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魔法の箒、修理いたします。  作者: 仲村千夏


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炎の魔法石ランプ

 劇場での公演修理から帰ったアレンとフィンは、工房に戻るなり大きく息を吐いた。


「はぁ……師匠、ぼく、もう足が棒です……」

「まったく……劇団の出張修理は骨が折れるな。舞台は緊張の連続だから余計に疲れる」


 椅子に腰を下ろしたフィンは、そのまま机に突っ伏した。額には薄く汗が残り、指先はまだ舞台の緊張を覚えているように震えていた。アレンも長椅子に深く腰掛け、瞼を閉じる。


 しかし、工房は休むことを許してはくれない。扉が静かに叩かれ、依頼人が訪れる。


「すみません、まだ開いておりますか?」

 控えめな声が聞こえた。アレンは目を開け、フィンと視線を交わす。

「休みたい気持ちはあるが……お客を待たせるわけにはいかんな」


 立ち上がり扉を開けると、そこには小柄な老婦人が立っていた。両手には布で丁寧に包まれた何かを抱えている。


「炎の魔法石を使ったランプなのですが、火が急に暴れ出して……危なくて使えなくなってしまったのです」

「暴れる……?」

「はい。灯りをつけると、炎が飛び散るように揺らいで……もう怖くて」


 老婦人は心配そうに包みを差し出す。布を解くと、古びた真鍮のランプが現れた。内部には橙色の魔法石が嵌め込まれており、本来なら穏やかに炎を灯すはずだった。だが、石は脈打つように不安定に光り、わずかに火花を散らしている。


「なるほど、魔力の流れが乱れているな」

 アレンは指先で結晶をなぞり、熱を感じ取る。

「師匠、この熱……普通じゃないですね。火傷しそうなくらいです」

「炎の魔法石は、本来は温もりを与える程度だ。こうして暴れているのは内部に余計な魔力が溜まっている証拠だな」


 アレンは工具を用意し、フィンに指示を飛ばす。

「まずは外枠を外すぞ。フィン、金具を押さえておけ」

「はい!」


 二人で慎重に外装を外し、内部の石を露わにする。結晶はひび割れ、そこから不規則に炎が漏れ出していた。


「これは……修理というより、石そのものを調律し直さないと駄目かもしれません」

「そうだな。フィン、符を三枚。炎を鎮めるものだ」

「了解です!」


 フィンが符を取り出し、結晶の周囲に貼る。アレンは深呼吸をし、指先で結晶に触れる。魔力の奔流が荒々しく流れ込み、まるで猛獣を手懐けるかのような緊張感が走る。


「うっ……! 暴れるな……落ち着け……」

 アレンの額に汗が滲む。フィンはすぐに師匠の手を支え、符を押さえた。

「師匠、大丈夫ですか!」

「大丈夫だ……この程度……」


 アレンは符に魔力を流し込み、暴れる炎を徐々に押さえ込む。石の脈動は次第に弱まり、火花が収まっていった。


「今だ、フィン! 結晶のひびに修復の魔力を流し込め!」

「はいっ!」

 フィンは両手をかざし、槍を扱う時のように集中して魔力を結晶へ注ぐ。柔らかな光がひびを包み込み、少しずつ修復されていく。


 やがて石は穏やかな橙の光を取り戻した。灯りを点すと、炎は静かに揺れ、まるで暖炉の炎のように優しく部屋を照らす。


「……直ったな」

「やった……!」


 フィンは思わず小さくガッツポーズをした。老婦人は目を潤ませながら手を合わせる。

「まぁ……なんて穏やかな炎でしょう……! ありがとうございます、ありがとうございます!」


 アレンは工具を片付け、微笑んで答えた。

「これで安心してお使いになれます。ですが、長年使われた石ですから、今後は定期的に調整が必要です」

「はい、大事にいたします」


 老婦人が帰ると、工房に再び静けさが訪れた。アレンは深く椅子に腰を下ろし、肩を落とす。

「はぁ……今日も一日、よく働いた」

「師匠……ぼく、もう動けません……」

 フィンは机に突っ伏したまま、ぐったりと答える。


 だが、どこか充実した疲れでもあった。劇団の舞台を支え、老婦人の大切な灯りを守り……今日も工房は人々の暮らしを静かに支えたのだ。


 【魔法道具、修理いたします。――炎の灯りも、人の暮らしも守るために】

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