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3 再会と誓い1

リリーが13 歳の頃、母がエドモンド侯爵と再婚することになった。エドモンド侯爵も、数年前に妻を病気で亡くしたらしい。

父が死んでから、爵位は父の弟である叔父に移っており、叔父夫妻の好意でテラー子爵家に住まわせてもらっていたが、母の再婚により、リリーと母は生まれ育ったこの家を出ていくことになった。


「リリーがいなくなるとさみしくなるよ」


リリーが家を出ていく日、叔父が、眉を下げてそうリリーに言った。叔父も叔母も、まだこどもがおらず、リリーを本当の子供のように扱ってくれていた。リリーはそんな叔父に抱きついて、頬ずりをした。



母と馬車に乗り、リリーはエドモンド侯爵家へ向かった。2つの家はそこまで離れているわけではなく、馬車を走らせれば半日もかからずに着いた。エドモンド侯爵家は、テラー子爵家よりも更に大きな家で、リリーはその差に、2回目だというのに改めて驚いた。家だけでなく、生活も、テラー子爵家にいたときよりも派手になる。パーティーやお茶会の誘いの数や、身につける服や装飾品の派手さ豪華さも、エドモンド侯爵家は格段に上がるのである。前世では、リリーの社交界での評判も、エドモンド侯爵家に来てから更に上がった。リリーは、エドモンド侯爵家での振る舞いも気をつけよう、と身を引き締める。


エドモンド侯爵家の使用人に案内されて、リリーと母は応接室に向かった。そこには、エドモンド侯爵と、まだ12歳くらいのアリサがいた。

リリーはアリサの姿に気がつくと、目を見開いた。そして、罪悪感から目に涙を浮かべた。そして、部屋に入るなり、リリーはアリサに駆け寄った。


「アリサ…!」


リリーはアリサの手を取った。アリサは大きな瞳を更に大きくして、リリーを見上げた。整えられた髪、綺麗な洋服、リリーの母が来るまでは、アリサは可愛がられて育てられてきたのだとよくわかる。


「おや、もうアリサのことは紹介していたんだな」


エドモンド侯爵が、少しだけ驚いたように言った。そんな彼に、リリーははっと固まった。


「いえ、まだ言っていなかったような…」


母が怪訝そうにリリーを見ていたので、リリーは慌てて、嫌ですわお母様お話してくださっていたじゃないお忘れになったの?と早口で捲し立てた。母は、そうだったかしら、とまだ怪訝そうにしていたが、特に気にしてはいなかった。そんな様子にリリーは胸を撫でおろす。


「(あ、あぶない…やっとアリサに会えたからつい…)」

「え、ええと、…リリー、お姉様?」


アリサは、おずおずとリリーに尋ねる。リリーはそんなアリサを見てまた目に涙が浮かぶ。


「今から2人で話があるから、リリーとアリサは遊んできなさい」


エドモンド侯爵にそう言われて、2人は庭に出て遊ぶことになった。

アリサに案内された中庭は、テラー子爵家よりも広くて豪華で、やっぱり大きな家だなと、リリーは何回目かの感心をした。

中庭にあるガーデンテーブルに2人で腰掛けて、使用人の入れたお茶を飲んだ。アリサは、じっとリリーの方を見ていた。リリーはそんなアリサに気が付くと、何かしら、と尋ねた。アリサはえ、ええと、と頬を赤くしてもじもじとした。


「お姉様が来てくれて、嬉しくって、私、…お父様はお仕事で忙しいし、…お母様はもういないし、…寂しかったから…」


アリサの言葉に、リリーは胸が痛くなる。こんなに幼気なアリサを、自分は虐めていたのだ。そんなことが、自分のことなのに信じられなかった。リリーは心臓が痛くなってきて、胸を押さえてテーブルに顔を伏せた。


