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第十三章:開かれた真実

物語は、新たな局面を迎える。


平凡なサラリーマンと、秘密を抱える若者たちが、


世界の裏側で暗躍する秘密組織と、彼らの隠す真実に、直接立ち向かおうとする。


そして、岩崎剛という男は、敵対する組織から彼らを間接的に守りながら、


彼らの旅路をどう見守るのだろうか。


彼らが、「アンダーグラウンドコード」の、あまりにも恐ろしい真実と対峙する日は近い。


そして、それは、彼らの友情が、そして小島光太の運命が、試される時でもあった。

岩崎剛は、何も言わなかった。


ただ、静かに二人を見つめている。


その目は、先ほどの『支配派』の男たちに向けられた時の冷徹さとは違い、どこか重いものを湛えているように見えた。


「小島君は! 小島君はどこにいるんですか! あんたが連れて行ったんでしょ!」


莉子が、震える声で岩崎に詰め寄った。


健一もまた、岩崎の胸ぐらを掴みかからんばかりの勢いで、彼を睨みつけている。


怒り、不安、そして、友人を失ったかもしれないという絶望感。


岩崎は、二人の剣幕にも動じず、ゆっくりと口を開いた。その声は、低いながらも、不思議と説得力があった。


「…落ち着け。俺は、お前たちの敵ではない」


敵ではない?


この、黒いスーツを着て、屈強な体をした男が?


自分たちを監視していたであろう人間の一人が?


健一と莉子は、混乱した。


「敵じゃないって…じゃあ、小島君をどこにやったんですか! なんで彼を連れて行ったんですか!」健一が問い詰める。


岩崎は、目を伏せた。


まるで、遠い過去を思い出すかのように。


「…彼は、特別な存在だ」岩崎は静かに語り始めた。


「幼い頃から、ある施設で育った。そこで、特定の役割を担うための、特殊な教育を受けてきた」


特定の役割?


特殊な教育?


健一と莉子は、顔を見合わせた。


あの、いつも明るく、自由奔放に見えた小島君が、そんな過去を持っていたというのか?


「それは…魔法陣のシステムに関わることだ」岩崎は続けた。


「彼は、そのシステムにとって、非常に重要な…性質を持っていた」


魔法陣のシステム。


健一の脳裏に、「アンダーグラウンドコード」で読み解いた不気味な文章の断片がフラッシュバックする。


魔法陣の歴史。


禁断の儀式。


そして、原理不明のエネルギー源。


「しかし、何らかの理由で、彼の記憶は消された」岩崎は言った。


「今は、自分がどんな過去を持ち、どんな運命を背負わされているのか…全く知らずに生きている」


記憶がない。


そこで、健一と莉子の脳裏に、ある光景が鮮明に蘇った。


小島の腕にあった、あの不規則な火傷のような傷跡。


時折見せた、遠い目や、どこか悲しみを宿した表情。


特定の場所や、魔法陣に関わる話題に反応した時の、彼の体調不良や記憶の断片。


「…あの傷は…」莉子が、震える声で呟いた。


「時々、具合が悪そうにしてたのは…」健一の声も震えている。


点と点が、今、繋がった。小島光太という男が抱えていた「何か」。


それは、彼の過去と、魔法陣のシステムに深く根差した、あまりにも重く、そして悲しい秘密だったのだ。


岩崎は、二人の反応を見て、深く息を吐いた。彼らが、小島の秘密の一端に気づいたことを理解したのだろう。


「彼に関わるな」岩崎は言った。


「お前たちは、知らなくていい世界だ。


これ以上深入りすれば、命の保証はない」


それは、偽りのない警告だった。


彼の言葉には、彼自身がこの世界の危険性を熟知しているからこその重みがあった。


しかし、健一と莉子の心は、もう決まっていた。


小島君が、そんな過酷な運命を背負わされていた。


そして、そのことを知らずに、明るく振る舞っていた。


そんな彼を見捨てることなんて、できるはずがない。


「嫌です」と、健一が岩崎の目を真っ直ぐ見て言った。


彼の声は、驚くほど静かだったが、その内に秘めた固い意志が伝わってくる。


「小島君を、放っておけません」


莉子も、岩崎に向き直り、力強く言った。


「私たち、小島君を助けたいんです。あなたが敵じゃないなら…彼に会わせてください!」


岩崎は、二人の目を見た。


そこには、恐怖よりも、友を思う強い気持ちと、真実を知ろうとする探求心が宿っていた。


彼は、二人がどれほど「平凡」な人間であるかを知っている。


しかし、同時に、彼らが持つ、純粋な想いの強さも感じ取った。


彼らをこのままにしておけば、無謀な行動に出て、かえって危険な状況を招くかもしれない。


『支配派』が、彼らの動きに気づけば、さらに危険な目に遭うだろう。


ならば…


岩崎は、意を決したように顔を上げた。


「…分かった」岩崎は言った。


「お前たちを、小島のところへ連れて行く」


それは、彼自身の任務にとっては、極めて危険な判断だった。


『浄化派』の秘密拠点に、部外者を、しかも『支配派』にマークされている人間を連れていくのだ。


しかし、彼らを安全な場所に置き、自身の管理下に置くことが、今の岩崎にできる最善の策だった。


そして、二人の固い決意が、岩崎の心を動かしたことも、確かだった。


「ただし…俺の指示に、一切逆らうな」


岩崎の言葉に、健一と莉子は強く頷いた。


こうして、平凡なサラリーマンと、秘密を抱える若者、


そして、多くを語らない黒服の男の奇妙な三人組は、この世界の裏側へと足を踏み入れた。


小島光太の待つ場所へ。


「アンダーグラウンドコード」の真実へと。


彼らの物語は、今、新たな局面へと突入した。



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