87.王家の谷周辺①
緩やかに谷底に向かい、川の横を降りていくとパワークロコスが沢山いるのが見える。
谷底は、平原になっていて草が生い茂り一面緑色が広がっている。所々木々も見える。
谷の上は、乾燥した何もない大地なのに異様な様変わりである。
草は高さが50cm~1mくらいで、川が流れていることから育ったのだろうと予測できる。
少し川を離れ、谷の壁際近くを歩いた。
この草を刈りながら進むのかとげんなりしたが、よくよく見ると少し高くなって草が生えない場所があり、そこを通れば何とか川まで行けそうだ。
「みゅ、そろそろ川が細くなるはずです。ただ、気負付けてください。私が来た頃より草が茂り過ぎて前が見えません。」
「少し偵察が必要だろ。メーミは、下がってろ。」
俺達4人で川までに道を探ることにした。
少し進むと魔毛ガニが数匹出て来た。いっちょ前に戦う気だ。
「皆、メーミはいない。頭を潰して即収納に。大量収穫、目標2000で行こう。」皆ミスリル精神注入棒を取り出した。
”バキ・ポイ””バキ・ポイ””バキ・ポイ”
”バキバキ・ポイポイ””バキバキ・ポイポイ”
”バキバキバキバキバキ・ポイポイポイポイポイ”
”バキバキバキバキバキ・ポイポイポイポイポイ”
”バキバキバキバキバキ・ポイポイポイポイポイ”
「何か増えてきてないか」
”バキバキバキバキバキバキバキバキバキバキ・ポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイ”
”バキバキバキバキバキバキバキバキバキバキ・ポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイ”
”バキバキバキバキバキバキバキバキバキバキ・ポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイ”
”バキバキバキバキバキバキバキバキバキバキ・ポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイ”
・
・
「タケオ、もう4000杯じゃきかないわよ」
”バキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキ”
「マスター収納に入れる暇が無くなって来たです」
「タケオ、黒い山が襲ってくるだよ。」
段々、収穫どころか襲われ始めた。
「痛て、痛て、痛て、こら、髪の毛挟むな。抜けるだろうが」
「痛い、痛い、痛い、髪の毛引っ張らないで」
「痛えーだ。変なとこ摘まむな変態ガニ」
「痛いです。尻尾は駄目です。お尻の穴突っつかないでくれです」
最早、蟹なのか山なのか、黒いもぞもぞが大きな山になって襲ってくる。
これが少し多いっていうのか、数百万はいるんじゃないか。
こんなのどうにも出来んだろ。
もう四方を囲まれ真っ黒で何も見えない。
「全員、緊急撤退、後ろ向きに走れ!」
俺は、後ろにファイアーボールとウインドスクレイバーを乱射しながら撤退した。
谷の端っこ迄泥だらけになりながら敗走した。
服がボロボロ、頭に2匹、床屋の様にハサミをチョキチョキする奴が付いていた。
振り払うと、、、、、、、
・・・・・・・・・・・頭の天辺が少し薄くなった気がする。
フラウは、ロングスカートが縦に割かれ、パンチラ状態。髪の毛に3匹蟹がくっ付いてブランコの様にぶらぶらしている。
オーキは、真っ黒で全身に張り付いている蟹を、体をぶるぶるして吹き飛ばすと、上半身すっぽんぽんの状態で、スイカよりでっかい胸のボッチにハサミでぶら下がっている奴が両方にいる。
