第2話:……地雷は踏み潰すと決めた。(by.アラスウェル&リシテア)
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挿絵を追加
(カスタムキャストにて作成)
さて、それからは特筆することも無い(訳じゃないが後で語る)ままに1年が経過してしまった。
その間にリシテアちゃんとはかなり仲良くなれた気がする。
ただし、悲しい事に、リシテアちゃんとの恋愛関係への発展を避けてたら自然とシスコンなお兄様とブラコンな妹ちゃんって関係になってしまったが。
くそぅ……ロイドめ………!!(逆恨み)
さて、原作通りであれば今年にソフィーリア王女との婚約イベントが起こるはず。
だから辺境騎士団へ逃げよう!!
無事に婚約から逃げられたら俺、リシテアちゃんに告白するんだ…!!
(自ら死亡フラグを立ててくスタイル)
ーという訳で教官、私を辺境騎士団へ転入させてください。」
「何が、という訳で、なのだ?ラッシュエッジ君。」
「ですから。
私はかねがね辺境騎士に憧れを抱いておりまして、しかも従魔は治癒術が得意な天使族。
ここまで辺境騎士団向きの人材であれば早い内に辺境騎士団入りを果たすべきだと愚行しております!!
という訳で教官、私を是非!辺境騎士団へ転入させてください!!」
「誰も同じ言葉を繰り返せとは言っておらんわっ!?
却下だ!辺境騎士団に行くには君はまだ若すぎる!
それに君は次期公爵だろう!?」
「そうですか、では私は辺境騎士団に転入いたしますので。」
「君、人の話聞いてた??」
「はい。聞いています。
その上で言います。
これは我が家から出た正式な辞令です。」
「は?」
実はこうなる事を見越して、辺境伯である叔父に頼んでいたのだった。
いやぁ〜辺境伯が身内でよかったよかった。
そのつてで辺境騎士団とコンタクトをとり、辺境騎士団の団長(辺境伯の弟である彼もまた叔父にあたる)と仲良くなった。
こうして俺は、辺境騎士団長直々に引き抜きを受けたのだった!ヨシッ!!
ちなみに、そうなると弟が公爵家を継ぐことになる可能性が高まるので後はよろしくっていう。
弟は文官タイプだから執務も得意だし、その方がいいと父様にも相談したし、弟も乗り気だったし、母様は『なるほど、リシテアちゃんと結婚するためなのね!?』(歓喜)とノリノリだったからヨシ!!(丸投げ)
ちなみに、跡継ぎは現公爵である父様の権限でいくらでも変えれるので、父様からは
『お前にやる気が無いなら、やる気のある弟に任せるに決まってるだろ脳筋愚息め。』(呆れ)と言われてあっさり決まった。
なお、代わりの条件として弟が公爵になったら公爵家騎士団の団長をやれと厳命された。
王女との婚約イベントが回避出来るならそれくらいはやってやんよ!!
………辺境騎士団を辞めれたらな!!
ともかく、辞令を叩き付けた俺は、颯爽と教官室を後にした。
ともかく、ギリギリにはなったがソフィーリア王女との婚約からは逃げおおせた、と思う。
逃げ遅れてたら辞令が出なかったはずだしな。
寮の部屋に戻った俺は、待機していたリシテアに早速報告した。
「リシテア、明日から辺境伯領へ向かうぞ。」
「遂にですね?お兄様。」
「あぁ。母様は嫌がっていたが。」
まぁ、男ばかりの我が家で、リシテアの存在は娘同然だったからなぁ…………
だから母様は『結婚するのは良いけどリシテアちゃんを連れていかないで〜!!』となったのである。
そんなリシテアは、召喚獣である以上、何処にいても喚び出せるから、基本的に公爵家で暮らしていた。
だから普段は母様に滅茶苦茶可愛がってもらっていたんだが………
「さすがに、王都と辺境伯領では距離が開きすぎですもの。仕方が無いですよ。」
「だなぁ………俺の数少ない親孝行だったし、母様の為にリシテアを置いていくのはやぶさかではなかったが………
「わ た し が !
お兄様から離れるのが嫌なので。
喚び出された時以外は公爵家で待機だなんて、いくら王都と辺境伯領の間でも同じことを出来てももう嫌なんです!!
