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17 恋する闘志2

リリーは、また男子クラスに戻った。すると、教室には勉強している男子生徒が1人いるだけだった。リリーは扉の前に立って、息を呑んだ。そこにいたのは、間違いなくシリウスだった。

人の気配に気がついたシリウスが顔を上げ、リリーがいることに気がつくと、目を丸くした。


「君…」 


シリウスの声が、教室に響いた。シリウスはペンを持ったまま固まっている。リリーは、真っ直ぐにシリウスの机の前に立ち、椅子に座るシリウスを見下ろした。最後に会ったよりもずっと背が伸びて、大人びたシリウスに、胸が震える。会いたくてたまらなかった人を見て、涙が出そうになるけれど、リリーはこらえる。


「わたし、…私、あなたに話さなくちゃいけないことが…」

「…待て」


シリウスはそう言って立ち上がった。椅子が動く音に、リリーはびくりとする。シリウスはリリーの方ではなく扉の方を見ながら、気まずそうに頭をかく。リリーは、首を傾げながらシリウスの視線の先を見る。すると、そこには移動したリリーについてきた野次馬生徒たちが大勢扉の外からリリーとシリウスの様子を眺めていた。


「な、なんでこんなに…」

「…君も大変だな」


シリウスはため息をついた。リリーは、ご、ごめんなさい、と謝った。


「また別の機会に、人のいないときに、話がしたいの、時間、いつが空いて…」

「あれ、何の人だかりかと思ったら、取り込み中?」


マークが教室に入ってきて、シリウスとリリーを交互に見た後に首を傾げた。リリーは、そんなマークに、あ、あの、と話しかけるが、それに被せるようにシリウスが話しだした。


「いや、何も無い。もう話も終わる」


シリウスのほとんどリリーを突き放すような言葉に、リリーは目を見開いて固まった。2人のちぐはぐな様子に何か気がついたらしいマークが優しく笑って、僕、人払いしてくるよ、と言って、教室から出ていった。野次馬生徒たちも、フィリップス公爵家の人間に諭されると速やかに野次馬をやめて去っていった。

静かになった教室に取り残されたリリーは、体が固まって動けなかった。

リリーは、やっとの思いで、震える唇を動かした。


「何も無い、もう終わる…って、言うのは?」

「…そのままの意味だ」

「どういう意味?わからない。わからないよ。なんにもわからない。もしかして、手紙を出していなかったから?それには理由があって、」

「…リリー」

「もしかして、やっぱり手紙をくれていたの?そこに何か大切なことが書いていたの?そうなの?私、あなたの手紙は届いても読ませてもらえないようになっていたの、だから私、」

「リリー」


シリウスの真面目な口調に、リリーは口を噤む。シリウスは、リリーから視線をそらして、窓の外の青空を見た。


「もう、君のことは忘れようと決めたんだ」


シリウスの言葉に、まるでリリーは頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。シリウスは、それだけだ、と言って、暗にリリーに帰るような空気を見せた。しかしリリーは、頭を振る。


「…なぜ、どうして、わからない、わからないわ」


リリーは、足が震えるのがわかった。眉が強張り、瞳には涙がたまる。


「もし、本当に私のことを、1秒でも本気で好きだったなら、」


そう言葉を紡いだ時、こらえきれずにリリーの頬に涙がこぼれた。言葉数の少ない、無愛想だけど優しいシリウスが大好きだった。それでも、この場面での寡黙な態度のシリウスは、リリーにとってはあまりにも辛辣だった。


「そんな少ない言葉で別れを切り出すなんて、不誠実すぎる」


一粒涙をこぼしたら、リリーはどんどん涙があふれてきた。リリーは手の甲でどんどんあふれてくる涙をぬぐうけれど、間に合わない。

シリウスは、少し黙った後、リリーの方を見た。


「…君は、エドモンド侯爵家の人間になった。もう、俺とはとてもじゃないが釣り合わない。…これ以上これまでのように一緒にはいられない」

「それなら、私が必ずお父様を説得してみせる。計画は立てているの。だから、」

「そんな簡単なことじゃない」

「ええ、簡単じゃない。でも、やってみせるわ」

「…君と君の家族に俺とのことでいがみ合ってほしくない」

「きっとうまく説得してみせる」

「無理だ」


そうシリウスに返されたリリーの瞳から、溢れる涙が止まった。この人は前世からそうだ。地頭が良いのか知らないが、自分で考えて、自分で完結させてしまうのだ。何度も人生をやり直す中で接してきた大好きなシリウスの、良い面でもあり悪い面でもあるその癖を思い返しながら、リリーは、涙がとまった瞳をまっすぐにシリウスに向けた。


