第7話:メガネ外したら美人ってネタは鉄板だけどさぁ……
その日から俺の日常の一コマにジルバートのウザ絡みが加わり、退屈とは無縁で、未来への不安も無い生活をしばらくの間送っていた。
ーところで、アラスウェルさん?」
「ん?なんだよウラバート。」
「ウラ…あぁいや、前から思ってたけど君、他の人より怪我が多すぎないかな??」
「あー…まぁな。」
最早コレも日課になりつつあるジルバート(裏人格)の治療を受けていると、ジルバートはそう言いながら苦笑いを浮かべた。
理由は分かっている。
俺が女性型の従魔を所持しているからそのやっかみだ。
見た目が野暮ったい(偽)とは言え、声も雰囲気も可憐な癒し系の従魔なんて、メガネ外したら絶対美人だろ……
と、既に声と雰囲気で身バレしかけているからな。
てかリシテア、マジで周りに花が舞ってる幻視がある程に癒し系天使族として完成しつつある。
そんなリシテアの主である俺は、やっかみから、訓練中に不意打ちで木剣で殴られたり、先輩からの過激な扱きを受けたりと中々にイジメスレスレなことをされている。
ちなみに、ガイウス団長はその事を知っているが、『美人な従魔を連れてる代償だ、それに、コレは俺考案の特別メニューに近いから他の奴らより強くなれるぞ。』と言われたら引き下がるしかない。
いざとなったら団長権限で止めてくれるらしいしな。
ーって、君の心の声を聞くに、リシテアちゃんは遅咲きながら順調に天使族として成長しつつあるね。
先輩としては嬉しい限りだよ。」
「勝手に心を読む所は似てるが、裏人格のお前はマジで別人だな?」
「はぁ……よしてくれ、普段の僕がアレなのが恥ずかしいし申し訳なくなるから。」
そう言って深いため息をついたジルバートは仕上げに俺の腕へ包帯を巻いた。
「よし、コレで完了だよ。
包帯は風呂に入る頃には外してくれて構わない。」
「ありがとな。」
「よしてくれ…本来なら君は自分の従魔に治療して貰えるはずなのに、何故かすっかり僕が担当になっているからね。」
まぁ、理由はさっきの通りだ。
メガネ外したら絶対美人だろ説が出てから、リシテアは引っ張りだこになっていた。
いわゆる雰囲気美人、って奴。
結局対策はあまり効果が無かったか………
あわあわしつつもキッチリ治療はしてくれるし、メガネのせいで目元が見えにくく、口元しか分からないけど微笑みと優しい声で送り出してくれるし。
『あの……今度は怪我をしないで下さいね…?』
『次はこっちの治療を頼むよリシテアちゃーん!!』
『は、はぃぃ〜!!』
あの様子じゃ、もはやメガネの意味は無いな………
でも外させたらそれはそれで今より人気者になりすぎるだろうが。
「……それはそれとして。
リシテアちゃん、治癒術の実力がかなり上がってきたよね?」
「元々、唯一の特技だった訳だし、アレだけ毎日使ってたらなぁ…………
「ははは………まぁ、僕の方に偏っていた分が解消されて助かるけど。」
「でもあれじゃあリシテアが潰れちまうな。
助けてくる。」
「がんばれーマスターさん。」
ちなみに、ジルバートの方も未だに人気ではあるけれど、リシテアの様に人集りは出来ていない。
それはそれでジルバートの人徳なのだろうな。
リシテアの場合は断れない気質もあるのかもしれないけど………
こちらの方は既に団長が対策を施した。
ただ、それが悪手過ぎる。そして効果が見られない。
ガイウス団長、そんなに俺にヘイトを集めたいのか?
「あっ!旦那様ぁぁ〜!!」
涙目(目元が見えないので概念)で俺に駆け寄り抱きつくリシテア。
対策、と言うのが『リシテアは既にアラスウェルの嫁だが何か?』というもの。
ガイウス団長がニヤニヤしながらリシテアに耳打ちしたのがこの“旦那様呼び”だ。
なお、このせいで俺に対する扱きや不意打ちが悪化したのは言うまでも無い。
だから今日もジルバートに治療されてたんだし。
ともかく、リシテアが俺に抱きついて安心しきった様子でふにゃふにゃとしだしたので、群がっていた奴らの舌打ちや嫉妬が怖い。
この環境だからな。
独身者ばっかりなんだよこの騎士団。
根はいい奴らだから恋人や嫁が居る団員だっているんだが…………
ただ、それでも職場に女を連れ込んでるのは俺だけだからな………
しかも、相手が聖職者(本当は天使)なだけに清楚系だし。
「えへへぇ〜♪旦那様だぁ〜♡」
「………リシテア、ネコはどうした。」
「も、無理ですぅ〜……わたし、疲れました………旦那様……ラスさんと一緒に居たいから辺境までついて来たのに、これじゃあ………意味ありません………。」
続いて、ぷくりと頬を膨らますリシテア。
あざといぞ?やめろ。
独身者共の嫉妬が痛い。
てかさ、そんなにグリグリと俺の胸に頭をこすり付けたらー
カシャン
「「あ。」」
メガネが外れちゃうだろ?