テンコは、パンツもボロボロお尻が丸見えで、尻尾に5匹数珠つなぎにくっ付いている。
「メーミ、お前少し多いってだけ、言ったよな」
「みゅーーー、すみませんすみません。私が来た頃はこんなにいなかったんです。きっと異常繁殖したんです。」
「こんなところ、通れる訳ないだろう。別ルートを探せ。へっぽこガイド」
とにかく、5000は収納したので後で楽しみだ。転んでもただでは起きないどっかの商人である。
しかし、この憤りは何処にぶつければいいのだろうか。
ふと、にへらーとした勇者の顔が浮かんだ。
こんな思いまでして冒険してるのに勇者の野郎は、絶対、ソファーに寝そべり、月刊冒険者王を読みながら煎餅食って、”俺も冒険勇者になる!”とか言って大魔導士の尻触りながらうたた寝してるんだろう。 いやしてる。
あいつなら聖騎士の乳も揉んでるかもしれん。
いや揉んでる。
段々腹が立って来た。
弛んだ勇者は、怪獣大戦争に備え、鍛えねばならん。
「皆、少し休んでてね」
俺は、急遽ミスリルの縦長の箱を作った。
中に、聖盾アキレウソ、聖剣デュラン・デュラン、キルトーの杖を入れ、繋ぎ目を無くし、力尽くでないと開けれないようにした。
外側に、”勇者たちの宝物”と掘った。
「オーキ、この箱をさっき山の様になって襲われた場所に投げられるか、だいたいで良いから」
オーキは、助走をつけて”ぴゅーーん”と放り投げた。
”ドゴーーン”
「おー、ちょっと斜めだが、うまい具合に縦に刺さったな」
これなら、ここからでも箱が見える。
錬金作図紙A3を2枚取り出し、宝の地図を書き、古の昔、王家の谷に保管された勇者たちの装備としたためた手紙を書いた。
埃を撒き、水を浸み込ませ、乾燥し・・・・
十回ぐらい繰り返したら、どっかの古い紙みたいになった。
「今から、用事が出来たから老夫婦の所に戻る。」
皆に帰りながら勇者の爛れた日常生活事情(タケオの妄想)を話すと、”緩んだ勇者パーティーは、私達以上に報いを受ければいいんだ” と大賛成してくれた。
為政者は、人心をこうやって掌握していくんだろうな。
こわい、こわい。
でも今回は、俺は心が晴れる。勇者は実力が付き最強の武器を得る。WINWINではなく、勇者の方が断然お得なのだ。
へっぽこガイドのメーミは、”勇者様にそんなことしていいのですか”と言ってきやがったので、思いっきり”お前のせいだ”と言い切ってやった。
俺は、ちんちゃな小市民なんだ。メーミお前は、負けガニに負けた気持ちが分かるまい。
何万匹ものハサミで”がしがし”されると微妙に痛いんだぞ。全身微妙に疼くんだぞ。髪の毛一本一本どころか、毛根をチクチク攻められたら最強レベルの奴だって禿げるわい。
この鬱憤は、勇者に払って貰おう。
いや試練を受けて成長する勇者を想像して笑・・称えようじゃないか。
・
今、老夫婦の掘っ立て小屋にいる。
老夫婦には、この手紙を出して、ミーアニャンコ族のガイドを雇い、魔毛ガニの近くまで誘導してほしいと頼み、詳細な作戦マニュアルと共に金貨20枚渡した。
老夫婦は、二つ返事でOKしてくれた。いい夫婦だ。
・
・
俺達は、渓谷沿いを西に向かい、十字の谷の浅い部分を横断し、南西の谷の上を歩いている。
暫く歩いていると、湖に出くわした。その先には、土の大地ではなく草原が広がっていた。
「みゅ、ここには、ばー様が造る味噌の材料大豆が原生してます。今が収穫の時期で、トー様カー様が既に10日前に刈りに来ました。」
俺達も大豆を収穫しようと200mくらい刈りこんで収納に入れた。枝から豆を出すんだが枝ごと収穫しといた。
それ以外にも,胡椒、山椒が大量に採取できた。