「お、お、おねえさま…?」

「…ごめんなさい、私、持病があって…」

「じびょう…」

「気にしないで、すぐに治るから…」


リリーは顔を上げて、ごめんなさい、とまた謝る。アリサは、え、ええ…、と不思議そうに、リリーを見つめた。


「(…今度こそ、アリサを傷つけない。アリサとは円満に過ごして、そして最後には、アリサとルークの結婚を心から祝福したい…!)」


前世ではできなかったことを、リリーは今度はしたいと強く願った。


「ねえアリサ、あなたって、エドモンド侯爵とは仲が良いの?」

「はい、とっても。お父様はお優しいですよ」

「そっか…」


リリーはそうつぶやいた。娘のことは大切にしてきたようだが、継母に言われたら娘を冷たく扱ってしまうのか、と心の中で思う。


「(人間誰しも豹変してしまうものなのかしら、私も人のこと言えないし…)」

「お義母様はどんな方ですの?」

「え、えっと…」


アリサに尋ねられてリリーは固まる。前世ではどう答えていただろうか、とリリーは思い出せない。え、えっと、少し几帳面なところがあるようなないような…と、うやむやな返答を、リリーは返す。そうなんですか、とアリサは少し不安そうに呟く。


「あっ、で、でも、私、あなたと仲良くなりたいわ」


リリーはアリサに向かって言った。アリサは、リリーにそう言われると、目を丸くしたあと、嬉しそうに目を細めた。


「私も、そう思っていたところなんです」


そう言って微笑むアリサに、リリーはまた目が潤む。前世でリリーが彼女にしてしまったことはきっと消えないだろう。でも、せっかくやり直せるのなら、今度こそは良い姉として彼女と接したい。リリーはそんなことを切に願うのであった。





リリーのエドモンド侯爵家での生活が始まった。

母のアリサへの虐めをリリーは警戒していたけれど、生活を初めて数カ月経つが、心配していたようなことは起きなかった。リリーは拍子抜けしたが、前世も最初は母もアリサを虐めたりはしていなかったか、と思い直した。


リリーは、エドモンド侯爵家に届けられる様々な招待状を、相変わらず断っていた。エドモンド侯爵は、実父であるテラー子爵とは違い、そんなリリーを、社交性が足りないや、貴族の家の人間としての自覚が足らないなどと責めたけれど、母が、昔から内向的な子なの、とエドモンド侯爵をたしなめてくれたため、参加せずに済んだ。アリサは、両親につれられて、きちんと参加していた。


両親とアリサがお茶会へ出かけた日、一人で留守番していたリリーは、エドモンド侯爵家の中庭で一人、読書をしていた。お茶の準備をしていた使用人が、またお留守番なのですね、とリリーに話しかけた。


「ええ。あんまり好きじゃないの」

「せっかくリリーお嬢様はこんなにお美しいのに、人前に出ないなんて勿体ないです」

「…ありがとう」 


リリーは苦笑いして返す。前世では自分の美貌を見せびらかして、褒めそやされることで精神の安定を図るという非常に精神上良くないことをしていた身としては、そういう褒められ方は微妙な気持ちになる。

使用人は、お茶うけとして、クッキーを準備したが、それを見てリリーは、それは下げてください、と告げる。そんなリリーに、そうでした、申し訳ありません、と使用人は謝った。


「お嬢様は食が細いんですね。甘いものはほとんどお召し上がりにならないし、取られるお食事も少ないし」

「え、ええ、まあ…」 

「ですから、そんなに細くて美しいんですね。羨ましいわ」


本当は、体型維持のために無理やり食事制限をしているだけだけれど、と内心思いながら、リリーはお茶を飲んで、使用人に曖昧に返す。

使用人は、本を読むリリーを見て小さく微笑んだあと、寂しそうに目を細めた。


「…実は私、来月でお暇をいただくんです」

「え?」

「アリサお嬢様がお生まれになる前からお使えしていたんですが、…寂しいです」


リリーはそう言った使用人を見て固まる。リリーは、少し黙ったあと、お母様に辞めさせられたの、と声をひそめて尋ねた。そんなリリーに、使用人は目を丸くすると、え、ええと、と答えにくそうに濁した。そんな彼女の様子に、リリーは察する。


「(…少しずつ、アリサの味方を排除しようとしてるのね)…ねえ、あなたがここで働き続けたい気持ちがあるなら、私がお母様に頼んでみましょうか?」

「え、でも…」

「私も、新しく来た人にお世話されるより、少しでも慣れた方にしていただくほうが心地良いし」


ね、そうしましょう、とリリーは使用人に言った。使用人は、え、ええ、と不安そうに頷いた。

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