本当は、四六時中ずっと、ず〜っと!!お傍に居たかったのですよ!?お兄様!!」
「すまないな。」
何せ、長期休暇の時期に家にリシテアを連れて帰ってきたら母様がえらくリシテアを気に入ってしまったからな。
更に、年頃の息子の部屋にこんな可愛い年頃の娘を置いておくのは危ない、と押し切られてしまったのもある。
そのせいもあって、普段は中々会えないリシテアとは兄妹みたいな関係になってしまった。
だけどここからだ。
辺境騎士団にさえ入団してしまえば、ソフィーリア王女とは本当にかかわり合いにならなくなる。
そうなればロイドくんに殺されるかもしれないと怯える必要も無いし、安心してリシテアと愛情を深められるってもんだ。
「…お兄様?わたしになにか??」
「いや、改めてよろしくな?リシテア。」
「はい!お兄様はわたしがお守り致しますね!!」
はぁ…母様のせいで、すっかり。
ゆるふわ天然おどおど系な“リシテアちゃん”から、
しっかり者な妹の“リシテア”になってしまったなぁ……
顔つきやら根本的な性格こそ変わりはない、が、やはりしっかり者な妹みたいになってしまった感は否めない。
頭を撫でた時のとろけ顔も好きだったんだけどなぁ……なんか寂しい。
そう思いつつも頭を撫でると、ツンとすました顔でありがとうございます、お兄様。と返してくるリシテア。
うん。お兄様寂しいよ?
さて、ともかく行こう。
準備は万端。さぁ行くぞ!!(現実逃避)
これは正式な辞令であり、何も後ろめたいものは無い俺は、紹介状をしっかり持って王宮騎士団を後にしたのだった!!
さぁ!!ここから俺の、俺達だけの物語が始まるんだ!!
さて、辺境伯領行きの馬車なんてものは当然存在しない。
遠すぎるから当たり前だよネ!!
という訳で何回か馬車を乗り継いで行かなければならないのだ。
まぁ、地図は持ってるし騎士学校でも遠距離遠征の訓練は受けてきたから特に問題は無いのだが。
お金はある分、乗り合い馬車は使える訳だし。
なんなら護衛を名乗り出れば馬車代が浮くかも?
あ、ちなみに実家である公爵家の馬車を借りていくのは断った。
目立つしね。
ともかく、辺境伯領方面に向かって少しづつでも進もうか。
「リシテア、大丈夫か?」
「わたしは大丈夫ですよ、お兄さm…さん。」
「ならいいが。」
乗り合い馬車にしたのは失敗、だったかもしれん。
何故かって?それはな、リシテアは美少女だ。
しかも天使族だからなのか、見た目はゆるふわ系の優しそうな女の子だ。
しかも今の服装は清楚な白いワンピース。
お嬢様言葉になりそうなのを無理やり回避したみたいだけど、隠しきれない高貴な雰囲気。
そんな見た目も種族も天使なリシテアが泣いている子供をあやして、聖母の微笑みなんか浮かべてみろ。
乗り合わせた客が皆リシテアの虜になっちまうだろ?
というか、さっきそうなってた。
子供をあやしてる時のリシテアはまさに天使の微笑みを浮かべて周囲の人達を魅了していたんだ。
極めつけは、兄 (ポジション)である俺に対しては柔らかい親愛の表情を向けること。
その安心しきった顔に男共はノックアウト。
馬車を降りる頃には皆リシテアと離れ難く感じていたみたいだな。
お客さん達は残念そうに去っていったよ。
それはそれとして……
「さて、とにかく今日の目的地までは到着したんだ。
宿で休もう。」
「はい、お兄さん。」
「……リシテア。」
「なんでしょうか?」
「ここはもう王都じゃない。
外ではラスって呼び捨てでも良いんだぜ?」
「……それもそうですね。
では、ラスさん、とお呼びしますね?」
「ぐっ…!?」
「(!?)ラスさん!?」
「い…いや、少し、疲れただけだ。
気にするな。」
「そう…ですか。」
な、なんだ…?この胸の高鳴りは…!?
リシテアから、はにかんだ笑顔で、愛称+さん付けで呼ばれただけ、なんだぜ!?
なのになんか新妻みたいだな、とか、アホか俺は!?
とにかく宿だ宿!!
しかし、いざ宿屋に行くと……?
「申し訳ありません、部屋はほぼ埋まっておりまして。
女性もいらっしゃるので雑魚寝部屋はお勧め致しかねます。
ですので、お2人での相部屋で宜しければご案内いたしますが…。」
「なら仕方ないですねラスさん、同じ部屋にいたしましょう?
