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17 恋する闘志3

シリウスに恋の啖呵を切った翌日も、リリーは全校生徒から注目の的だった。もちろん、マークの計らいによって、リリーとシリウスの会話を聞いていた生徒は他にはいなかった。またマークに助けられてしまった、とリリーは心の中で呟いた。

リリーは、こんなに綺麗な人いたかな、とか、本当に可愛い…などとあちこちからリリーに見惚れる生徒の姿が視界に入ったけれど、彼女はそれを特に深く気にしなかった。4回の人生の経験上、こういった騒ぎはしばらくすれば必ず収まるのがわかっているからである。リリーは、ふと目が合った野次馬生徒の一人である他学年の女子生徒に対して、微笑みを返すほどの余裕を見せた。そして、リリーに微笑みかけられた女子生徒とその周囲の生徒たちはまた、感嘆のため息とともにリリーにうっとりと見惚れるのであった。



アリサは昨日からの縁もあり、モニカやモモとよく仲良くしているようであった。リリーは自然とその女子グループに入る形で2日目を過ごしていた。モニカは、同じ仲間内であればやはり、さばさばとした気持ちのいい性格の友人になるし、それが前世では彼女に苛められたリリーには少し不気味に思えた。しかし、今世は今世であるので、角の立つようなことをリリーは決してせず、モニカの話に笑顔で対応していた。

そしてモモは、これまで関わってきたことがなかったので、どんな生徒か深く知らなかったけれど、どちらかといえばアリサによくにた、ほわほわして笑顔が優しいおっとりした女子生徒だった。彼女なら、アリサと上手くやっていけるだろうと、リリーは思った。


学校の授業は、4回同じ事を習っている上に、前世では特にしっかり勉強したこともあり、リリーにとってはかなり簡単だった。リリーは、しかし真面目に授業を聞いていた。アリサたちが、さっきの授業わからなかった、と呟けば、すぐにリリーは教えた。頭のいいリリーに、アリサたちは感心していたし、そんなリリーを頼りがいがあると感じたようだった。



お昼の時間になり、リリーは早く済ませてシリウスのところへ行こうと立ち上がった。すると、アリサがリリーを呼び止めた。


「お姉様、ルーク様がお姉様も一緒にランチしませんかって、誘っていらしたけれど…」


アリサが、伺うようにリリーの方を見た。リリーは、ごめんなさい、とアリサに軽く謝った。


「えっと、例の彼に会いに行かないといけなくって」

「あっ…」


アリサは理解したようで、わかりました!とかしこまると、笑顔で、それでは、と手を振って去っていった。リリーは、がんばってね、とアリサの背中につぶやくと、カフェテリアへ急いだ。




サラダとコーヒーだけの味気ない昼食を済ませた後、リリーはシリウスの教室へ向かった。すると、一人で勉強をするシリウスの姿があった。リリーは、そんなシリウスの姿に胸が高鳴った。短い黒い髪に、涼しげな目元。綺麗な青緑色の瞳。これまでは何度も見てきたし、これからも当然のように眺められるものだと思っていたのに、こんなことになるなんてと、リリーは胸が痛む。しかし、4回も人生を繰り返してきて、最後の人生、しかも、前世ではシリウスと一緒に生きる人生を自ら手放しているのである。リリーはシリウスを諦めるわけには行かないのだ。


リリーは、シリウスの隣の席に静かに腰を掛けた。すると、シリウスはリリーに気がついたようで、横を向くと目を丸くした。そして、気まずそうに視線をそらした後、またノートと教科書に目を落とした。リリーは、持ってきた勉強道具をシリウスの隣の机で広げると、静かに勉強を始めた。静かな昼休みの教室で、2人のペンがノートの上を走る音だけが響く。終始何かをいいたそうにしていたシリウスが、とうとう耐えかねて、なあ、と口を開いた。


「…なんでこんなところで勉強してるんだ?」


シリウスが、教科書に視線をやったまま、リリーにそう尋ねた。リリーは顔を上げて、シリウスの横顔を見つめる。


「シリウスがここにいるから」

「…」

「それに、シリウスこそなんでこんなところで勉強しているの?図書館でしたらいいのに」

「図書館なんてあるのか?…まだ入学したばかりなのに詳しいな…」


感心するシリウスに、リリーは気まずくて視線をそらす。こんな会話を前もしたことをリリーは思い出す。リリーは、4回目の学校生活だからということは口が裂けても言えるわけがなく、校内図をみたらのってるわよ、とだけ返した。


「…それなら、放課後は図書館で勉強する」

「それなら案内するわ」


リリーがわくわくした瞳でシリウスを見つめる。シリウスはそんなリリーを見て固まったあと、ぎこちなく視線をそらして、いや、いい、と頭をふった。リリーは、眉を下げて、なんで、と不服そうに尋ねた。


