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「邪教だから火をつけた」―― こどもの火遊びに対する報復的放火と、一緒に放火を楽しむ愉快で孤独な おじさんたちの話。

作者: エンゲブラ

夕刻、大阪の神社。

塀越しに、1本の火のついたマッチが投げ入れられる。溜まっていた落ち葉が焦げ、敷地内の地面の半径1mほどが焼けるボヤに。


警察の調べで、小学生くらいの子供数名による犯行いたずらであることが判明。その中には外国籍の子供もいた。


これに対し、当該神社の宮司は、神社庁に報告。


被害内容は ――


神社境内に入りすぐにマッチをすって投げ入れられたが、幸いにも小火で済んだ。犯人はイスラム教徒で「邪教だから火をつけた」と供述している とのこと。


―― とした。


報告を受け、神社庁も、この被害内容を文書にし、加盟する大阪府内の約570の神社に宛てて、FAXを一斉送信。


そして、Xでは「とある神社の神主」を名乗るアカウントが「多文化共生など無理な話」などと自論を付け加え、FAXのコピーを丸ごと公開。700万インプレッション超を集める、お祭り騒ぎに。


外国人排斥をうたう議員候補や、孤独な中年おじさんたちのアカウントが、こぞってこの虚偽の拡散に協力。そこかしこでキャンプファイヤー状態へと突入。


当該神社の宮司は、テレビの取材で「イスラム教徒とは言っていない」と、しどろもどろになりながらも答え、神社庁は「対応した職員は、宮司の届け出を復唱して確認したから間違いない」とも答える。もちろん警察からの情報は、冒頭の内容であり、宗教等に触れる情報のリークも存在しない。



前フリ終わり。

ようやく、ここからが本題。


まず「境内に入りすぐにマッチをすって投げ入れられた」がよく分からない。実際には塀の外から、いたずらで投げ入れられたわけだが、ここでは境内に入り「投げ入れた」という意味不明な日本語による状況説明が成されており、すでに報告の体を成していない。


続いて、犯人が「子供」であったことも故意に隠されており、「イスラム教徒」という、警察からの情報にない「願望的虚偽」が付け足されてもいる。あくまでも警察が開示した情報は「外国籍のこどもも含まれる」のみで、主犯なのかどうかも分からない。


神社庁は「職員が復唱した」とまで述べている。

だとすれば、怪しいのは宮司となるわけだが、宮司にしても、子供と同様に「いたずら」程度のつもりだったのかもしれない。


悪意の度合いで言えば、子供のそれよりも、はるかに性質が悪い。しかし、普段から孤独を感じて生きている人間の場合、精神が低年齢化していても、おかしくはない。


いたずらされたことに対する、報復としての便乗的悪意の拡散という、いたずら。こういった行動は「子供の世界」において、よく見かける光景でもある。


SNSのない時代なら、関係者の間でのみ、話題となっていたはずのデマ。だが、これをXにリークするような、お調子者で「子供な関係者」も現れ、今回の騒動に発展。


火遊び。

もはや、炎上とすら言えない、みじめで孤独な、おじさんたちによる、おひとり様キャンプファイヤー。


ひょっとすると「孤独」という言葉に、過剰反応をする人もいるかもしれない。しかしながら、デマにすぐに飛びつき、外国人排斥をこれでもかと叫ぶような大人に、果たしてリアルでの友人が、いったいどのくらいいるというのだろうか?



この件に関して、宮司ひとりを責めるのは、ナンセンスだ。これは、このレイシズム的デマの拡散の「祭り」に参加した「全員の共犯関係」によって、成立している。


最大の要因が、SNSに放流した神主だったとしても、着火点から、その延焼の拡散に務めた、全ての者たちがレイシストだったのだから、悪いのは、この「ひと塊すべて」である。


さすがに、お祭りの発端となる投稿を行った神主は、日本語の言葉遣いが崩壊した謝罪文とともに、当該ポストを削除 ( 削除行為は、実際には証拠隠滅ともいえる)。しかし、その後も、自身の行為に対し、肯定的なポストをリポストしまくっているのだから、おそらく反省はまったくしていない。さらに付け加えれば、炎上に関わった多くのアカウントも「同様の振る舞い」を示し、ひょっとすると、彼らは「同一の人格」なのか?と思わせるほど、そっくりな態度を見せてくれている ――「でも、実際に外国人には悪いヤツが多いだろ!」と、今でも連呼している。



今回の件、「何かに似てるな」と思ったら、「朝鮮人が井戸に毒を投げ入れた」のあれである。これは、関東大震災という「集団ヒステリー」の状況の下、発生したデマであるが、今回はSNSという道具を使い、「孤独なヒステリーおじさん全員集合」としてのデマの拡散という構図。


そもそも、レイシストな態度を開放的に見せている人間が、社会的に受け入れられるはずもない。彼らの孤独は、彼らの価値感によって、引き起こされている。いわば、自業自得。しかしながら、彼らは、その孤独の原因が「外国人にある」というウルトラ解釈を行い、「外国人以外」という集団に自らをポジショニングさせることにより、何かを保とうとしている。


それなら、彼ら同士が、リアルでも団結すればいいじゃないか。しかし、実際に彼らが「外国人排斥のデモ」などに参加した場合、自分にそっくりな他人、あるいは自分以上にヤバイやつに出くわし、醒めるというケースが多いと聞く。もともと協調性のない人間たちが、リアルで協調するのは、やはり無理な話でもある。


そもそも、ヒステリーを拡散させ、ヒステリー仲間を増やした先に、そのひとたちが求めるような「幸せな未来」が、ほんとうに待ち受けているのだろうか? それとも「自分と同じ孤独感を皆にも味合わせる」ことにより、「自身の孤独を緩和させる」というのが、真の狙い? 


―― 答えは、おそらく「後者」だろう。


挿絵(By みてみん)

デマに関与したことに対する謝罪すら、まともに出来ず、言いわけに終始する。その先に待ち構える人生の終着点は、きっと美しいものに違いない。


レイシズム的投稿に対する「いいね」は、いわば「孤独の共鳴」であり、その共鳴もまた「その排他性」によって、いずれ打ち消される。孤独とは、単なる状態ではなく、その性質に由来する。


他所を放火しているつもりが、自分自身の足元を燃やしていることにも気づけないのもまた、孤独の孤独たる所以である。


<老害化する中年の特徴>

心が未成熟なまま、社会的地位だけが上がり、変に自分に自信を持つ。しかし、孤独感と苛立ちが強く、その原因が「自分以外」にあると考える。これで貴方も、きっちりと「一人前の老害」になれます。

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