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6 諦めきれないもの2

保健室で、リリーは授業が終わるまで休んでいた。その間ずっと、ルークがリリーの側にいた。

放課後になり、保険医がリリーに体調を尋ねた。リリーが回復したと伝えれば、それなら今日はすぐ宿舎に戻りなさい、と言った。ルークは、寝不足なんじゃない?今日は早く寝なよ、とリリーに言った。


荷物を取りに教室に向かおうかとリリーがしていたら、ルークが、ねえ、とリリーに声をかけた。


「前に、目立ちたくないって言ってたよね。俺たちといて、目立つのが嫌ってこと?」

「…まあ…」


リリーは、説明が難しいことがもどかしかった。目立つ美人になって王弟に見つかりたくないし、ルークと仲良くなることで失恋して悲しい思いをしたくない。でもそんな理由だからとルークに言っても、彼にはわけがわからないだろう。リリーが言葉を濁していると、ルークは少しだけ考えたあと、それじゃあ、と言った。


「俺たち2人で、こっそり会おう」

「えっ?」

「そうすれば目立たない」

「そ、そんなこと…」

「まかせて、目立たないところ、前に何箇所か見つけたから」


ルークはそう言って微笑む。いや、でも、と言葉を探すリリーに、これで決まりだね、とルークは言った。


「それじゃあ、またね、リリー」


今日は早く寝るように、と釘を差して、ルークは保健室から去っていった。リリーはその背中を見つめながら立ち尽くしてしまった。





宿舎に戻り、自分の部屋で横になりながら、リリーはもんもんと考えていた。


「(ルークと2人きりで、隠れて会う…)」


そんなことを考えて、リリーは顔が、ぼっと赤くなるのを感じた。2人きりでコソコソ会うなんて、前世ではしなかった。


「(そもそも、なぜルークはそんな提案をするんだろう…)」


そこが不思議でたまらなかった。もしかして自分のことが好きなんだろうか、と思ったけれど、ならなぜ前世ではアリサとくっついたのだ、と思い直して、自分のことが好きだという説はリリーの中で消えた。


「(そうだアリサ…)」


リリーは、はたとアリサのことを思い出す。そもそも、アリサはルークが好きなのに、それを知っている自分が隠れてルークと会ってもいいのだろうか。


「(ルークとアリサがくっつく未来を、変えることだってできるのか…)」


リリーは、ふとそんなことを考える。この先どうなるかだいたいわかる自分なのだから、何かターニングポイントを作り出して、未来を変えられるのかもしれない、母の虐めをなくしたように。


「(例えば、エリックはアリサが好きなのだから、エリックとアリサをなんとかしてくっつける。そうしたらルークはフリーになるから、そこに私が…)」

「お姉様!」 


部屋のドアがあいて、慌てた様子のアリサがリリーのそばに来た。アリサは心配そうな顔でリリーを見つめている。


「お姉様が倒れたって聞いて…。お姉様、お食事をあんまりとられないでしょう?私、もっと普段から言ったらよかったのかなって、でも、お姉様は体型に気を使われていましたし、口を出すのもって、悩んでいましたから、結局お姉様が倒れてしまって、私、自分の意気地のなさが情けなくって、私、わたし…」


アリサは、話しながらどんどん目に涙をためていく。リリーは、ちがうの、アリサは何も悪くないのよ、と慌てて否定する。アリサは、でも、でも、としゃくり上げる。


「(ああ、やっぱり最低だ私は…)」


純粋な涙をリリーのために流してくれるアリサをみて、リリーはまた自分を化け物に感じた。


「(変われない、私、二回目なのに、なんにも…)」


アリサの背中を撫でながら、呆然とリリーはそう思った。このままルークと秘密に会っていたら、きっとまた1回目の人生と同じ結末を迎えていたような予感がして、リリーは寒気がした。


「(この子は、ルークと結ばれて然るべきなんだ)」


リリーは、そう確信するしかなかった。

ルークに触れた手の熱を、まだリリーは覚えている。その熱にすがりたい気持ちはもちろんある。それでもリリーは忘れなくてはいけない。これは自分には与えられないものなんだって、もういい加減に理解しなくてはいけない。


「…ありがとう、アリサ」


アリサの優しい気持ちが嬉しくて、でも、だからこそ哀しくて、リリーは涙をこぼした。アリサは、そんなリリーに気がついて、お姉様泣かないで、と大きな瞳に涙をためた彼女が言う。そんなアリサが可愛くてリリーは微笑む。どうか幸せになってほしい。あなたの幸せを、前世で一度私は奪いそうになったのだから。だからこの人生では、あたなには最初から最後まで花道を歩いてほしい。そうリリーは心の底から思った。







朝、教室に向かうと、リリーの机には手紙が置かれていた。それはルークの字で、放課後に中庭で、ということだった。リリーはそれをじっと見つめたあと、すっと隠すようにノートに挟んだ。



放課後になり、リリーはルークが指定した場所に向かった。そこは確かに人けがなく、ルークがひとり、ぽつんと置かれたベンチに座っているだけだった。ルークはリリーに気が付くと、うれしそうな顔をしてリリーに近づいた。


「来てくれてありがとう。ここ、いいだろ、静かで。変な噂も立てられない」


ルークが人懐っこく笑う。リリーはそんなルークを、じっと見つめる。そんなリリーに気がついて、ルークは不思議そうな顔をした。


「…リリー?」

「…今日はね、前のあなたの提案を断りに来たの」


リリーの言葉に、ルークが固まる。


「…なぜ?君は、仲良くなりたいって」

「それ以上に、優先したいことがあるの」

「…わけがわからないよ。君は、どんな難しい話をしているの?」


ルークの言葉に、ほんとうにわけがわからないだろうな、とリリーは他人事のように思った。自分は人生をやり直していて、未来を知っているからこそ、あなたと仲良くできない、なんて。誰にもわかってもらえないであろう自分の状況がとっても孤独に思えて、でも、そうするしかないのだと、リリーは自分に言い聞かせる。


「ごめんなさい、…さようなら」

「リリー、」

「私を友だちと思ってくれているのなら、もう私には関わらないでほしい。…今まで気にかけてくれて、ありがとう」  


リリーは、精一杯の見栄でルークに微笑む。そして、ルークから背中を向けて歩き出した。ルークは何も言わずに、リリーの背中を見つめる。リリーは、せめて部屋に戻るまでは泣かないと、そう決心していたので、決して帰り道は泣かずに、部屋までたどり着いた。

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