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弐 槍使い

◆20:00頃投稿していきます。



鬼とは人非ざる者である。

 彼らは何の前触れもなく人里にやってきては人々の暮らしを脅かすので、先人たちは社を建てそれを遠ざけたそうだ。


「鬼め、宝剣など盗んで何をするつもりなのだろう」


 ヒナとシロは宝剣の行方の手がかりを見つけるべく、商売と情報の町“ソジャ”へとやってきた。

一軒一軒手分けして、鬼の噂を探し回る。


「最近、うちの家畜が何者かに襲われているんだ」


 肉屋の主人が頭を抱えながらそう話した。

ひょっとすると宝剣泥棒と関係があるかもしれない。

ヒナはこの肉屋の話を詳しく聞いてみることにした。


「牛や豚のいる小屋がめちゃくちゃにされていて、ごらんこの有様さ。

これじゃあ乳を搾ったり肉を食ったりできやしない」


 ヒナは仰天した。その家畜小屋に残された傷は、社のものとそっくり一致していたのであった。


「シロ、間違いない。これはあの金棒の痕だ」


 犯人が近くにいる。そう踏んだ二人は護衛もかねて肉屋の家に泊まることにした。

そして、夜通し小屋を見張った。


 丑の刻。松明の灯りだ。二人はすぐさま臨戦態勢を取った。

灯の数からして十数、どんどんとこちらへ近づいてくる。


「怪しい輩が入って来たら、戸を締めて一気に叩こう」


 ヒナが合図を送ると、シロはこくりと頷く。

今だ!賊が小屋に入った瞬間、戸は堅く閉ざされ、ヒナとシロに文字通り一気に叩かれた。


「まいった、まいった。やめてくれ、何なんだお前らは!」


 先頭にいた男が両手を挙げてわめき散らす。彼らは鬼ではなく、正真正銘の人間であった。


「私たちは小屋を荒らす者を捕らえるために戦っている。ごろつきめ、覚悟!」


「待ってくれ!我々がこの町にやってきたのは初めてである!

それに我々は小屋を荒らしに来たのではない!」


 ヒナは振り上げる刀を鞘に納めた。聞く話によると、彼らも鬼を退治しにきたのだという。

それにしてもずいぶんあっけなくやられてしまったな、とヒナが笑う。

男たちは苦笑いを見せるほかなかった。


「お嬢さんたちはお強い。ぜひエンキの旦那に紹介させておくれ」


 翌朝、へっぽこ鬼退治の一行に案内され、二人は彼らの本拠地へと向かった。

シロは警戒した眼差しでじっとヒナを見つめている。


「心配しないでも大丈夫。目的が同じなら仲間は多いほうがいい」


 本拠地に着くと、中央には三又の槍を担いだ赤衣の大男が鎮座していた。

男はごろつきまがいの奴らとは比べものにならない覇気を放っていた。


「旦那ァ、鬼には会えませんでしたが鬼よりおっかない方々をお連れしました!

ヒナ殿とシロ殿です!」


 紹介に少々むっとしながらもヒナは会釈する。シロも真似て小さく頭を下げた。


「貴様ら……かような小娘と小童にやられたのか」


 エンキと呼ばれた男は腰を上げ、槍を突きつける。


「ヒナ、と言ったな。我が名はエンキ。そなたの強さ、試させてもらおうではないか」


 ヒナは刀を構える。

その瞬間、エンキはその長いリーチを活かして先制攻撃を仕掛けてきた。


「ヒナ!」


 助けに入ろうとシロも踏み出すが、ヒナは笑って首を振った。


「手伝わないでくれ……私も試したいんだ。私の力と、彼の力を!」


 槍の使い手、エンキ。ヒナは今までに習ったありとあらゆる方法を試してゆく。

しかし、どうもうまくいかない。段違いの間合いに剣が届かないのだ。

落ち着け、落ち着けと何度も自分に言い聞かせ、呼吸を整える。

間合いを詰めるには、どうしたらいい?


「そなた、剣士相手にしか戦ったことがないと見た」


 エンキの槍が、ヒナの懐めがけて勢いよく襲いかかる……。


 ヒナはエンキの視界から消えた。

エンキが次にヒナに気がついたのは、既に槍が遠く放たれてからであった。


「エンキ殿、貴方は確かな槍の腕を持っている。だが、それでは先の私と同じ。

貴方も私の得物しか見ていなかったようだな。私の武器は……私という剣士だ!」


 今のヒナが自分から間合いを詰めるのでは、いとも簡単にエンキの槍に仕留められてしまう。

ぎりぎりのぎりぎりまで引きつけることで、彼が技を繰り出すと同時にその間合いへと滑り込んだのだ。


 ヒナは逆風を狙って刀を振り上げる。

……ふと飛んでいった槍()()()()()()()()()()が目に入り、思わず動きが止まる。


「先に槍を吹き飛ばしておいたのは大正解であったなヒナ殿」


 そう、穂先が地面に刺さっているのではなく、

槍自体が自身の重みに耐えかね埋まっているのだ!


「お察しのとおり、あの槍はとてつもなく重い。その重さなんと象一頭分である!」


 ヒナは口をぽかんとあけた。

そんな馬鹿なと言わんばかりに、槍とエンキを交互に見比べる。


 エンキはニヤリと笑ってヒナに拳を向けた。ヒナに拳が触れる、まさに紙一重のとき。

きゃっと漏れたヒナの悲鳴を聞くやいなや、

エンキは熱いやかんにでも触れたかのように素早く手を引いた。


「うおおおぉぉ!や、やはり殴れぬ!というか触れられぬ……ぬおおぉぉ!」


 エンキはへなへなとその場に崩れ落ちた。


「え、エンキ殿?」

「うおお名前を呼んでくださるな……」


 ……何がなんだかさっぱりだ。

しばらく経つと、エンキの仲間たちが笑いながら言った。


「あーあ、旦那の悪い癖が出ちゃったよ……。

実はエンキの旦那、女性にめっぽう弱くてなァ」


 熊のように戦っていた先ほどまでとは打って変わり、

文字通りちんちくりんに縮こまっている。


「旦那、旦那ァ。ヒナ殿の勝ちで終いですぜ」


 こうして、槍使いエンキとの闘いはなんとも腑に落ちないかたちで幕を閉じたのであった。



 夕刻。ヒナたちはエンキ一行に夕食を振舞われた。

子分たちは半ば宴会状態で、黄昏を満天の星が塗り変えても各々談笑を楽しんでいた。

ヒナ、シロ、エンキの三人は、事の発端である“鬼”について話し始める。


「我らは……故郷を、“鬼ヶ島”の鬼どもに滅茶苦茶にされた」


 ヒナは昼間の様子を思い出してはぷっと吹き出す。


「これ、真面目に聴かぬか」


「すまない、先ほどのエンキ殿がどうにも微笑ましくて」


 鬼という共通の脅威と戦う力を求めていた彼らはすぐに意気投合した。

新たに槍使いエンキを迎えた一行は、鬼の住処“鬼ヶ島”を目指すことになった。

楽々森エンキ/ささもり・えんき

旅に出て最初に仲間になった槍使いの男。 家族を殺した鬼に複雑な感情を抱いている。


ミナギ村

“銀の社”があるヒナの村。


商売の村・ソジャ

貿易が盛んな村。ここで鬼の手がかりを見つける。

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