そもそも普段(最初)は一緒の部屋で寝ていましたしね。」
「そうだな。兄妹 (みたいなもん)だし問題無いな。」
(本当は兄妹関係なんて不服だがな。)
「分かりました、それではコチラが部屋の鍵です。
2階の西側の角部屋ですね。
階段を登って左手側です。」
「「はい。」」
と、普通に対応していたが内心はかなり荒れ狂っている。
だって俺、表面上では兄貴面してるけど未だにリシテアの事は妹としてでは無く、1人の女の子として好きだし。
だから俺だけ雑魚寝部屋、なんてのはナシだ。
リシテアと離れたくない。
部屋について、荷解きを終えるとリシテアは早速湯浴みセットを手に取った。
「ではわたしは湯浴みに行ってきますね?」
「ああ、大丈夫だとは思うが気を付けろよ?」
「ふふっ…分かりました♪」
ん…?なんで嬉しそうなんだ?リシテア。
リシテアはふわふわの髪をはずませながら部屋から去って行ったんだが………
そんなに風呂が楽しみだったのか…??
いや、それとも俺に気にかけてもらえたのが嬉しかった……とか……?そうだったらいいなぁ………
ちなみに、この国では何故か風呂は普通の習慣として根付いている。
何でも昔に、風呂に浸かる事の重要性を説いた学者が居たとか。
そして、公衆衛生の為にも普及させよ、との王様の政策で全宿屋に順次風呂が建築されていったのだ。
そうして出来たのが大衆浴場付きの宿屋、という訳だ。
………作者よ、中途半端にローマを入れるな。
まぁ、お陰で俺も前世の記憶にある習慣の通りに毎日風呂に入れるから良いんだけどさ。
(野宿の時はさすがに無理だが)
さて、俺も男湯に行くか……
風呂に入るっても俺は早い方だからな。
後から行ったがリシテアより先に部屋に帰ってきた。
ので、剣の手入れをしながら待っているとリシテアが戻ってきた。
「ただいま戻りました。」
「おう。」
「…剣のお手入れですか?」
「まぁな。自分の命を預ける大事な相棒だし。」
「………。」
俺がそう言うと、正面に椅子を持ってきて座ったリシテアが、じぃっ…と俺の作業を見る体制に入った。
なんだなんだ?ちと恥ずかしいが途中で辞める訳にも行かない。
しっかりと研磨と清掃を済ませて鞘に収めると、ようやくリシテアが口を開いた。
「…真剣な顔のラスさん、カッコよかったです。」
「はっ!?」
「それと、なんと言いますか、ラスさんが剣のお手入れをする音………研磨をする時の“シュッ、シュッ”という音を聞いていると安心すると言うか、落ち着く、と言いますか……変ですよね……
「いや。おかしくは無いだろ。
俺にとって、剣の手入れは精神統一の時間だが、それに似たようなものさ。」
実際、俺は剣を砥石で研ぐ間は心が無になり精神統一になるし、
研ぐ時の音が俺を無心へと導いていく感覚があるんだよなぁ………
それに、仕上げに油で拭き上げるとなんかスッキリするんだよな。
なんかこう……『明日もよろしくな、相棒。』と言った感じだろうか?
だから気持ちは分かる。
「ふふっ…♪そうですか………
「おう。だから気にするな。」
そんなニュアンスが伝わったのか、安心した様に笑うリシテア。
………母様の教育の成果なのか、その微笑みは貴族令嬢と言われても遜色の無い美しい笑顔だった。
“たおやかな笑顔”、とはこうゆうのをいうのだろうな。
やっぱり、好きだ………けど………まだ今はその時では無い。
とは言え、従魔と恋人になったり結婚したりする事は可能であり割と普通でもあるこの世界。
特に、美少女な上にほとんど人間と変わらない天使族であるリシテアはとにかくモテるし我が家にもたまに求婚の手紙が届いたりしているんだ。
まぁ、他人の従魔の場合、主の所有物って側面があるからそう簡単には付き合えないけどな!!
勿論全て俺(と言うか母様)が握りつぶしたとも!!