「どうして決めつけるの?どうして自分で勝手に決めつけて、私を置いて一人で身を引こうとしているの?どうして何も言わずにいつも、自分の頭の中で完結してしまうの?」

「…」


リリーは、シリウスの方にずいっと近づき圧をかける。シリウスはそんなリリーに萎縮して、一歩下がる。けれどリリーは構わず2歩3歩とシリウスに近づく。


「だいたいあんまりよ!こんなに長い付き合いなのに、あんなそっけなく終わらせようなんて!手紙もくれないし!!」

「…不誠実な態度をとって、君に、俺を嫌いになってほしかった。それに、君と長く話していたら、辛くなると思ったからで、手紙は俺がエドモンド家に送るなんておこがましくて、」

「そこよ!そこが、あなたの自己完結する悪癖っていってるの!」

「そんなの君だって、…」


シリウスは幼い頃たまにした喧嘩のときのように、何かを言い返そうとした。しかし、当時のように言い返したりせず、シリウスは考え込むと黙り込んでしまった。そんなシリウスにリリーは、もう彼は自分に取り合う気がないのだと悟る。リリーは、しかし諦めきれずにシリウスの瞳をまっすぐに見つめる。


「私はねえ、あなたのことが好きよ!ずっと前から今だって好きなの!ぜったい諦めないから!」


リリーは、ものすごい気迫でシリウスに迫る。そして、それじゃあ、また!と勢いよく踵を返して教室の扉を開けた。

すると、扉の横に立っていたらしいマークと目が合った。


「あっ…」

「ごめんね〜、人が来ないように見張ってただけなんだけど、ちらほら聞こえちゃった」


あはは、とマークは笑う。リリーは、さっきまでの勢い余る自分を思い出し、急に我に返り、恥ずかしくなって顔が赤くなった。つい、4度人生をやり直してた重みから、つい力が入ってしまった。これが最後の人生だと知っているので、どうしても必死に、シリウスと結ばれたい気持ちが早まったのである。


「(それにしたって、あの押しの強さは逆効果すぎた…本当に私って…!)」

「あの、…君たちって、結婚してた?」

「え?」


マークの言葉に、リリーは目を丸くする。マークは笑いながら、ごめんごめん、と言った。


「2人の感じが、僕の両親が喧嘩したときとどことなーく似てたから」

「え、えっと…」

「初々しくないっていうか…なんか、ずいぶん長く一緒にいたみたいに彼のこと言うから」

「(…まあ、前世では婚約までしたし、4度の人生全部で関わってきたし…初々しくはなれない…かな…)」

「僕は応援してるよ、2人のこと」


マークはそう言って微笑む。リリーは、勢いのまましてしまった自分の行動の恥ずかしさにマークの方を見られないまま、あ、ありがとう、と俯くことしかできなかった。






初日の授業が終わり、リリーはアリサと宿舎に戻った。明日の宿題をしながら、アリサは今日のランチでの出来事をリリーに話し始めた。


「お姉様と別れた後、モニカとモモとランチしていたら、ルーク様とエリックが一緒に食べないかって話しかけてくださいましたの。それから5人でお話して…楽しいランチの時間でした」


アリサは、そう、ぽやーっとしながら夢見心地でそう話した。リリーはそんなアリサのことを見つめる。アリサは、そんなリリーに気が付き、お姉様?と首を傾げた。


「どうかなさりました?」

「アリサ、あなた、ルークのことが好きなのよね?」

「へ?えっ、え、ええっ??」


アリサは、顔を真っ赤にして慌てだした。そんなアリサに構わずに、リリーは、そうよね、と念を押して尋ねた。アリサは顔を赤くして、少し額に汗をかきながら、は、はい、と頷いた。そんなアリサを見て、リリーも頷く。


「私は、シリウスのことが好きなの」

「シリウス…?」


アリサは、シリウスのことを知らないのか首を傾げる。同じ学年にいるの、私の幼なじみなんだけど、とリリーは続ける。


「私、あなたの恋を心から応援する。私も、この恋を叶えるために頑張る。お互い頑張りましょう」


リリーは、アリサの手を包んで、彼女の目をまっすぐに見てそう言った。アリサは、状況がよくわかっていないながらも、お互い好きな相手がいるという事実は把握できたので、は、はい!と頷いた。

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