3 喪失
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流星はたまるのことをあまり知らない。
知っていることと言えば、骨董品や古いティーカップを集めること、学校には行っていないこと、それから〈想いの受取人〉ということ。
もう一つ、流星の命を救った人物であること、くらいだ。
病院内のコンビニのカフェエリアに座り、彼女は無糖の紅茶を一口含み、おもむろに口を開いた。
「さて、佐久間立夏さん。今回は彼女の〈喪失〉を取り戻すわけだけど。流星くんはこの喪失について、今のところ思うところはあるかしら?」
「そんなに簡単に理解出来たら、苦労しない」
「それもそうね」
今の流星にとって、失うということの意味が理解できない。
これまで持っていたものが消える感覚はわかっても、適切な反応というものがわからない。
「思うんだが、無理に映像を送らなくても、いつもみたいにすればいいんじゃないか」
「彼女を、心配しているのかしら」
たまるの返答に、流星は視線を伏せる。
心配、とはどこか違う気がした。
「ただ、負担が大きいんじゃないのかと思っただけだ」
率直な感想を述べる。たまるはテーブルに肘を置いて言った。
「流星くんはこれまで三度、〈想いの受取人〉の仕事を横で見てきたわね」
たまるの目つきが変わった。
彼女の切れ長のまつ毛を流星は見つめる。
暗い、カラスの青い瞳を思わせるその瞳が、流星を見つめている。
しかしその奥にある彼女の感情までは、どこを見ても想像すらできない。
これが、今の流星の現状だ。
「何事も順序ってものがあるのよ。彼女の場合は特に、自分の本心と向き合う必要がある。その意味も、いずれわかるんじゃないかしら」
言いながら、コンビニの袋からアンパンとグミを取りだした。
紅茶に関しては無糖を選ぶが、菓子パンや甘いものばかり食べるのが彼女だ。
「さて、お昼にしようかしらね。流星くんにはコレ」
言って、たまるはクリームパンを取りだす。
いつかの赤ん坊のグーが思い出された。
「食事も大切な行為よ。なにを食べるかよりも、誰と食べるかなんですって」
他人事のような言いかたに、流星は袋に入ったクリームパンを見つめた。
わかった、とだけ言って、流星はクリームパンを開けるのだが、あまりお腹が空いたという感覚もない。
しかし外は真夏日で、今の時期、三十度越えは当然だ。
だから栄養を摂る必要があると判断し、口に含んだ。
甘いクリームが、単純に口の中に広がって、喉が渇く。
そういう感想を抱きながら、単純な栄養の摂取をする。
たまるは甘党だが、紅茶には執拗なこだわりがあって、無糖を好む。
そして、〈想いの受取人〉として、彼女は生きている。
その役割についても、流星はなにも知らないままだ。
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