第5話:辺境伯領に到着!
王都を出発してから早2週間。
俺達はやっと辺境伯領に近付いてきた。
長かったなぁ…………
「ここは空気がおいしーですね!ラスさん♪」
「おう。辺境伯領って言ったら周りは山だし、自然豊かな土地だからな!」
その山が隣国からの侵攻を抑制してる反面、他の都市に比べて魔物が発生しやすいってのがあるんだが、
そこはまぁ、慣れるしかない。
それはまぁ、良いとして。
ここまでの旅路でずっと俺と2人きりだったリシテアは随分気が抜けたのか、召喚した当初の“リシテアちゃん”に戻っていた。
と言うか、指輪を贈った辺りで令嬢のネコが消えた。
でも素のリシテアの方が可愛いからヨシ!!
「ここが辺境伯自慢の城塞都市かぁ………
「ふわぁぁ~……おっきぃですね〜!」
おう、目をキラキラさせてるリシテアちゃんが可愛いな!!眼福眼福♪
思わず頭を撫でると、嬉しそうな照れ顔を見せてくれるリシテア。
おっと……鼻がツンとしてきた……危ない危ない…。
「取り敢えず、辺境騎士団の詰所へ行こう。」
「はい!ラスさん♪」
テンション高いリシテアを連れて騎士団の詰所へ来ると、門番の人が槍で道を塞いだ。
うん、ベターだが騎士っぽい!
「青年。ここはバルディア辺境伯領騎士団の詰所故、許可無き一般人は進入禁止だ。
依頼や、敷地内への用事であればあちらの受付へ向かわれるが良い。」
すごい!口調こそ硬いけど丁寧な対応だ!!
うんうん、好感度高いよ!流石辺境騎士団!
ちなみに、辺境騎士団の正式名称が今騎士さんが言っていた【バルディア辺境伯領騎士団】、だ。
長いから略して辺境騎士団と呼ばれている。
「あ、俺はここの騎士団長様からの紹介で王宮騎士団から移籍してきた、ラッシュエッジ公爵家が長男、アラスウェル・ラッシュエッジです。
コチラがその紹介状です。」
「ラッシュエッジ公爵家の…?
………ふむ、団長より話は聞いている。
では、紹介状を検めさせてもらうよ。」
そう言った騎士さんに紹介状を手渡すと、中身を確認し、最後に魔法石をかざした騎士さんが俺に手紙を返してくれた。
この魔法石はその手紙や書類が本物なのか偽造文書なのかを確認する為のものだ。
中身を1度読んで確認するのは、
ソレが怪しげな文章や、誹謗中傷、テロ予告……等の害意のある物で無いかの確認の為だな。
「確かに我々の団長が書いて寄越した物のようだ。
ようこそ、我々辺境伯騎士団へ。」
「なら、貴公はコレから俺達の後輩になるのか?
また後で会うかもしれんからその時は改めてよろしくな。」
「はい!!」
と、槍を真っ直ぐに持ち直して道を開けたタイミングで、門番の2人はずっと俺の隣でニコニコしていたリシテアに視線を移した。
まぁ、そりゃ気になるよな。
「ところで、そちらの女性は…?
見たところ天使族の方のようだが、もしや王都の聖教会からの使者かな?」
ちなみに、部外者だと誤解されない様にリシテアには事前にヘイローと羽を出しておくように言っておいた。
そうすれば俺の従魔か聖教会関係者だと思ってくれると予想した通りになったな。
何故そうしたのか…と聞かれれば、ただの人間の少女…しかもとびきりの美少女を連れて居ると思われたら、辺境伯領には遊びや悪ふざけで来たのだと誤解されて心象が最悪になるからだな。
「あ、わたしはラスさんの従魔でリシテアと申します。
ラスさんがここに所属したあかつきには、わたしはここの詰所内の教会で治癒術師として働かせていただきたくつもりで参りました。」(にこっ)
※辺境騎士団の騎士の中には聖教会の信徒や教会から派遣された聖騎士も居るので、毎朝の祈りの時間を設けれるようにとの配慮で敷地内に小さな教会が設置されている。
「「…………。」」
そのリシテアは素早く令嬢のネコを被り直したのか、見事なカーテシーと令嬢スマイルを披露し、早速門番さん2人を篭絡していた。
って、オイ。
「…?
あの、通っても宜しいでしょうか…?」
「はっ!?すみません!!どうぞお通り下さい!レディ!!」
「ありがとうございます♪」
こてん、と首を傾げる仕草からのその笑顔は反則級に可愛いだけなんだよなぁぁぁぁぁ!!?
「……美しい。」
「かわいい……。」
「えっ…?わたしなんかが可愛いだなんて、そんな事ないですよ??
ですがありがとうございます♪」
「……。」(イラッ)
てか…そんなリシテアに見惚れてしまうのは仕方ないとは思うけど、なんかムカつくな…うん、俺の婚約者だって知らしめとくか??
が、淑女らしく口元に手を当てて微笑んだリシテアを見た瞬間、2人は何故か絶望顔になった。
…………あぁ。リシテア、わざとなのかは知らないけど、右手を口元に当ててるな。
その右手の薬指には俺が贈った指輪が輝いている。
余程の無知やバカでない限り、その意味(婚約者or恋人アリ)は分かるだろうしな。
ん?ファッションリングだと判断する奴もいるだろうって?
