89.王家の谷アプローチ
朝、いよいよ王家の谷、石柱群に突入になる。
何の策もないままに突入するのは、無謀だろう。
まず第一に、本当に迷路の鍵があのモニュメントのとおりだとすると、入口から次のポイントを探さなければならない。
第二に、鳴く攻撃が何なのか分からなければ防ぎようがない。
メーミンばー様の話だと柱が鳴くと鎧武者がガシャガシャと倒れたと言っていた。では、鳴いたら直ぐ倒れたのかを検証したい。
音と物理攻撃が一緒だったら柱が鳴くとは言わない筈と思う。なぜなら見た人間は、柱の音と共に倒れたと話すのではないだろうか。ただ、数千年前の口伝では、正しく伝わったのか疑問はある。
第三に、オウゲンスの盾がその鳴く攻撃ではなく、ドラゴンのウインドカッターを防いでいるように思う。モニュメントの石柱にも絵が書かれ、やはりこの盾は、関係していて間違いないだろう。
第四に石柱の中で魔法が使えるかだ。簡単にウインドカッターで倒されない魔耐の高い騎士だっていた筈だ。魔力を使えなくする方策があると考えるのは妥当だと思う。
最低でもこの石柱の塔が、今まで全く破壊されないのは不自然だ。
ここまでの繋がりから推察すると石柱が鳴くと何処からともなくウインドカッターが飛んでくる。石柱の内部と外周含め魔法は使えないが、そのウインドカッターは、鎧を貫通して高威力で肉体を滅多切りにする。
この仮説を実証するため実験の必要性がある。
実験その1
外側から高火力で攻撃する。
俺が、ファイアーボール、ウインドスクレイバーで攻撃してみたが、傷一つつかない魔法障壁で少し癖がある。
これは、風のバリアーだ。それも超強力な魔法だ。
フラウが弩弓で攻撃、少々の傷がつくが自動修復されていく。
やはり、外側の石柱周りに強力なバリアーが張られている。
特殊なバリアで、相手の攻撃力に感応して防御力が可変に作動するものだ。通常の魔力障壁は、常時同じ強さで稼働する。今まで見た事がない。
これで、数千年を風化することなく存在する理由が分かった。
実験その2
二番目の石柱の巫女の印を探す事と、本当にウインドカッターで貫通するか盾を置いて出て来る。
口伝を信じるなら最後尾の兵士が20mまで中に入れたなら速攻で2番目の印迄行って帰って来れるだろうという杜撰なプランだ。
帰るときに余裕があれば、ウインドスクレイバー、ファイアボールを柱に撃ち込んでみる。
まず、実験をする為、ミスリルの盾、高密度ミスリルの盾、オウゲンスの盾をつっかえ棒で置けるようにした。紐もつける。
盾の内側に、勿体ないがオークの死体を鉄の桶、鋼鉄の桶、ミスリルの桶に入れ、各々に括りつける。
メーミが悲しそうにオークを詰めていた。後で食わせてあげるから実験に集中してね。
実験チームは、俺、オーキ、テンコの3人だ。
フラウ、メーミは、石柱から20m退避し、高密度ミスリルの盾を前に置いた。流れ弾対策だ。
20mに意味はないが、口伝で見ていた人がいたとするとこの辺ではないかと目測で思っただけだ。何千年も誰も近寄らなかったなら草の丈で見分ける事は出来ない。
一個目の巫女の指す方向は、確認してある。
3人は、後ろに盾とオークを背負い最初のポイントに集合する。
「行くぞ」
掛け声をかけ、突入。1,2,3,4,5,・・・203,
「在った!」
速攻で向きを中心に向けて設置する。
「撤収!」
ウインドスクレイバー、ファイアボールを柱に撃ち込む。
魔法は普通に発動したが、魔法を弾いて消滅していく。
相当の魔耐を持った石柱のようだ。
必死になって石柱を出ようとすると、もう少しの所で、
”ふゅいーーーーーん”
と石柱が鳴く。
「急げ―!」
必死にフラウの所にダイビングした。
3人は、何とか脱出に成功した。
”ガガガーガーー”
