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魔法の箒、修理いたします。  作者: 仲村千夏


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柱時計

 風の手工房の朝は、ゆったりとした光に包まれていた。


 アレンは、奥の作業机に置かれた古びた柱時計を眺めていた。


 重厚な木枠は年月を経て少し色褪せている。文字盤の周囲に施された細かな彫刻には、魔法的な文様がほのかに輝くが、全体的にくすみがかかっていた。


 時折、途切れがちに聞こえる「チクタク」という音は、機械が弱っていることを告げている。


「これはまた……なかなか手強そうな相手だな」


 アレンが呟くと、店の戸がそっと開いた。


「おはようございます、アレンさん」


 ノアがひょこっと顔を覗かせた。


「おはよう、ノア。いいところだ。手伝ってくれるか?」


「うん、もちろん!」


 フィンも遅れてやってきて、ノアの隣に立つ。


「この柱時計、ずいぶん古そうだな」


「そう。数十年前に、この町の老夫婦が結婚祝いにいただいたものだそうです。最近、針が止まったり、時間が狂ったりして困っているみたい」


「ただの時計じゃなくて、魔法の力も使ってるんだろ?そうじゃないと、あんなに精密に長く動かない」


「そうなんです。昔の柱時計は、機械の動きと魔法の流れを組み合わせて時間を刻んでいるから、機械だけでは直せない」


 アレンは木製の枠を外し始めた。


「さて、中を見てみるか」


 


 機械部分は複雑だった。大きな歯車が何重にも連なり、振り子の揺れで動く構造。


 だが、歯のいくつかは摩耗し、潤滑油は乾き、ところどころ錆が浮いている。


 そして何より、振り子を支える魔法石が、弱々しく青白く光っていた。


「こいつが元気ないな。魔力が薄れている証拠だ」


「魔法石の輝きが弱まると、振り子の動きも乱れて、時計の精度が落ちるんですよね」


「その通り。魔法と機械が協調しないと、正確な時を刻めない」


 


 ノアは柔らかい布と特別な研磨薬を手に取った。


「私がこの魔法石を磨きますね」


「ありがとう。フィンは機械の歯車の掃除と調整を頼む」


「了解」


 


 細かな作業が始まる。ノアは優しく魔法石を拭い、魔力が流れやすいように表面の汚れを取り除く。


 磨くたびに石は少しずつ輝きを取り戻し、青みが濃くなっていった。


 一方、フィンは歯車を一枚一枚外し、錆や汚れを落としては元の位置に戻していく。


「この歯車、結構傷んでるな……だが、まだ使える」


「丁寧に直してやろう」


 


 アレンは二人の作業を見守りながら、時折アドバイスを与えた。


「魔法石はただ磨くだけじゃなく、心を込めて扱うこと。道具は気持ちを察するからな」


「歯車の調整は、機械の“呼吸”を感じ取るように。動きがぎこちなくなっている部分を見逃すな」


 


 


 数時間が過ぎた。


 ノアが最後の磨きをかけると、魔法石はまるで生きているかのように青く深い光を放った。


 フィンも歯車を全部組み終え、振り子を元に戻す。


 アレンは微細な魔力を注入し、魔法の回路を整えると、慎重に振り子を揺らした。


「……行け」


 


 振り子はゆっくりと揺れ始め、だんだんと一定のリズムを刻んだ。


 重りが下に落ちるごとに、規則正しい「チク、タク」という音が工房に響き渡る。


「戻った!」ノアが嬉しそうに笑った。


「まだ完璧じゃないが、いい線いってる」アレンも微笑む。


 


 


 数日後、修理を終えた柱時計は持ち主の老夫婦に返された。


 奥さんは時計の音を聞いて目を潤ませ、旦那さんは懐かしそうに振り返った。


「これでまた、夜も安心して眠れます」


 


 


 夕暮れ時。風の手工房にて、三人は修理を振り返っていた。


「時計って、なんだか命を感じますね」ノアがぽつりと言う。


「うん。規則的な鼓動のようで、聞いてると落ち着く」


「道具は機械じゃなくて、使う人の時間を一緒に刻む存在なんだ」


「そう思うと、ちゃんと直さなきゃって気持ちになります」


 フィンがうなずきながら言った。


「これからも、大事にしてもらえるといいな」


 


【魔法道具、修理いたします。柱時計は時を刻む、心の証】


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