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第十五章:支配者の提示

彼らは、岩崎が託してくれた命を胸に、この世界の裏側へと踏み出していく。

岩崎剛の命を賭した奮闘も虚しく、


圧倒的な戦力差の前に、


田中健一、小島光太、加藤莉子の三人は、『支配派』の手に落ちた。


岩崎が切り開いてくれた脱出経路も、すぐに敵によって塞がれてしまったのだ。


抵抗虚しく、三人は強化装甲の兵士に取り押さえられ、地下深くへと連行された。


田中と莉子は、狭く冷たい牢獄に閉じ込められた。


金属製の壁と、分厚い強化ガラスの扉。


外の様子は全く分からない。


小島とは引き離された。


彼の無事も、今どこにいるのかも分からない。


岩崎の壮絶な最期が、脳裏から離れない。


自分たちを守るために、彼は命を投げ出した。


しかし、その努力も、結局は無駄になってしまったのだろうか?


絶望感と、どうすることもできない無力感が、二人の心を蝕む。


一方、小島は、牢獄ではなかった。


彼は、『支配派』の拠点の、より厳重に管理された区域へと連行された。


そして、一つの広大な部屋に案内された。


そこは、未来的なデザインの、洗練された空間だった。


壁の一面には、巨大なディスプレイパネルが設置されている。


その部屋の中央に、一人の男が立っていた。


黒いスーツを纏っているが、岩崎のような実戦的な雰囲気はない。


威厳があり、その瞳の奥には、冷徹な知性が宿っているように見えた。


彼こそ、『ヴェール』の『支配派』総長、**城塚巌しろづか いわお**だった。


城塚総長は、小島を見ると、僅かに目を細めた。


それは、獲物を見るような、あるいは貴重な研究対象を見るような、冷たい眼差しだった。


「…小島光太君」


城塚総長の声は、滑らかで、しかし一切の感情を含んでいなかった。


「待っていたよ。君は、我々にとって…この世界にとって、非常に重要な存在なのだから」


小島は、無言のまま城塚総長を見つめていた。


記憶を取り戻した彼の顔には、以前の明るさはなく、覚悟と、そして僅かな抵抗の色が浮かんでいる。


城塚総長は、巨大なディスプレイパネルに視線を向けた。


パネルには、この街の、そして世界の美しい光景が映し出された。


煌びやかなネオンサイン、活気あふれる街並み、笑顔で歩く人々、そして、青い空を滑空する空飛ぶバイク。


一見、完璧に見える、繁栄した世界。


「見なさい、小島光太君」


城塚総長は、その光景を指差した。


「これが…君がこれから、支配する世界だ」


支配する世界。


小島は無言のまま、その映像を見つめた。


自分が、この街の、この世界の基盤となる魔法陣システムの「コア」として、この繁栄を支える存在となること。


記憶を取り戻した今、その意味は痛いほど理解できた。


城塚総長は、パネルから視線を外し、小島に向き直った。


「君の持つ力は、この世界の基盤となり、多くの人々に幸福をもたらしている」城塚総長は言った。


「かつて『浄化派』などという愚かな連中がいたが、彼らは真実を知りながら、君のような特別な人間の支配から逃れようとしていた」


城塚総長の言葉には、『浄化派』、特に岩崎への嘲りが含まれていた。


「本当に馬鹿で愚かだ」城塚総長は続けた。


「やつらも全て知ってるはずなのに、何故そのような思考になるのか。


この支配によって、どれだけの人間が幸せになっているか、分かっていない」


城塚総長は、自信満々に小島を見つめた。


彼の言葉は、絶対的な真実であるかのように響く。


支配。


管理。


それによって生まれる、秩序と繁栄。


それが、彼の考える「幸せ」だった。


その言葉に、小島の表情が僅かに揺れた。


そして、静かに、しかし強い意志を込めて、口を開いた。


「…幸せ?」


小島は、城塚総長を見た。


彼の目に宿るのは、反論の色。


「何が違うんだ?」城塚総長が、訝しげに尋ねた。


小島は、ゆっくりと、しかし力強く言葉を紡いだ。


「…あなたが言うのは、作り出された状態だ」


小島の言葉に、城塚総長の眉が僅かに動く。


「幸せ、というのは…一度手に入れたら、無くならないものなんだよ」


小島の言葉は、城塚総長の考える「支配」や「管理」といった概念とは、全く異なる響きを持っていた。


それは、彼の内に深く根差した、真実の言葉だった。


小島の脳裏に、鮮やかな光景が蘇った。


深夜のファミレス。


健一さんの、子供のような無邪気な笑顔。莉子ちゃんの、屈託のない笑い声。


三人で食べた、露店の焼きそばの味。


酔っ払った健一さんを、莉子ちゃんと二人で支えて歩いた夜道。


馬鹿話をして、笑い合った時間。


お互いの弱さを見せ合って、支え合った時間。


(田中と莉子との、楽しかった思い出の描写が、小島の脳裏に溢れ出す)


それは、支配や管理によって与えられるものではない。


人間と人間が、心を通わせ、共に喜び、共に悲しみ、共に時間を過ごす中で生まれる、温かく、そしてかけがえのないもの。


小島は、城塚総長を真っ直ぐ見つめた。


その目に宿る光は、悲壮な覚悟だけではなかった。


そこには、譲れない、守るべきものの存在が輝いていた。


「それが…僕が手に入れたものだ」


小島は、声に力を込めて言った。


「それが…幸せだ!!」


彼の言葉は、城塚総長の支配という思想に対する、明確な拒絶だった。


それは、岩崎が命を賭して守ろうとした、人間の尊厳と自由の叫びでもあった。


城塚総長は、小島の予想外の反応に、一瞬言葉を失った。


彼の計画に、想定外の変数が発生したのだ。


小島光太という「コア」は、単なるエネルギー媒体ではなかった。


彼の中には、支配では決して屈することのない、人間の「心」が存在していた。


そして、その心は、田中健一と加藤莉子という、平凡な二人の人間との出会いによって、確かに育まれていたのだ。








物語は、核心へと迫る。


魔法陣の真実。支配者の思惑。


そして、一人の青年の、命を賭した抵抗。


田中と莉子は、牢獄の中で、小島の運命をどうすることもできない。


しかし、彼らの友情が、今、この世界の根幹を揺るがそうとしている。

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