それならリシテア本人が婚約者が居るって言うだろうな!!
手紙の件で分かった事なんだけど、リシテアは意外にも恋愛面では俺以外の男に対して塩対応らしいし。
「……なんか、ご愁傷さま…?」
「今はそっとしておいてくれ………
「右に同じく……
………ア カ ン 。
これ、もしや余計な火種を持ち込んだやつじゃないだろうか!?
対策対策………そうだ!!
ベターだが、こんなこともあろうかて用意しておいたアレで………
「リシテア!」
「はい?なんですかラスさん。」
「今日からここで仕事する間はコレ着けとけ。」
「……分厚いメガネ、ですか??」
「伊達メガネだから安心しろ。
これはリシテアを守る為でもある。」
「はぁ……?」
困惑しながらも素直にメガネをかけるリシテア。
いわゆる、The瓶底メガネ。
うん、いい感じにダサくなったな。
修道服も合わせて垢抜けないモブシスターって感じになった。
………なんか、ごめん。
「悪いなリシテア。
ぶっちゃけ、素顔のリシテアは可愛過ぎる。
男の巣窟であるここでは、そのメガネは身を守る為の鎧だと思ってくれ。
あと、ヘイローと羽はもう消していいぞ。」
「あ…はい…そうゆうことなら分かりました。
口調や仕草も意識して塩対応にしておきますね。」
「……リシテア、君って奴は小悪魔か?」
「え?天使ですけど!?」
そうゆう意味じゃないぞ、天然め!!
だめだな、可愛さが隠しきれてない………
そも、声自体もまさに天使の声、と呼ばれる癒し系の声(例えるならCv.花澤○菜)だからどうしようもない。
まぁ、見た目がダサいけどすごく可愛い声はしてるシスター、ってところか?
……………ダメだな。多分だが声と雰囲気だけで人気者になりそうだし、なんならリシテアは本来ドジっ子属性だ。
その内うっかりメガネを忘れたり落としたり無くしたり割ったりしそうだ。
※当然だが用意できたメガネは伊達とは言えガラスレンズ。
……あ、言っておくが俺はメガネをバカにしてるつもりは無いぞ。
どうせなら、変装用のダサいのじゃなくて、もっとちゃんとしたオシャレなメガネをかけさせたかったな。と思ってる程だし。
あとそこ!!
メガネ外したら美少女とかねぇわとか言うな!!
すまんなぁぁぁ!!!リシテアは逆だから許せ!!
ダサく見せる為に敢えて瓶底メガネをかけてるだけなんだからな!!
え?ダメ??そうか……
「あのぅ…ラスさん?」
「ん?なんだ、リシテア。」
「百面相しているところ悪いですが、そろそろ団長様の所へ行かなくて良いのですか?」
「あ。」
「よく来たなアラスウェル!!それにリシテア嬢!!」
「ご無沙汰してます、ガイウス団長。」
「お久しぶりです、ガイウス様。」
「んぅ?
部下になるアラスウェルは礼儀上仕方ないからともかく、リシテア嬢は硬いぞ?
前の様に【ガイウスおじ様】と呼んでくれても良いのだぞ?」
「そうですか…?」
「あとなんだ、そのダサいメガネは!
アラスウェル、お前の仕業か!?」
「直球かよ!?確かにダサいけどコレはリシテアの身を守る為だ!!」
「アラスウェル、お前は部下になった以上口を慎め。」
「あ、申し訳ございません、つい。」
「………まぁ、今は我らのみだし、昔からのよしみだ。
今日ばかりは許そう。ただし、明日からは他の者同様に厳罰に処する。」
「はっ。心得ておきます団長。」
「えぇっと……あのぅ……ではわたしは素で…?」
「うむ、やはりリシテアちゃんはそうでなくてはな。」
「好々爺になってますよ団長。」
「良いではないかアラスウェル。
リシテアちゃんは孫の様に可愛いからな。」
「ありがとうございます、おじ様♪」
「うむうむ♪困ったことがあれば何でもおじ様に頼りなさい!」
「はい♪頼りにさせてもらいますね!」
なんだかなぁ…………リシテアってこうゆう所がマジ天使だな?
「リシテア、分かってるだろうが俺と団長以外の前ではメガネを外すなよ?言動もちゃんと令嬢モードでな?」
「はぁい♪わかってまーす♡」
「……本当に分かってんのか…?」
「まぁまぁ、ワシもフォローしてやるから。」
「なんか、すみません団長。」
「うふふ♪」
…………はぁ…何が楽しいのかずっと微笑んでるリシテアに、不安しかない俺だった。
「なんならいっそ、職務中は“アリシア”と交代しとけ。」
「えー?それはなんか嫌です。
それに、ラスさんが怪我をしたらすぐに助けに行きたいので尚更もう1人の“私”には任せられません!!」
「…………。」
「やる気満々で可愛いなぁリシテアちゃん♪」
「……………。」
マジで、不安しかない。
団長も頼りにならなさそうだし!!
アリシア:マスター、言っておきますが仮に私に治癒術師をやらせても、人間を治療するつもりはありませんよ。
アラスウェル:なんで?
アリシア:私にとって、人間とはその程度の存在だと言うだけです。
マスターを治療するのは、私が現界する為の器のためです。
アラスウェル:……。