「おっとと……メガネメガネ………
カチャリ
「ふぅ…。」
普通 (?)にメガネを拾ってかけ直すリシテア。
だが、拾う時の横顔がバッチリ見られてしまった。
『ウォォォォッ!!』
「ひゃぅっ!?」
「あーあ………
「やっぱり美人じゃねぇかリシテアちゃん!!」
「くそぅ…!アラスウェルの奴こんないい子を従魔になんかしやがって…!!」
「羨まし過ぎる…!!」
…………。
お忘れかもしれないが、俺は一応公爵家の長男だぞ??
次期公爵は弟になったとは言え、な。
確かに騎士団内で家の序列は関係無いとされているが、俺じゃなかったら不敬で斬られても文句は言えねぇぞ??
と言うか、今更だが公爵家の長男にやっかみで扱きとか不意打ちとかよくやれるなお前ら。
あ、なんかイライラしてきた。
なんで今まで受け流せたのかと言えば、こんなに可愛くて優しくて一緒に居て癒される天使族であるリシテアの恋人をやってる分、多少のやっかみは仕方ないと我慢してたからだ。
でも良いよな?ん??
「うるせぇ………
『え?』
「だ、旦那様…?」
「うるせえぞお前ら。
リシテアはなぁ、確かに俺の従魔だが、恋人になったのは彼女の意志だ…!!
俺は無理やり関係を迫った訳でも無く、同意の元で仲良くさせてもらってるんだ!!
それをテメェらにとやかく言われる筋合いはねぇッ!!」
と、啖呵を切る。
そして殴りかかー
「やめてくださいラスさんっ!!」
「リシテア……。」
ーろうとしたがリシテアに抱き付かれたから立ち止まった。
だから代わりに言葉を投つける。
「……だから!リシテアがどれだけ美少女でも!
優しいからお前らのくだらない仮病の治療を拒絶しなくてもなぁ!!
リシテアはお前らの玩具じゃねぇ!!」
「ラスさん………
「……すまん。」
「いえ、わたしの為にありがとうございます♪」
「………。」
リシテアは、本当に嬉しそうに、笑顔で俺に頭を擦り付けるように甘えてくる………
そんな彼女の笑顔に、ささくれだっていた俺の心は凪いできた。
から、そのまま頭を撫でる。
すると、ますます笑顔を深くしたリシテアが俺の手に頭を押し付けるようにしてきた………
はぁ…………癒される………なんか、リシテアとこうして触れ合えたのは久しぶりな気もするしな。
「くそぅ………
「見せつけやがって………
「コロス………コイツコロス………
「ここは騎士団だぞ………イチャイチャすんじゃねぇよ………
……………が、コレは火に油だな。
だから自重してたんだが。
そうじゃないと、基本的には甘えたなリシテアに、彼女の事が大好きな俺が甘えられたら拒絶出来る訳ないしな。
「にゅふふぇ〜♡」
「くっ…!」
人前なのに甘えきっただらしない声を上げるな…!!
拷問かっ!!
「…ある意味大物だね、彼女は。」
「かもな。」
「あと小悪魔的だ。」
「しぇんぱぁい…?わたしは天使族ですよぉ〜…?」
「……………僕が天使族じゃなかったら落とされるねこんな子。」
「惚れるなよ?」
「だから惚れないって。僕には既に心に決めた人が居るからね。」
『!?』
「おや?失言だったかな??」
いや、十分爆弾発言だわ。
てか、タイミング的には追い打ちだわ。
「悪魔かお前は。」
「ははは、失敬な。僕は天使(族)だよ。」
「そうですよぅ?先輩は天使族ですぅ〜。」
「いや、そうゆう意味じゃないから。」
「はい……?」
「ははっ!後輩ちゃんは可愛いね♪」
「はぁ…やれやれ………
ここは、ある意味地獄だろうなぁ………他の人達には。
俺は、阿鼻叫喚につつまれる奴らを迷惑だからと教会から追い出しつつ自身も退散することにした。
…去り際に、リシテアから耳元で『大好きですよラスさん♡』と囁かれてキスをされた事は内緒だ。
アラスウェル:……コレは、俺の理性に対する拷問だなぁ……
ジルバート(表人格):あ、ちなみにボク達天使族は子供が出来る様な事をして純血を散らしても、能力が下がったり無くなったり、堕天したりさせられたりはしないから安心して?
ただ、ヤり過ぎて快楽に溺れたら終わるけど☆
ラス:そうゆうことをサラッと言うなよ!?お前はマジで悪魔か!?///
ジル:おや?案外ウブだねキミ?(ニヤニヤ)
ラス:クソッ…!楽しみやがって…!///
ジル:あっはっはっはっはっ☆
リシテア:はぅ…ラスさんとの子供…♡
いつの日にか、わたしもコウノトリ様に会えるかなぁ…♪
ジル:リシテアちゃんwwwマジwww純粋かwww
ラス:お前は少しはリシテアを見習え!?
ジル:いやぷーwww
ラス:……。




