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14 初対面・ザ・ファイナル1

はっ、とリリーが目を覚ますと、見慣れたテラー子爵の家にある自分の部屋が見えた。自分は椅子に座っており、後ろに立つ、古くから馴染みのある使用人が、リリーの髪を整えていた。馴染みの使用人は記憶にあるより若く、そして、鏡に映る自分はピンク色の可愛いドレスをきた8歳の少女だった。


「(また、戻ってきた…)」


リリーはぼんやりと鏡を見つめる。自分と見つめ合う可憐な少女が懐かしい。鏡に映る彼女はどんな顔をしているのだろう。愛しい人を見つけられたのに、やり直すことを選んだことを後悔しているだろうか。せっかくたくさんの友と出会えた人生を諦めたことを悲しんでいるのだろうか。優しい家族に恵まれ続けた人生を恋しがっているだろうか。


「(…いいえ、違うわ)」


リリーは真剣な瞳で、鏡に映る少女と見つめ合う。そして、互いの意思を確認し合うように頷く。


「(…これは固い決意よ。私は必ず、この最後のやり直し人生で、シリウスとまた結ばれるし、友人ともまた巡り合うし、優しい家族ともまた一緒になる)」


リリーは、そう心の中で繰り返し、うんうん、と頷いた。そんなリリーを、心配そうな使用人が鏡越しに覗いた。


「お嬢様、どうかされましたか?」

「ええ、大丈夫よ、ありがとう」


リリーは使用人に笑顔を向ける。使用人は、そんなリリーに安心したように微笑む。


「それならよかったです。今日はお嬢様の8歳の誕生日をお祝いするために、たくさんの方がみえていますよ」


使用人はそう言いながら、リリーの身だしなみを整えていく。リリーは窓から中庭を見つめる。外では綺麗な青空の下、使用人たちが着々とパーティーの準備をしている。見慣れた中庭が飾り付けられていく様子を、リリーは真剣な面持ちで見つめる。また8歳の時から始まるここでの生活は、どうなっていくのだろうか。


「(…でも、私は、エドモンド家に行かないといけないのか…。アリサのそばにいて、彼女をアシストしないと…)」


リリーは、そう気がつくと心が沈んだ。またあの優しい家族のもとですごしたいと願っても、アリサの幸せを実現するためには、それはもうすでに叶わない未来なのだというのは明白だった。しかしすぐに、何度やり直したからといって、万事上手くいくわけがないかと思い直す。

リリーはふと、鏡に映る可愛らしいピンクのドレスを見つめる。人生をやり直し始めてからは、このドレスを嫌がって着替えていた。母がリリーのために選んでくれたドレスを。


「(母が私に似合うだろうと選んでくれたものということを深く考えず、私はこれを断ってきた。ルークと比べられたくないから。目立ちたくないから)」


リリーは、鏡に映る自分を見つめる。何度も人生をやり直すうちに、リリーは、ルークと比べられることがなんだと、思えるようになれた。ルークなんてもうどうでもいいし、周りに美しさを比べられても気にしない。自分の良さを、見た目からはわからない愛すべきところをわかってくれる人がいるのだから。


「(それに、その人に愛してもらえる自分を、私はきっと愛せる)」


終わりました、と使用人はリリーに声を掛けると、お辞儀をして、すすすと後ろに下がった。リリーは椅子から立ち上がり、全身が映る鏡の前に移動した。母がリリーのために選んだドレスは彼女に良く似合っていて、美しい少女をより美しく見せている。

後ろに控えたいた使用人が、うっとりとした様子で、本当に美しいですお嬢様、と言葉を漏らした。


「(このパーティーで目立ったからと言って、王弟の目に留まるわけじゃない。今日は、母が私のために選んでくれたこのドレスを着よう。私の誕生日パーティーで、私が胸を張って、嬉しそうにしている姿を、両親に見てもらおう)」


リリーは、鏡の前でゆっくりと体を回して全身を確認した。そして、うん、と頷く。うん、美しい。この姿を、シリウスに見てもらえるのは素直に嬉しい。まるで強迫観念のように美しくあろうと必死になるのではなく、ただ単純に、自分の愛する人たちに見てもらうために着飾るのは、楽しい。美しい自分を見て、こんなにも素直に嬉しいと思うのは、リリーにとっては初めてだった。


「(前の人生では、今まで親しくできていなかった人とも友だちになれた。きっと、エドモンド侯爵と再婚した母やエドモンド侯爵と自分との関係をかえることもできる)」


リリーは、鏡に映る自分とまた見つめ合う。


「(…泣いても笑っても、これが最後の人生)」


あの時妖精が言った言葉を思い出し、リリーは身が引き締まる思いになる。これが本当に最後。だから、必ず悔いのない人生を送りたい。


「お嬢様、そろそろ会場に向かいましょう」


使用人に声をかけられ、リリーは、ええ、と頷くと、ピンクのドレスを翻して歩き出した。



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