草原を過ぎ、この南西側急斜面から谷へアプローチする事になった。
メーミの話では、谷を降りて川岸まで行ったことがあるそうで、そこには目立った魔物はいないとの事だった。
谷の上からロープを張り、下に降りる事にした。
え?飛べばって?ロマンがないなー、ここはロープを腰に巻きながら、岩肌を足で蹴り、ロープを手で滑らせて”しゅるるる”と降りるのがかっこいい。
谷底を少し歩くと川があり、周りには沢山の大きな花が咲いていた。
深紅、ワインレッド、イエロー、ピンク、パープルなどなど色取り取りの花が咲き、花弁が舞い散ると幻想的な様相を見せる。
「みゅ、みゅ、みゅーー、こんな花は咲いてなかったですー、
へへへ、えへへへ、タケオさん一緒にへへへ、踊りましょ。お嫁さんの居ないとこで子作りしましょ。へへへへ」
俺達は、全員毒マスクを付けた。皆には、毒消し石を持たせていたので何ともないが、メーミは、毒に当たったのだろう。
メーミに毒消し石を持たせ、毒マスクをさせた。
「みゅェ、私今どうかしてました?」
「これは、幻想花だ。これだけ咲き乱れるのは珍しいかも知れない」
毒マスクがあればどうという事は無いので、川を渡り先に進むとキラービーのような蜂ではなく、ミツバチが大きくなった蜂が出て来た。
「みゅ、これはこの谷名物のアイスマウント・ハニービーです。おそらく、幻想花の群生が出来たので巣を作ったんだと思われます。
この蜂は、性格が大人しいので”静か―に、静か―に”通り過ぎれば問題ないです。くれぐれも言いますが、絶対攻撃しないで下さい」
「蜂蜜とかないのかねー」
「ハニービーの蜂蜜は、幻想の蜜と呼ばれ、お風呂の後に飲むとどんな不眠症の人でも安眠出来て翌日には全てのストレスを解消すると言われています。
王族、大貴族でないと持ってる人はいません。
小さな小瓶1つで金貨200枚します。
何でそんなに高いかとい・・・」
「おらー」
”ばきばきばきばき”
「タケオー、いっぱい蜂蜜あるだぞー」
”びきびきびきびきびきびき”
「マスター、超甘々ハニーの巣ですーー」
二人はとにかく巣に付いた蜂を追い払い、収納に次々に突っ込んでいった。
「みゅーーーー、あんたら人の話聞いてんの。触るなっていったでしょ。この蜂は、敵だと思ったら全軍が突っ込んでくるのよ。いくら攻撃力が小さくたって魔力を針の先一点に極振りした針が刺さるのよ。魔耐が幾ら高くたってちくっとするのよ。見た時は少ないけど襲って来る時は物凄い量の蜂がいるの。だから氷山の一角でアイスマウンテンて名前が付いてんのよーー」
「チクぐらいならいいべよ」
「みゅ、それが何千万と、・・とにかく私は逃げるわよー」
メーミは、流星の如く川に向かって逃げて行った。
「何だあいつ、未だこんなに蜂蜜あるだべ。」
”ごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごご”
「おいオーキ、テンコ、これ、魔毛ガニの時よりヤバいぞ。空迄真っ黒に飛んでくるぞ。緊急退避ーー、走れー」
”チクッ”「痛て」”チクッ”「痛て」”チクッ”「痛て」”チクッ”「痛て」
”チクッチクッチクッチクッチクッチクッチクッチクッチクッチクッチクッチクッチクッチクッ”
”痛てーー”
「とにかく逃げろー」
”チクッチクッチクッチクッチクッチクッチクッチクッチクッ””チクッチクッチクッチクッチクッチクッチクッチクッチクッ””チクッチクッチクッチクッチクッチクッチクッチクッチクッ””チクッチクッチクッチクッチクッチクッチクッチクッチクッ””チクッチクッチクッチクッチクッチクッチクッチクッチクッ”