石柱から10mちょっと位の草がぐちゃぐちゃに切れて落ちた。
俺達の所には、少し強い風が吹き、刈られた草木が飛んできた。
10分ほど待って、紐を付けた盾を引っ張る。曲がったりしたので、引っかかるが何とか引きづり出した。
紐は万全を期すためユグ糸を使ったが、一切傷は無かった。
盾に傷は無かったが、鋼鉄の棺には無数の傷跡があり、貫通迄には至らなかったがボコボコだった。
鉄の棺は貫通しており中のオークがぐちゃぐちゃになった。
ミスリルと鋼鉄の棺を空けると下から50cm位で切断されている。上に向かって30cm位の間隔で輪切りになっていた。
切り口をみると、フラウの使う真空刃そのものだった。
オウゲンスの盾で防いだオークは何も被害は受けなかった。
もう一つ分かったのが、鉄の棺のオークの切り口から見て、真空刃が通った後に斬撃で横から切られている。
つまり、透過する真空刃が通過した後に斬撃でランダムに切られている事になる。尚且つ、盾側からの攻撃は遮られたのだからこれは通路を透過型真空刃が通った後に斬撃が通路を通って来ると見た方がいい。
この検証で、解かった事は、オウゲンスの盾は、この透過する真空刃を通さない。
今回の実験で、盾をどの角度にするかで、通路の向きにするか中心方向にするか迷ったが、後者で良かったようだ。
口伝にあった中身がぐちゃぐちゃで鎧に傷が付かなかったのは、ミスリル製だったからか、斬撃が後から来る前に倒れたかのどちらかだろう。
これで、行きつく可能性が出来た。
行きついたとしても、何が起こるかは分からない。
これだけ、大掛かりな仕掛けを作れて数千年運用できる存在は人間ではない事は、誰が見ても確かだ。
口伝やモニュメントの絵からみてドラゴンだろう。
見に行って速攻逃げても殺されるリスクは高い。
聖獣アクリスから言われた、天元の槍のパートナーについて聞けなければ速攻退散だ。予想では、半分は大丈夫な可能性はあるんだが、・・・・・
全員を集め、今回の石柱攻略について方法を述べた。
今回の実験結果を説明し、攻略は、俺とオーキで行く事を伝えた。
「何言ってんの、駄目に決まってるじゃない。最後まで一緒と誓ったでしょ」
「駄目です。地獄だって一緒なのに、たかだかドラゴンくらいで離れないです。」
「オーキさん、私が聞いてきてあげるから残ってって言ったらOKする?」
「する訳ねーだ。タケオならドラゴンだって御嫁さんにし兼ねねーだ。ぶっ飛ばして阻止するだ」
「いや、そういう事じゃなくて、オウゲンスの盾は、縦2m、横1.5mしかないんだよ。オーキは、3mあるし、二人で隠れるのも相当工夫しないと入れないんだ。二人以上は無理だ。」
「風が鳴いたら真後ろにいればいいんでしょ。何とかなるわよ」
本当かよ。経路の幅によって不可能ラインってあると思うが。
こいつら、絶対引かないんだよな。
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朝明けきらぬ中、オーキと俺は入口にいる。
皆を起こさない様にそーーっと出て来た。
今回ばかりは、危険すぎる。
嫁を危険に晒して迄連れて行く事は出来ない。
気持ちは嬉しいが、ごめんなさい。
俺達は、石柱の中に入って行った。
「オーキ、暗いからもっとランプを上げろ」
そうすると、横からランプがス――と出て前を照らす。
「ちょっと暗いわね」
「コソ泥の気分です」
「何でお前らが、居るんだ」
「当たり前でしょ。タケオのする事を見抜くなんて、猿に交尾を教えるくらい簡単よ」
フラウさん、うら若き乙女の例えにはちょっと、と思ったらその猿って俺の事?
賽は投げられた。今更後戻りは出来ない。
みんな、また命懸けなのに、、、、、、
死ぬ時は一緒か。へへ