なお、最初の内はリシテア本人にも危機感を持ってもらう為にも恋文は1度本人に見せてから要らないかどうかを判断してもらっていたそうだ。
流石に、従魔にも人権が認められているから読ませずに握りつぶしたりはしない。
が、最近ではリシテアは恋文と知った上で読まずに処分してたとか。
本人曰く、『ラスお兄様以外からの恋文は受け付けません♡』だそうだ。
辺境騎士団入りが決まったから直接リシテアを迎えに来た時に、母様がニヤニヤしながら教えてくれた。
だから、俺があと一歩踏み出すだけなのは分かっている。
リシテアがそんな事を言っていた、と聞いた時点で自惚れでは無くリシテアも俺の事が異性として好きなんだろうな、とは流石の俺でも察した。
だから………
「リシテア。」
「はい、なんでしょうかラスさん。」
「俺、辺境伯領に着いたら君に伝えたい事があるんだ。」
「(!)それって。
期待しても、良いのですか……?」
「……………ああ。」
緊張のあまり、答えるまでに間が空いてしまったが、気持ちは伝わったと思う。
リシテアは深くは追求せずに微笑み、頷いてくれた。
「では楽しみに待っていますね?ラスさん♪」
……………死亡フラグを自ら立ててくスタイル。(PartⅡ)
けど、例え強制力とやらが働いたとしても、俺はそんな死亡フラグ、へし折ってやる。
この1年でそう、決めたんだ。
sideリシテア
わたしは、ダメな天使でした。
同時期に産まれた周りの天使達はすぐに上位天使へと成って、召喚されて行く中。
わたしは1人、下位天使のまま。
その上、新たに産まれた天使達にも抜かされる始末。
たまに、手違いが何かで人間さんに召喚されても、わたしが治癒術しか使えない下位天使だと知ると契約せずに返喚されてしまう。
それが更にわたしの心へ追い打ちをかけます。
そのうち、わたしは周りから『無能な駄天使リシテア』と揶揄されるようになってしまいました。
ただ、天使長様ともう1人、焔の熾天使様だけは、わたしに、
『貴女には凄い才能が眠っている。ただ、条件が厳しいだけなのだ。だから、辛いが今は耐えろ、今はまだ、その時では無いだけなのだ。』と、
『出来る出来る出来る!頑張ればやれるって!諦めんなよ!!諦めんなよそこで!!諦めたらそこで終わりなんだよ!人間だって頑張ってるんだから!!だから!ネバーギブアップ!!』
と言ってくださいました。
でも、わたしは治癒術しか使えない下位天使。
他の天使達は、生まれながらに治癒術と光の攻撃術が当たり前のように使え、その羽で自由に空を舞えるのに。
わたしは1人、羽ばたけない。
攻撃術も使えない。
治癒術しか出来ない無能な駄天使。
そんなわたしが、もう何度目かの召喚をされました。
あぁ………どうせ、今回も。
そう思っていたのに…………
『お前最高かよ!?今すぐ契約だ!!』
『これからよろしくな!リシテア!!』
そう言って、ラスさんは、わたしと契約してくれたのです。
更に、わたしが治癒術しか使えないと知っても…………
『え?良いじゃないか治癒術。
君は俺の従魔なんだから、俺が怪我しても何時でも直ぐに治してもらえるんだろう?
怪我の多い騎士をしてる俺にはピッタリな従魔じゃないか!!』
って、言って、くれたのです。
わたしが来てくれて嬉しいと、そう言ってくれたのです…!!
だからわたしは、この方について行くと決めました。
何があってもこの方だけは失ってなるものか、と。
そんな彼が何かを憂いている事は知っていました。
それをわたしには言えない事も分かりました。
それでもわたしは、貴方が必要としてくれるわたしならば。
ねぇ、ラスさん?
わたしね、わたしは……貴方が大好き。
何時もわたしを褒めてくれる。
わたしに笑顔を向けてくれる。
わたしの頭を優しく撫でてくれる。
わたしに家族の温かさを教えてくれた。
わたしに生きる意味を教えてくれた。
こんなわたしを、最高の天使だと言ってくれた。
そんな貴方が、わたしは大好き。
だから、わたしは、あなたに降りかかる全ての災いを、
踏 み 潰 す と 決 め た 。
今はまだ、天使としての技能は治癒術しか使えないわたしだけど、それでも。わたしは貴方を守りたいのです。
この、剣と銃と治癒術にかけて。
「ん…?リシテア、ボーッとしてるがどうした?疲れてるのか??」
「あっ…いえ、なんでもありませんよラスさん♪」
何が起こるのか、ラスさんが何を恐れているのか、それは分かりません。
それでもわたしは……貴方を失うのだけは絶対に嫌なのです。




