からあげにレモンをかける悪の秘密結社を全力でぶちのめすヒーローのおはなし
※お食事中の方はご注意ください
◇
悪の秘密結社レモンスターズの全国からあげにレモンかける計画は着々と進行していた。
今夜もまた無断でからあげにレモンをかける不届きな怪人が平和な居酒屋を襲撃する。
「レモモモン! そーれレモン汁プシャーだもん!」
見かけはかわいいが残虐非道なレモンきつね型怪人カンキツネ。
両手にレモンの輪切りを構えて次々と席をまわって犠牲者を増やしていく。
「きゃー! あたしのヤンニョムチキンがっ!」
「おれのなんこつからあげが!」
「おっ、さんきゅー手間が省けるぜ」
「どういたしましてなんだモン! えへへ、良いことをすると気持ちいいんだモン!」
「この裏切り者!!」
かける派かけない派の論争まで巻き起こして平和を乱す悪の秘密結社レモンスターズ。
しかしそんな巨悪に立ち向かう正義の使者がいた。
その名は――。
ヨッパライダーゼロツー。
騒動を聞きつけた彼は、居酒屋のそばのコインパーキング(50分100円)にバイクを駐車して駐車券を受け取り、盗難防止ワイヤーロックをかけてから駆けつけたのだ。
その凛々しい姿に、居酒屋は少々盛り上がった。
「おお、新手のご当地ヒーローかな」
「なんでゼロツーなんだ?」
「前ニュースでやってたけど前任者のゼロワンは飲酒運転で捕まっちまったらしいよ」
居酒屋客がざわめく中、やりづらさを感じつつヨッパライダーゼロツーは名乗る。
「俺は酒宴の主演! ヨッパライダーゼロツー! 今日こそは許さんぞカンキツネ!」
「レモモモモン! でたな! 連日炎上系ヒーロー事務所の新入りゼロツー!」
「あ、ご新規一名様ですね。カウンター席でよろしいですか?」
怪人とヒーローの間に割って入ってくる剛の者、店員さん。
しかしここは居酒屋、一番偉いのはお客様ではない。汗水垂らして働く店員さんだ。
「あ、はい、一名です」
「お通しもってきますね、少々お待ちください」
ゼロツーは一度しっかり座り、お通しが届くと改めてカンキツネと対峙する。
「カンキツネ! なぜ無断でレモンをからあげにかけることをやめない!」
「レモモモン! それは健康のためだモン!」
「なにぃぃっ!?」
「レモンにはエリオシトリンやヘスペリジンといったポリフェノールが含まれ、優れた抗酸化作用があり生活習慣病の予防に役立つんだモン! あぶらっこいからあげのお供にはぴったりで健康増進効果があるんだもん! 国民を健康にすることに一役買いたいんだモン!」
カンキツネはカンペをきれいに読みこなしている。
「へー、そーなんだ」
「健康にいいのか、じゃあ俺も今度からからあげにレモンかけるかな……」
「アンチエイジング効果あるんだって! あたしも今度からレモンたべるかなぁ」
居酒屋の客たちは説得力のある健康効果に流されかける。
しかしヨッパライダーゼロツーは否と断じる。
「騙されるな! 大事なのは健康になれるかじゃない! 無断で! 勝手に! レモンをかけること! レモンをかけるか、かけないかを選ぶ自由を奪われることなんだ!」
「はっ、た、たしかに……」
「ちっ、こうなったら実力行使だモン!!」
「俺は自由のために戦う! ヨッパライダーゼロツー!! とぅっ!」
ゼロツーは戦闘態勢に入るために、グラス一杯の日本酒をぐびりと煽る。
かくしてヒーローと怪人の対決がはじまった。
居酒屋の狭い通路をうまく店員さんとぶつからないようにしながら大立ち回りを演じるカンキツネとゼロツー。
「レモネードグレネードだモン!」
「秘剣! 大吟醸!」
「おーいいぞーやれやれー」
戦いは熾烈を極めた。
なお戦闘員的なものは密を避けるためにコロナ禍で見直され人員削減された。
よって怪人とヒーローふたりだけの戦いである。
やがてゼロツーの必殺技が炸裂する。
カンキツネのもふもふボデーにしがみつき、フェイスガードを開き――。
「おえ……、いい具合に気分が悪くなってきたぜ、喰らえ! ゼロツー! レインボービームッ!!」
ゼロ距離で七色のビームを吐瀉した。
これにはカンキツネも悶絶である。
「ぐにゃあああああ!? なんてことするんだモン!? 居酒屋でゲロ吐くとかレモンかけるどころじゃない最低だモン!!」
「ゲ、ゲロじゃないわ! 七色のビームよ!!」
「それただの表現規制だもん!! うわーーーん!! モンはもう帰るもん! お会計よろしくもん!! アプリ決済つかえますかモン!」
ポイポイ♪ とスマホをかざしてお会計を済ませ退店するカンキツネ。
「待て、かんきつ……うえっぷ、ぐぅ、ま、まあぁて」
ゼロツーもあわてて後を追おうとするが、必殺技の強烈な反動に苦しんでいる。
しかも現金で支払おうとしてもたついている間に距離を離されてしまった。
「くっ、このままでは逃げられてしまう!」
「いやもう逃してよくね?」
「今日こそは化けの皮はがしてやるぞ! カンキツネ!! うおおーーっ!」
居酒屋の外へ出たゼロツー。
しかしカンキツネは電動キックスクーターに乗り逃走をはかっていた。
「貴様!! 免許なんて持ってないしヘルメットつけてないだろう!!」
「法律が変わって無免許でよくなったし、みんなつけずに乗ってるモーン」
すいーっと滑り出す悪の怪人。
ヨッパライダーゼロツーは逃走を阻止すべく駐車場に向かい精算してバイクに乗ろうとするが、しかしここで気づく。
「……しまった!! このままでは飲酒運転になる!!」
どうする、ヨッパライダーゼロツー!
無事に逃げ果せたかにみえたカンキツネ。
「モーンモンモン! ちょろいんだモン!」
次の居酒屋をみつけてまたレモンの魅力を振りまこうと悪巧み顔でにやけるカンキツネ。
「そうはさせるか!」
しかしそこへ飲酒運転できないはずのゼロツーが現れたのだ。
「一体どうやって!? さては飲酒運転しやがったなモン!? ゼロワンと同じ轍を踏んだモン! 炎上だモン! ダメゼッタイだモン!」
「飲酒運転はしてない、なぜならば……」
ゼロツーのバイクの傍らに立つ謎の男。
それは――。
運転代行業者の本多嵐さん(51歳)だった。
「運転代行業者におねがいして二人乗りでここまできたからだ!!」
「ふっ、いつでも呼んでくんな」
「だれそのおっさんモン!?」
「今度こそトドメだ! ゼロツー! レインボービームッッ!!」
「ぎゃあああああああーーーす!!! うえーん! もうお嫁にいけないモーン!!」
七色の光に包まれて爆発四散するカンキツネ。
夜の居酒屋の店前で、煌々と爆炎が瞬き、こうして悪は滅びるのだった。
そしてヨッパライダーゼロツーはまたどこかへ去っていく。
颯爽と、バイクには乗れないので本多嵐さんの腰にしがみついて二人乗りで。
「お嬢さん、いつも大変だね」
「……正体は秘密だ。それこそお嫁にいけなくなる、こんな汚れ仕事してるだなんて」
ヨッパライダーゼロツーの戦いはまだつづく。
とりあえず、飲酒運転で捕まったゼロワンがシャバに戻ってくるまでは。仕方なく。
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かりゃーげはレモンあってもなくてもおいしい!