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魔法の箒、修理いたします。  作者: 仲村千夏


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フィンの休日

 フィンにとって「工房の休み」は、世間一般に言うところの休日とは少し意味が違う。

 もちろん、依頼が入らず工房業務が一段落する日を指してはいるのだが、彼にとってはむしろ“自分を鍛え直すための時間”という側面が強かった。


 フィンは現在、街にある修理士専門学校に在籍している。正式名称は「中央魔具修理士専門学院」。魔力理論、素材学、応用加工、封印系統の基礎など、幅広い技術を学ぶ場所だ。フィンはここへ、風の手工房から通っている。

 朝の始業前にはアレンより少し早く工房に着き、簡単に掃除をしたあと、アレンやミラに軽く挨拶をしてから学校へ向かうのが日課となっていた。


 工房が休みの日でも、この通学習慣はほぼ変わらない。

 むしろフィンの場合、工房が休みの日こそ「学校に行く準備を整え、勉学へ集中できる時間」だった。


 もちろん学校そのものも休みの日がある。だが、学院の図書室と自習室は基本的に年中開放されているうえ、修理士候補生向けに練習用の魔具が並ぶ実習スペースも予約制で使える。フィンはそうした場所を最大限活用するタイプだった。


 ――とはいえ、彼の休みの過ごし方が“勉強ばかり”ということでもない。


 フィンが工房の休みの日にまず向かうのは、ほぼ例外なくアレンの部屋の前である。

 ノアが受付の掃除をしている横で、フィンはそわそわしながら扉の前につっ立っている。


 やがて少し寝ぼけた様子のアレンが扉を開ける。


「……おはよう、フィン。工房は休みだぞ?」

「わかってます! でも、師匠の今日の予定を聞いておこうかと思って!」


 こんなやり取りは日常風景の一つだった。


 フィンにとって、アレンは修理技術を教えてくれる師であり、憧れの存在だ。

 学校での授業内容が工房での仕事と結びついた瞬間は特に嬉しく、つい報告しに行ってしまう。休みであっても、アレンが迷惑がらない範囲でそばにいたくなるのだ。


 アレンもその気持ちを理解しているため、軽く笑ってこう言うことが多い。


「休みの日くらいゆっくりしておけ。……まあ、ついて来たいなら構わないけどな」


 こうしてふたりで市場の道具店に行ったり、素材屋の新入荷品を眺めたりすることもある。

 ときにはミラが加わり、三人で簡単な昼食を取ることもあった。


 とはいえ、フィンにとって最も集中できる時間帯は、やはり師匠が自室や私用で工房を離れているときだ。


 アレンが「好きに使っていい」と許している作業台が一角にあり、フィンはそこへ学院の課題や自主練習用の魔具を持ち込んで黙々と取り組む。

 周りにミラやノアがいると、彼は自然と肩の力を抜いて作業できる。工房特有の木の香り、工具の配置、窓から注ぐ光……そのすべてが、フィンの集中を助けた。


 特に、ミラは部品整理や掃除をしていると気配が柔らかく、フィンは「邪魔していないだろうか」と変に気を張る必要がない。

 またノアはノアで、勉強中のフィンにお茶を差し入れたり、学院の宿題について質問したりするので、ちょうど良い気分転換になる。


 フィンはよく言う。


「工房は自分の“もうひとつの家”みたいな場所だよ」


 本当の家族のように接してくれるアレン、姉のようなミラ、妹のようなノア。

 彼にとって工房は、ただの職場でも修行の場でもなく、「帰りたい場所」になっていた。


 もちろん、完全な意味での休日――つまり、学院も工房も両方休みという日は年に何日かある。


 そんな日はどうするのかというと、フィンはだいたい街の郊外にある草原へ出かける。

 そこは風が心地よく、魔力の流れが安定していて、魔法具の挙動を観察するには最適の場所だ。

 そこで小型の魔力操作練習具を使い、細かい制御や魔力の流量調整をひたすら練習する。

 ときにはミラの掃除用魔法具の旧型を借りて、構造を研究することもある。


 完全にひとりきりの時間でも、フィンはよく口に出す。


「師匠だったら、こう直すかな……いや、もっと丁寧に魔力を通すかも……」


 憧れの相手を思い浮かべながら、自分なりに改善点を探るのが彼の習慣だった。


 そして夕方になると、決まって工房に戻ってくる。

 アレンやミラが工房にいる日は扉を開けて「ただいま戻りました!」と言い、誰もいない日は静かに鍵を開けて、道具の整理や掃除をしてから帰宅する。


 そう、フィンにとって休みの日であっても――

 工房は生活の中心にある場所なのだ。

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