聖剣がいっぽん(無理がある……?)
更に三ヶ月が経った。
やっぱり英文法の先生は行方不明になったらしい。
学校に荷物も全部置いてあったし、靴箱にも外履きの靴が残っていたそうな。
あの日、僕は何か聞こえた気がするけれど、幻聴だった可能性もあるし何も見ていないので、結局誰にも何も伝えなかった。
もし先生も異世界に転移したんだとしたら、いつも偉そうだったし、きっと賢者あたりになれるんじゃないかな。是非頑張って欲しい。
勇者、聖女、賢者。もう一チーム分揃ったんだから、魔王討伐もきっと上手くやってくれるよ。
僕は、もうあんな円陣が浮かび上がらないといいな、と思いながら戦々恐々とした気持ちで暮らしている。
だって、なんとなく僕に狙いをつけて円陣が出現している気がしてならない。何しろ僕の真下に三回も円陣が浮かんだんだから。
でも、なんで僕?むしろうっかり乗り込んだ三人の方が、僕より適正あると思う。
いや、実際には彼らが消えたんだし、やっぱり彼らが召喚対象だったんだろうか。
僕はたまたま近くにいただけで。
きっとそうだ、そうに違いない。
僕には異世界転移したい願望なんてないんだから、二度と起こらないようになって欲しい。
色々考えても解決策が思いつかないので、つい鬱々としてしまう。人前でもうっかり物思いに耽ってしまうので、ここところ、周囲にずっと心配されている。
せめて表向きは、明るく振る舞わないと。
そう思って、気分転換がてら本屋に足を運ぶことにした。
本屋に行くまでの道筋、ビル建築の工事現場に遭遇した。ずっと空き地だった場所にとうとうビルが立つらしい。
資材を詰んだトラックが道の脇に止まり、現場には結構な高さの足場が組まれ、資材を上に持ち上げるためのクレーン車なんかもやってきている。
何ができるんだろう、街もどんどん変化していくんだなぁ。なんて街の変動に思いも馳せながらも、それはそれとして異世界転生の定番は、トラックとの衝突と落下してきた鉄筋との衝突は、二大定番だよなと考える。
他にバリエーションは何があったっけ、と思いながら工事現場の横を通り過ぎようとすると、自分の足元にまた円陣模様が浮かび始めた。
僕は慌てて駆け抜ける。
と。
「危ない!」
『ぐぉん!』
『ぎゃっ!』
駆け抜けた背後に、大きな黒い影が上から下へと落ちてきて、強い風圧を感じた。と同時に、くぐもった、金属が何かを打ち付けたような音と誰かもわからない人の悲鳴が聞こえた、気がした。
思わずよろけながら後ろを振り返ると、誰も、何も無い。
「おい!操作ミスったんか?」
「歩道誰か歩いてただろう!大丈夫か!?……あれ……?」
工事現場から慌てたように出てくる作業員の人たち。
でも皆不思議そうな顔をしている。
「今、鉄筋落ちたよな?」
「落ちたと、思うんですけど……」
彼らは首を傾げて言い合っている。
「坊主、なんか、知らねぇか……?知らねぇか」
僕の方を向いて質問してくるので、首を横にブンブン振る。
「そうだよなぁ……」
そう呟きながら、鉄筋を吊り下げていたと思われるクレーンを見て、それから傷一つついていないアスファルトを見て、狐につままれた様な表情を浮かべながら、作業員の人たちは現場に戻っていった。
少し離れた場所に真っ青な顔をした交通整備の警備員がいたけれど、僕は気が付かなかったことにした。
そして、そのまま本屋へ足を運んで、僕は他のたくさんいるお客さんの中へ紛れることにした。
ビルの工事現場で、一本の鉄筋が無くなったらしい。
それ以来、何故か僕の前に円陣が現れることはなくなった。
Was he really that ordinary?
お読みいただきまして、誠にありがとうございました!




