固まる中、大隊長が壇上に上がり、大きく息を吸う。
「諸君も知っての通り、連邦は戦争状態に突入した!これより我々第12管区方面軍第18師団第185大隊も戦時体制に移行する!」
直後、その場にいる全ての将兵が敬礼をした。
「これより各中隊長に指示を出す。今後はそれに従え」
それを聞いて複数人の中隊長が大隊長のもとへと向かった。
それから3分ほど経ち、大隊長からの指示を聞いた中隊長が俺たち並んでる列に戻ってきた。
「これより大隊長の指示を発表する」
中隊長は資料を手にして話し始める。
「本日付けで出撃準備命令が出た。これより12時間、待機及び準備に入る」
「各自装備の点検、私物の整理を行え」
「明日一三〇〇、再集合。その後移動開始だ」
それだけだった。
「解散」
号令と共に列が崩れる。
整列前に比べて皆口数が少し増えた気がした。
俺も含めてようやくこの状況が飲み込めてきたのだろう。
兵舎に戻ると、すぐに装備点検が始まった。
標準装備であるカレシナロフ突撃銃と拳銃ベレジュをラックから取り出して、点検を始める。
銃身や発射機構の確認を行い、セーフティーにロックをかける。
カートリッジを取り外し、エネルギーの充填率を確認して再びはめ直す。
「うし、次はベレジュか」
そして引き続きベレジュも点検する。
「レオン、問題ないか?」
「ああ、問題ない」
点検を終え、顔を上げてマーセルに返事をする。
「そうか、俺も問題なしだ」
その後は私物の整理を済ませ、指定された時間までの最後の自由時間に入った。
点検が終わった頃にはもうすでに7時を回っており、外も暗くなっていた。
そうして点検が終わってから俺もマーセルもベッドに寝っ転がって1時間が経過した。
点検の時を最後に全く会話は起きない。
空気が重い。
仕方ないか、死ぬかもしれないしそりゃいつも通りってわけには行かないか。
「なあマーセル」
「なんだ?」
「夜飯食いに行かないか?一応時間的に食堂も空いてるだろうし」
「お前そんな状況でよくそんなこと言えるな」
「こんな状況だからだよ」
「こんな状況だからこそ?」
そう言いながらマーセルは体を起こす。
「これからは戦争に行くんだ。この先いつ飯がいつも通り食えるか分からないんだ」
「…」
相変わらずマーセルは黙っている。
「こんな時だからこそ飯を食って力つけておくんだよ」
マーセルは数秒沈黙したのちにようやく口を開いた。
「確かにそうだな…うし、飯食いに行くか!」
俺とマーセルは食堂に行くために準備を始める。
コートと端末を身につけ、兵舎の外に出る。
外はすでに暗くなっていて、夜気がヒヤリと肌を撫でた。
昼間はあれだけ騒がしかった基地も今では妙に静かだ。
照明に照らされた通路を、俺とマーセルは2人で歩き出した。
上を見上げると宇宙港に出入りしていると思われる艦艇の光が見える。
「いつもより多いな」
「だな」
それ以上、言葉は続かなかった。
食堂に近づくにつれて、人の気配が増えていく。
食堂はいつも通り開かれていた。
なんなら食事の内容はいつもより豪華だった。
いつもなら運がいいで済ませられる。
だけど今日はそんなことは考えられない。
厚切りの肉、新鮮な野菜・果物・海鮮類、そしてデザートまでついている。
「…最後のご馳走ってか」
マーセルが皮肉っぽく呟きながら大量の肉を皿に盛っていく。
「よせよ、縁起でもない」
そう言いながら俺も料理を取っていく。
俺が取ったのはもちろんポトフだった。
その間もマーセルは黙々と料理を盛っていく。
マーセルの顔は硬いまま変わらなかった。
「これは…その…あれだ!景気付けだよ!それだけ政府も気合入ってるってことだよ!」
それを聞いてマーセルから少し笑みが溢れる。
「ッハ、ちげえねえ確かにこの戦争に連邦は相当気合い入れてるだろうな」
「だな!ってマーセル、お前そんなに盛って食い切れるのか?」
俺が呆れ顔で指摘すると、マーセルは皿を運びながら言った。
「俺たちは明日から戦場に行くんだ。次いつ肉が食えるかわからねえ、だったら食えるうちに美味いもんを食っておいた方がいいだろ」
「はあ、残したりすんなよ」
「あったりめえよ」
やっぱこいつ変わんねえな。
ついさっきまで無口だったのに今はもう飯のことしか考えてない。
いくら食べることが好きでもこれから死ぬかもって時に飯なんて食えないだろ普通。
マーセルは席に着くと、さっそく肉にかぶりついた。
