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2 2度目の初対面3

2度目の人生を始めることとなったリリーは、1度目と比べたら随分目立たなく、おとなしく暮らすことにしていた。お茶会やパーティーの招待状がくれば、今までは両親について必ず参加して、目立つ格好をして、会場の賞賛を集めていたけれど、リリーはほとんど参加すらしなくなっていた。したとしても、地味な格好で静かにその場にいるだけだった。

目立たず、他人の噂にも上がらない人生なんて、今までのリリーには考えられなかったが、それはそれでリリーは楽で良いと思えた。自分を綺麗に着飾って、その評価を他人から過剰に求めて一喜一憂することは、リリーにとってはとてもストレスだった。自分の身なりは綺麗にしても、自分の中で評価を完結させれば、リリーは無闇に悩み、病まずにいられた。


しかし、ルークはリリーを一人にしなかった。ルークは、社交の場でリリーを見つけると必ず親しげに話しかけてきたし、目立つルークと並ぶことで必然的にリリーも目立ってしまった。リリーはなるべく短い時間でルークと一緒にいるのを済まそうとしたけれど、ルークはそうさせなかった。


「(そうそう、こういう奴だった…)」


ハワード家のパーティーにお呼ばれしたリリーが、またルークに捕まりながらそう思った。ルークはその人当たりの良さから、学校でもどこでも、誰とでも仲良くしようとするような人物だった。

あのルークが近づく少女、ということでリリーに周りからの視線が集まる。すると、誰あの美しい女の子は、と周りがどよめく。リリーはどうにか目立たないようにグラスを顔の前に持ってきてなるべく顔を隠してみせるが、周りの遠慮のない視線は容赦なくリリーに突き刺さった。

以前は、歩いているだけで周りが自然とリリーを注目したが、おとなしくしている今はルークによって注目が誘導されている。態度の感じで、同じような見た目でも周りからの印象は変わるのだと、それが二度目の人生を過ごすリリーの学びだった。

しかし、いくら目立たないようにしても、リリーの美貌ははたと気がついた周囲の視線や関心を離さなかった。気にしないように気にしないように、と呪文のように彼女が唱えても、周りはリリーのことを、綺麗だ、美しい、と賞賛してくる。そして、でもやっぱりルークの方が目立つね、と締められる。


「(だから近づきたくないってのに…)」


恨みがましい気持ちで隣で呑気に喋り続けるルークを見つめる。ルークは、そんなリリーに気がつくと、なに、と首をかしげる。相変わらず、どんなに噂をされても、周囲の視線を集めても動じない男である。もうなれきっているのかもしれないけれど。

リリーは彼と前世で接していたように、能天気よね、と言おうかと思ったけれど、あまり会話をするとまた仲良くなって、自分がこの人を好きになるかもしれない、と危惧し、リリーは、いいえ、と頭を振った。


「とても楽しそうだな、とおもって」

「もちろん楽しいよ」


にこり、とルークが微笑むと、また周りがざわつく。リリーは、相変わらずだ、と思いながら彼に感心すらした。

ふと、リリーはテーブルに置いてある軽食や飲み物に視線が移った。そういえば、いつもの癖で今日のために昨日の夜から食事を控えていたから、リリーはものすごく空腹だった。


「(ああ…フルーツがたくさんのったケーキがある…)…それじゃあルーク、私はこれで…」

「そんなこと言わずに、もう少し俺と話そうよ」

「パーティーは色々な人と話す場所でしょ。私たちはまだこどもだけれど、もっと周りとの関係を構築するべきだわ」

「そういう君はめったに参加しないし、参加しても一人でこそこそしてるじゃないか」

「…」

「…君、俺と話したくないの?」


ルークは、じっ、とリリーを見つめる。リリーは目を泳がせながら、そんなことない、と否定する。


「(…そんなことない、ことはない…)」

「よかった」


ルークが、花が咲いたように笑う。リリーは、そんなルークを見て、体に電気が走る。頬が少しずつ赤くなっていく自分に、いい加減にしないと、と自分で戒める。

ルークは、じゃああっちにいこうよ、とリリーの手を引く。またこの流れだ、とリリーは遠ざかるケーキたちを背中にしながら赤い頬でため息をついた。





リリーの2回目の人生が始まって数年後、彼女が10歳を過ぎた頃、優しかった父が亡くなった。リリーが9歳になる直前に倒れてしまい、そこからずっと闘病していたけれど、かなわなかった。

母は父の亡骸の前で自分が大人であることを忘れたように泣きじゃくっていた。リリーは、冷たくなった父の頬に触れながら、この人はいつも私のことを可愛がってくれた、と思い出す。もしこの人のところにいられたら、万が一王弟の目にリリーが止まっても、彼はリリーを売り渡しはしなかったと思う。断ったことで家がどんなに国から冷遇されたとしても、そのリスクをわかってそれでも断っていただろうと、そうリリーは信じられた。


テラー子爵の死を悼むように、お葬式の日の空は曇天だった。静かに、そしてしめやかに、式は続いた。

お葬式が終わり、リリーはハンカチで目元を押さえ続ける母の手を握った。母は、そんなリリーを見ると、リリーに抱きついた。そして、何もいわず、鼻をすすりながら彼女の頭を撫で続けた。


母が、父の弟である叔父を含む大人たちと何処かへ行ってしまい、一人になってしまったリリーのところへ、参列していたルークがやってきた。ルークはいつもより元気がなく、リリーの哀しみを鑑みてそんな態度でいるのだとわかった。リリーは、来てくれてありがとう、とルークに礼を言った。ルークは、いや、と頭を振る。


「良く眠れているの?」

「ええ、それなりには」

「そう」


ルークは、リリーから目を逸らして空を見上げた。リリーもそれにつられて空を見上げた。灰色の空は重たそうで、リリーの気持ちも晴れない。


「…俺も、少し前に父を亡くしたからわかるよ。悲しい時は泣いた方が良いんだ。気持ちを覆い隠してしまうと、いつか耐えきれなくなる」


ルークは、そう言うとリリーの目を見た。リリーは、ルークの瞳を見つめ返す。最初の人生のとき、幼かった自分はずっと泣いていた気がする。それでも心だけ大人の今は、周りの目を気にして泣くに泣けない自分がいた。特に、母があんな状態だから、余計に自分だけはしっかりしないと、という気持ちが強くなっていた。リリーは目を伏せて、ありがとう、と返す。ルークは、そんなリリーの手に触れた。そして、優しく上から包んだ。


「大丈夫。俺はそばにいるよ」


ルークは、そう言って真剣にリリーを見つめる。リリーは、そんなルークから目が離せない。優しい色の瞳が心配そうに揺れている。リリーは、…ありがとう、と小さく笑って返す。


「でも、私はだいじょうぶ…」


話しながら、自分の目から涙が一粒こぼれたことに気がつく。リリーは、あれ、と思いながら涙がまた1つ2つと零れ落ちることに動揺した。

リリーはルークから手を離し、涙をぬぐった。しかし、涙がどんどんあふれてくる。ルークは、リリーの手を引くと、彼女を優しく抱きしめた。


「泣いたほうが良い」


ルークの言葉に、リリーは堪えきれずに顔が歪んだ。そして、次から次へと溢れる涙に抗えなくなった。ルークの肩で顔を隠したリリーは、声を出して泣き続けた。

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