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はじまりのBLUE、エンドロールブルー  作者: 日高 章
 1 佐久間立夏《さくまりっか》 サファイア色の想い
5/9

 4 気配

 病院と役所、それから電車の中、そういう場所には様々な事情を抱えた人々が一様に介する。

立夏りっかもまた、その一人にすぎない。

特に病院という場所は厄介で、人の本性が現れる場所でもある、と思っている。


 昼休みに入った直後のあの映像と頭痛に疑問を抱きながら、立夏は体温測定をした。

しかし熱もなければ風邪症状もない。

単純にストレスが溜まっていることは明らかだが、一旦フタをした。

それからいつもの、患者たちに柔らかい笑顔を向けながら仕事をする。

ロビーで待つ患者の中に、先日腕の痛みを訴えていた男性が見えて、声をかけた。


名利みょうりさん、お怪我の調子はいかがですか?」

「ああ、だいぶ良くなりましたよ。体のメンテナンスというのはやはり、必要ですね」


 椅子に座った二十代後半くらいの、スーツを着た長身痩躯の男性が顔をあげた。

「それは、人間ですからね」

と、軽く答えたところ、名利は言った。


「人間っていうのは、本当に不便な生き物ですね。不便というより、不自由だ」

「それは、本当にそうだと思います」


 吐息交じりに同意する。

すると名利は不意に廊下の先に目配せして、


「ちょっと、急用ができたので、また来てもいいですか」

「はい、伝えておきます」


 言って、目を向けた先とは反対側の方向に歩いてゆく。

正面玄関は逆の方向だ。

声をかけるよりも早く、彼は革靴の音を殺しながら立ち去って、立夏は顔をしかめた。

とにかく、仕事だ。

受付の女性にその旨を伝えて、立夏は診察室の裏側に戻ることにした。

薬品棚を抜けて、電話機の前で立ち止まる。

たしか、休憩に入る前に、ほかの看護師に用件を伝えていた。

それが伝わっていない可能性があった。


「薬局へ問い合わせがあったはずですが、終わってますか?」


 それまで二人で会話していた二人の看護師が、立夏を見るなり視線を逸らした。

立夏は言いたいこともすべてを封じ込め、担当医に確認するほうが先決だと判断する。

「佐久間さん怖いわね、怒ってるのかしら」

の声を抜け、誰も使っていない診察室から外に出ようとした、そのときだった。

再び頭が割れそうなほどの激しい痛みが走る。

思わず頭を押さえ、もう片方の手をベッドについてなんとかバランスを保つ。

額から冷たい汗が滴ったかと思うと、再び映像が流れ込んできた。



 それは、数年間封じ込めてきた現実であった。




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