さっきまでの重い空気が嘘みたいな食べっぷりだ。
「……ほんと、お前切り替え早いな」
「腹減ってたんだよ。昼からほとんど動きっぱなしだったろ」
そう言われてみれば確かにそうだ。
俺もポトフを口に運ぶ。
味は、昼に食べた時と変わらない。
周囲のテーブルを見ると、どこも似たような光景だった。
黙々と食べるやつ、無理に笑って話しているやつ、ただ無言で箸を動かしているやつ。
誰も「明日から戦場だ」という言葉を、はっきり口にはしない。
「……静かだな」
俺が言うと、マーセルは肉を噛みながら答えた。
「そうか?いつも通りだろ」
「そういう意味じゃない」
マーセルは少し考えてから、肩をすくめた。
「まあ、みんな腹減ってるんだろ。飯の時くらいは考えたくねえんだよ」
それも一理あった。
考えたところで、俺たちにできることは何もない。
しばらくして、マーセルの皿から肉が消えた。
「……お前、ほんとに全部食ったな」
「言ったろ、残さねえって」
デザートまで平らげると、満足そうに息をつく。
「よし。行くか」
「行くって、どこにだよ」
「決まってんだろ。戻って待機だ」
俺たちはトレイを返却口に置き、席を立った。
食堂を出ると、さっきより人の数が増えている。
俺とマーセルは部屋に戻ると2人ベッドに寝っ転がった。
…寝れないなぁ。
そんなことを思いつつ、マーセルの方を向く。
「おい、マーセル寝たのか?」
直後、マーセルがいきなり体を起こした。
「レオン!」
びっくりした…
「なに、マーセル?起きてたんだ」
「いいや、あと少しで寝れそうだったんだ!なのにお前のせいで目が覚めちまったじゃねえか!」
「それはごめん、どうしても眠れなくてね」
「知らん、そんなことで俺を起こすな」
マーセルはため息をつき、体を戻した。
はあ、俺も寝るか。
「…レオン、とりあえず目だけでもつぶっておけ。それだけでだいぶ楽になる」
「そうさせてもらうよ」
こうして俺とマーセルは眠りについた。
ー銀河歴18万6701年9月9日午前5時30分ー
この日は起床ラッパの前に目が覚めた。
何故かは分からないが、昨日の不安は無くなっていた。
部屋を見渡してみると、まとめられた荷物と点検の終えた装備があるだけで、整理されている。
兵舎の外に出ると、ちょうど日が登ろうとしていた。
(無事に皆んなで帰れますように)
このあとは早かった。
6時半になると起床のラッパがなり、兵舎から続々と人が出てきた。
その中にはマーセルもいた。
「早起きだな。まさか寝てないとか言うなよ」
「そんなわけないだろ。さっき起きたばっかだ」
「ならいい」
それだけ言って、マーセルは空を見上げた。
この日は訓練などはなかった。
おそらく最後の自由時間なのだろう。
他の人達も夜のうちに整理ができたのか、昨日よりも落ち着いた様子だった。
午前10時 第12管区方面軍第18師団第185大隊の司令部前の広場
俺は朝食を終えて少し休んで、予定よりも早く集合地点に到着した。
特別な理由なんかない。
ただ、これから一緒に戦うことになる仲間達の顔を改めてゆっくり見たいと思った。
少しして、マーセルもやってきた。
「…お前もか?」
「あぁ、これから一緒に戦うことになるからな」
俺とマーセルは2人で話ながら次々とやってくる仲間達の顔を目に焼けつけていった。
そしてあっという間に午後1時になった。
広場は兵士で溢れかえり、軽口を言い合うもの、不安で固まるもの、よく眠れなくて疲れているものなど、様々な人がいた。
広場に整列命令がかかると、ざわついていた空気が一気に引き締まった。
だが、不思議と重苦しさはない。
点呼を終え、整列を終えると壇上に大隊長が登り、話を始める。
「諸君!時間通りの集合ご苦労!我々はこれからシャトルで宇宙港に向かい、輸送艦に乗り換える」
ついに始まる。
「我々はこの時に向けて長い期間厳しい訓練を重ねに重ねてきた!」
「そして我々は過去に類を見ないほど強く、勇ましい軍となった!」
そうだ、俺たちはこの数年間厳しい訓練をくぐり抜けてきた。
「相手が星環同盟だろうが関係ない!」
鼓動が早くなるのが感じる。
「政府の思惑など知ったことか!我々はただ敵を殲滅する!」
体が熱い。まるで煮立っているようだ。
大隊長が腕を振り上げる。
「敵を全員薙ぎ倒して凱旋するぞ!第12管区方面軍第18師団第185大隊、出撃だ!」
大隊長が腕を前は振り下ろした瞬間、広場全体から数千人の雄叫び弾けた。




