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9 3度目の初対面3

リリーの父であるテラー子爵の葬儀が終わってしばらくは、リリーも母もずっと落ち込んでいた。リリーの父に代わって爵位を継いだ父の弟である叔父とその妻は、リリーたち母娘をずっと屋敷にいても良いと言っていた。


リリーは、相変わらず社交の場には出ず、読書やお菓子作りなど家の中でできる趣味に没頭した。そんなリリーに母は何も言わなかった。

ある日を境に、どうやら母に恋人ができたのだとリリーは悟った。それがエドモンド侯爵であることは、母から言われなくてもリリーは察していた。


母が家を空けることが多くなり、叔父や叔母がリリーがさみしくしていないかと気を配ってくれていた。リリーが平気そうにしているのを見て、2人は強い子だ、と驚いていた。


「(1回目の人生では寂しがっていたのかしら…)」


リリーは、本を読みながらそんなことを考えるが、思い出せなかった。特に気にしていなかったのかもしれない。自分にとっては誰かより自分が、美しいかどうかが一番で、それに最も執心していたから。考えれば考えるほど、1回目の人生の自分は周りのことだけでなく自分の心にも無断着だったのだと思わされる。





リリーが12歳になるころ、叔父が、リリーの誕生日会を開かないかと話してきた。そういえば、父が病に伏してから、リリーの誕生日会など開く余裕がなかったため、そういうものが一切開かれなかった。リリーは、大丈夫です、と断った。自分がそういった社交の場を避けていたのもあるけれど、叔父たちの手間になりたくなかったからだ。すると叔父は、悲しそうに眉を下げた。


「リリー、私は君を本当の娘のように思っているんだ。君の誕生日を祝わせてほしい」

「叔父様…」


父と良く似て、心の温かい叔父の言葉に、リリーは感謝の気持と申し訳ない気持が混ざる。


「…叔父様ありがとう、でも、本当にいいの、私あんまり人前に出たくないから」

「…そうか、なら、残念だけど…」

「…ねえ叔父様、私のことを娘のように思ってくれているって、本当?」


リリーが尋ねると、叔父はもちろん、と言った。叔父と叔母には子どもがいなかった。だから、リリーを本当の子どものように可愛がってくれていた。リリーは、それなら、と叔父の方を見ていった。


「それなら、私、ずっと叔父さんのところにいてもいい?私、エドモンド侯爵のところには行きたくない」

「えっ、り、リリー、なんでそれを…」

「(あっ…)」


リリーは自分が失言をしたことに気がついて背中に汗が伝うのを感じた。叔父は、まあ、どこからか聞いたのか、と困ったように腕を組んだ。


「リリーがここにいてくれるのは嬉しいよ。でも、エドモンド侯爵のところへ行ったほうが、リリーにとっても良いんじゃないかな。お母さんと一緒にいられるし、エドモンド家みたいな大きな家に行けば、良い縁談も出会いもある」

「それよりも私は、生まれ育った家で暮らしたいの。…駄目かしら」

「私は構わないけれど…」


本当に良いのだろうか、という顔を叔父はした。リリーは、ありがとう叔父様、と微笑み、お母様は私が説得します、と言った。






こうして、母のエドモンド侯爵との再婚が決まった。そこへ、リリーはついていかないということも。リリーが13歳の頃だった。


「…本当に、これでお別れなの」


別れ際、馬車の前で母は悲しそうに眉を下げた。リリーはそんな母を見つめて、ゆっくり頷く。


「お母様、どうかお幸せに」

「…」


母はリリーを見つめながら、瞳に大きな涙をためて、それをハンカチでぬぐった。それでも涙が止まらず、母は声を震わせて泣き出した。そんな母の背中をさすりながら、リリーは、本当にこれでよかったのだろうか、と一瞬思った。母にこんなに悲しい思いをさせてまで、自分はどうなりたいのだろう、と。


「(いいえ、もう決めたのよ。私は、前回のような人生は歩まないと)」


リリーは、溢れそうになる涙をこらえて、母を抱きしめて、お健やかに、と母に告げた。母は震える手でリリーの髪を撫でて、あなたもどうか幸せに、とやっとの思いでそう言葉を絞り出した。

そして、リリーは馬車に乗り込み、去っていく母を見えなくなるまで眺めていた。




こうして、リリーは叔父の養子になった。もともと大きくないテラー子爵家は、先代であるリリーの父のつてでそこそこ社交の場への誘いが来たけれど、叔父に変わるとそれもほとんどなくなった。もともとリリーは、誘われても行かなかったので、断らなくて言い分気持ちが楽になった。オクトー公爵家とは、先代との縁で仲良くしていた上級貴族の1人で、そういった家との関わりもなくなった。つまり、ルークとも故テラー子爵のお葬式を最後に一切会わなくなった。


リリーは、のびのびと自由に毎日を暮らした。見た目を比較されず、噂にも左右されず、好きなものを食べて、幸せに過ごしていた。


14歳の夏、毎年恒例の避暑地への休暇に叔父と叔母とリリーは向かった。湖のそばでテーブルと椅子を広げ、3人でピクニックをした。リリーは、綺麗な湖を見つめながら、深呼吸をした。父や母との楽しい思い出を思い出しながら、大好きな叔父と叔母と今の話をする。それが、たまらなくリリーにとって幸せだった。


「来年からは、しばらくこられないわね」


叔母が寂しそうにそうため息をついた。来月から、リリーは前世でも通ったパブリックスクールへ3年間通うことになっていた。


「卒業したら直にリリーも結婚だな…」


叔父はそう言っただけで目に涙を溜めていた。そんな叔父を見て、嫌ですわあなた、と笑いながら叔母が叔父の背中を擦った。リリーはそんな2人を見て、幸せだったから笑った。


「(学校生活も山場の一つよね…)」


リリーは、カップにいれられた紅茶を見つめて、急な緊張感に襲われた。学校生活という閉鎖空間の中で、どれだけルークと関われずにいられるだろう。


「(いいえ、私は、やってみせる。なんたって、3回目なのだから…)」


リリーはそう意気込んで、うんうん、と頷いた。

ふと、夏の風が吹いて、リリーは顔を上げた。湖の方をみれば、相変わらず綺麗で、リリーは目を奪われる。


「(シリウスは元気にしているかしら)」


リリーはふとそんな事を考える。またシリウスに会えることが楽しみで、リリーは、小さく微笑んだ。



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