「「「「ぎゃー」」」」
俺達はとにかく逃げた。
川を渡って少しした所で殆どいなくなった。はー、何とか逃げ切った。
「「「「はー、はー、はー、はー」」」」
そこには頭だけ隠して、尻がこちらにフリフリしている物体があった。
俺はナイフを取り出した。
”ちくっちくっちくっちくっちくっちくっちくっ”
「みゅおおおー、ハニービーがお尻にーー、ガクッ」
あ、こいつ気絶しやがった。
"ぱん、ぱん、ぱん”
びんたを3発くらわす。
「痛い痛い、みゅなにするんですか」
「何時まで寝てんだ。逃げ腰ガイド」
「みゅ、あのーどちら様ですか、瘤だらけ族の方ですか」
「そんなの居るかー」
タケオの顔は、両瞼の上がぷっくり腫れ、頭は瘤だらけだ。
絶世の美人のフラウは、口がたらこ唇になり、両方の瞼がぷっくり腫れ、鼻の頭に真っ赤になった丸いタンコブが付いている。
服は穴あきだらけで、見えてはいけない部分が見え、体中を刺されている。
テンコもオーキも同じようで、4人全員が、瘤人族と言われても反論できない。
「みゅぷぷぷ、フラウさん絶世の美人だったのにお笑い系に転職ですか」
”ぶちっ” 何か切れた音がしたぞ。
フラウは紐を出した。それはそれは、芸術的な縄さばきでメーミは、逆エビに縛られた。フラウは縄の縛り方まで美しい。
「みゅがー、何するですか」
何も言わずオーキがフラウからロープを預かると、メーミに付いた縄を回し始めた。
”ぶーん、ぶーん”「どっせい」”ふゅーーーん”
「いやーーーーーー」
メーミは星になった、、、いや、。
”ドッポーン” 川に着地したので怪我はない。
オーキはずりずりとこちらに縄を地引網の様にゆっくりゆっくりと引っ張る。
「あぎゃあーーー」
”ちくっちくっちくっちくっちくっちくっちくっちくっちくっちくっ・・・・・・・・・・・・・”
メーミが帰還したのでテンコが縄を優しく解いてあげた。
タケオは、メーミの耳元で小さな小さーな声で呟いた。
「メーミ、瘤人族の世界にようこそ。フラウをディスるのは自殺行為だぞ」
仲間外れは良くない。それはいじめだ。平等とは良い響きだ
メーミは、両瞼、鼻、唇、と方耳がダンボになった。
グスグス泣いて煩いメーミにポーションをぶっかけた。
もう今日は疲れた。崖際まで下がり、そこでキャンプを張ることにした。
これからも長そうなので、ミスリルハウスを出す事にした。
もうメーミはどうでもいいや。
温泉を入れて入浴して、全員服がボロボロなので、王家の谷に来て2回目のお着換えタイムだ。メーミは替えの服がないので、テンコのお古を貰った。メーミは、前よりいい服になったので大喜びだ。
こいつ、何て立ち直りが早いんだ。
食事をし、早く寝る事にした。
メーミを含む女性陣がベッドを使う事になったので、俺はソファーだ。
皆、体中瘤だらけなので、全身に治癒シップを貼って寝る事になった。つまり女子たちは、一糸纏わぬ姿なのだ。メーミを一人リビングは可哀そうだからだ。
・
翌日になり、皆の腫れも引いて元に戻った。さすが魔法の世界だ。
「メーミ、あの蜂執念深いんだよな。このルートは無理だな」
「みゅ、このまま谷底の草原を東に向かい、南東側の谷の上に出ようと思います。折角なので古の神殿を見学して北上し再度アプローチしようと思います。」
早速、朝から草原を東に向かった。とにかく幻想花が生えている所は迂回して行く。途中に薬草の群生を見つけたので茎から上5㎝でカットし、大量に収納した。
もう、メーミには収納がバレバレなので気にしない事にした。
古の神殿迄もう少しの所で夕方になり、気にせずミスリルハウスで一泊した。
・・・・・おやすみなさい。