「校内図にのってるんだろ」

「…でも、案内役がいたほうがいいでしょう?」

「君の時間を使わせたら悪い」

「……その数学の問題、間違えてるわよ」

「え」


シリウスが、リリーが指差した先に視線を移す。リリーは、ここよここ、途中式が間違ってる、とシリウスに伝える。シリウスはリリーの指差した式を見て少し考えた後、ほんとだ、と声を漏らした。リリーは、そんなシリウスを得意げな顔で見つめる。


「教師役にもなれるわよ?」

「…」


シリウスは、気まずそうに目をそらす。そして、少し長い間黙った後、小さく息をついた。


「…友だちとして、なら…」


シリウスの提案に、リリーは目を丸くした。そして、顔をしかめて、いやよ、ときっぱり言った。そんなリリーの方を見て、今度はシリウスが目を丸くした。


「私は、あなたの友だちにはならない。そういう気持ちで、あなたのことを見ていない」

「…」


シリウスは、また少し黙った後、軽率なことを言って悪かった、と真剣な声で謝罪した。そして、それなら、放課後のことは断る、とシリウスは言った。リリーは、そんなシリウスに口を噤む。

すると、教室のドアが開いた。ドアの方を見ると、マークが立っていた。マークは、朗らかな表情で、あー、リリーだ〜、と手を振った。リリーはぎこちなく、こんにちは、と挨拶をした。


「カフェテリア結構混んでてさ〜。さあ、勉強しよっか」


マークはそう言って、リリーの前の席に座った。そして、あれ、とリリーの机の上を見て声を漏らした。


「リリーも勉強してるの?」

「え、ええ…」

「なら、放課後リリーも時間ある時に一緒に勉強しようよ。僕たち、予定が合えばこれから一緒にこの教室で勉強しようって、話してたところなんだ〜、ねえ、シリウス」


マークは朗らかにそうシリウスに話を振る。シリウスは、ああ、まあ…と曖昧に返す。マークは、それじゃあ決まりだね、とぽんと両手のひらを合わせて微笑む。とうとうリリーは、マークが救世主のように光り輝いて見えた。リリーは、それなら、と食い気味に話した。


「それなら、図書館はどうかしら。今シリウスとも話してたの。会話ができるスペースもあるし、調べ物もできるし」

「そういえば、図書館って手があったか〜。うん、そうしよう。えーっと、どこにあったかな…」

「私、知ってるから、案内するわね」

「え〜たすかるよ〜」


リリーとマークはそう話した後、ちらりとシリウスを見た。シリウスは、しばらく黙ったあと、観念したように、よろしく頼む、とだけ声を絞り出した。






放課後、リリーはシリウスとマークと合流して図書館へ向かった。そこで、会話のできるスペースに3人並んで座り、黙々と勉強を進めた。シリウスはわからないことがあればマークに尋ねた。マークはほとんどすべての問題に卒なく答えていたが、ときどきわからないところがあるとリリーにも答えを尋ねた。リリーはマークの質問にすらすらと答えられたけれど、どの問題も多少の発展問題といえど、リリーの知るマークが答えられないとは思えず、おそらく色々察してリリーも輪に入れようとしてくれていることが感じられた。



3時間ほど勉強したあと、疲れたから終わろうか、とマークが切り出した。荷物を片付けて図書館を出ると、もう外は暗くなっていた。3人で宿舎までの道を歩きながら、他愛のない話をした。そんな日々がリリーには懐かしくて、愛おしかった。前世ではあまりにもありふれていたのに、今思えばこんなにも宝石みたいな日々だったのだと、何度も人生をやり直しているのにリリーは今気がついた。


「リリーって、すっごく頭がいいんだね〜。びっくりしちゃった〜」

「ありがとう。マークも、やっぱりというか、とっても知識があるわ」


フィリップス家という高貴な家柄のため、他の家よりも更に勉学を含む教育を幼い頃からよくされていたのだろう。4度目の人生を歩むリリー以上の知識量を持つマークがあまりにもすごすぎて、リリーは驚くしか無かった。

マークは、あはは、ありがとう、と朗らかに笑った。


「まあ、僕の家は少し特殊だから」

「特殊?」

「子どもに勉強させることが親の生きがいみたいでさ。まあ、色々あるんだ。僕も学ぶことは好きだし、まあいいかなってかんじ。リリーは?家の方針?」

「ええと、まあ、…個人的な趣味かな」

「…昔から、本が好きだったからな」


シリウスが、ぽつりとつぶやく。リリーは、それが嬉しくて少しだけ目を大きくして、それから目を細めた。そして、ええ、と頷いた。


「本が好きだったの。小さい頃はシリウスが畑仕事したり、魚釣りしたりしてる横でずっと読んでいたわ」

「へー!なんか、情景が目に浮かぶよ」


マークがそう言って微笑む。リリーも、くすくすと微笑む。シリウスは、いつもの無愛想な顔のまま歩く。まるで前世の、シリウスと婚約する前の関係に戻れたような、そんな錯覚に陥って、リリーはその錯覚の中嬉しそうに微笑んだ。

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