85.王家の谷へ
王家の谷のMAPを入れましたが、ネタバレ必至です。どうかさらっと見てください。
俺達は、補給を終え、今日、コロシアムの町を出る。
門番に挨拶して門を出たら、護衛を数十人引きつれた長老の一人が追ってきた。
「おーい、待ってくれー」
「どうしたんですか、こんな所に」
「はー、はあ、はあ、町を出るなら言ってくれ、町の恩人を見送りもしないでは、沽券にかかわるじゃろ。皆も来たがったんじゃが、持病持ちで急には動けんのじゃ。」
長老は、護衛に支えられながら、テンコ、オーキ、フラウに感謝を示し、握手した。
最後にタケオの所に来て握手をした。
「民を救ってくれてありがとう。
しかし、殺魔の槍は、本当に消えたんじゃろな。
最後にもう一度確認したくてな」
タケオは、優しい顔で、老人の目を見ながら力強く応えた。
「ええ、そのようなものは、在りません。在ってはいけないんです。在ったら我々がこの世に出させません。
もし、為政者があの槍を欲っしら、恐怖の顔をして逝くでしょう。
私利私欲のために、人を貶める者は、報いを受ける。
快楽屠殺人は、舌を喉に詰まらせ、人を無理やり奴隷にするものは奴隷の首輪で報いを受ける。
これ、因果応報、人の摂理というものです。
為政者の皆さんも努々忘るるなかれ、
、、、、
じゃあ縁があったらまた会いましょう」
タケオは、長老の肩をぽんぽんと叩きニコっと笑って町を去って行った。
暫く長老は、手を振って見送った。
ふと門の中に入ろうとした時、気が付き立ち止まった。
二人の長老の死因は、老衰と発表した筈だから関係者以外知らない。
拷問管ゴーマンは別名屠殺人、二人の長老と組んで手足を切り舌を切って食っていたと言われる快楽殺人者。
自分の舌を切られ、喉に詰まって窒息死したのが、今朝、発見された。
黒い噂だらけだった奴隷商アブラギーは、奴隷の首輪を嵌められ、二階からぶら下げられ首を吊ったのが、今朝、発見された。
彼らが知るはずが・・・・・・・・・
長老は、暫く立ち止まったまま動かなかった。
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俺達は、王家の谷まであと一日の所に来ていた。
ミスリルハウスを出し殺魔の槍の処分について考えていた。
収納に仕舞って箪笥の肥やしにしてもいいのだが、何時か、ぼけ老人になって、婆さんや、うっかり殺魔の槍を・・何てなったら腰が抜けて心臓麻痺で死しんでしまう。
そこで我が家の物知りフラウ博士に聞いてみると、魔力を吸い取れば核だけになって簡単には復活できないとの事だったが、吸魔の魔石でもMP吸収魔法でも吸い取る事が出来なかった。
フラウによると顕現して長い年月が経ち過ぎると強固になると言われ諦めかけたのだが、ふとナイカブラが作った超強力魔力吸収魔法陣を思い出した。
この魔法陣を小さなミスリルで作った。円柱の直径2cm長さ50cmくらいの棒型にしてみた。
筒の先を槍に充て柄を握って魔力を流すと
”きゅーーんん”と言いながら魔力を吸い始めた。
筒の反対側から黒い霧状になった魔力が吹き出し、自然と魔素に分解されていった。
これは、魔力掃除機だな。
槍は、だんだん小さくなり、いつの間にか薄い赤色の粒になったので、これを封じる事にした。ナイカブラは立方体の四角い箱だったが、高密度ミスリルの球体に入れて殺魔の槍と刻印して収納に仕舞った。
これで、お爺ちゃんうっかり、が無くなった。
しかし、何時かは所詮ぼけ老人、飴と間違え飲んで窒息死、むむむ・・
テンコ「昆布茶のむです?」
テンコの小っちゃい牙がかわいい。可愛過ぎて、思わず抱き寄せて狐耳を撫でまわした。もう顔中キスの嵐だ。
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翌日、王家の谷の北西側の入り口に着いた。
入口と言っても何かがある訳でもない。ただ広いだけの薄茶色の大地だ。遠くには、所々に小山が見え、深い谷が見える渓谷が十字方向に何処までも続いているようだ。
1㎞先だろうか、こちらを見ている小さな魔力の奴がいる。
冒険者が何組か一攫千金を狙って掘ってるとは聞いていたので気にしない事にした。
相手が何もしなければこちらも何もしない。
20km位、中心方面に向かって歩き、野宿することにした。1km離れ、ずっとこちらを窺っている。ミスリルハウスを出したいのだが、手の内は見せたくない。
キャンプテントを張り、久々の焚火だ。周りは荒れ地で焚き木等拾えない。
これだけは、マキが沢山収納にあるので、使う事にした。
4人で焚火をし、今日は、ワイルドバッファローのステーキとじゃがバター、レタスサラダ付きになった。
”ジューーー”
最早、小さな魔力の持ち主は、自分の行動を止める事が出来ない。焚火に近づいてきた。
「食べるか」
「みゅ、いいのか、俺達を殺したりしないか」
小さい魔力の者は、土気色の顔にボロボロの土気色のマントを羽織り、耳をぴんと真っすぐ立てて、寸胴で足が短く両手の甲をこち向けて指先は下げ、昔の幽霊みたいな恰好をしている。
頭には、ゴーグルのような物を引っかけている。
「ああ、折角だ。ここに来たのは初めてでな。挨拶代わりに一緒に飯を食べないか」
そう言ってタケオは、小さな魔力の者に席を開け肉を盛ったお皿とホークを渡した。
彼は、必死になって食べ始め、あっという間に完食した。
「もう一枚食うか?」
「みゅ、すまん。名乗りもしないで飯を貰って、ミーアニャンコ族の恥だ、許してくれ。私は、ミーアニャンコ族のメーミ。有難く頂戴したいが家族も呼んでいいか」
「ああ、いいぞ」
「みゅ、皆出てこい。」
そうすると、周りに4人のミーアニャンコ族が現れた。恰好は同じで男女の区別は全くつかない。
「うお!」
それより、最も驚いたのが、俺達は出て来るまで気配察知、魔力感知もしていたのに何も感じなかった事だ。
ただ、オーキとテンコは、俺よりほんの少し前に分かったようだ。
「全く感じなかった」
「みゅ、我々は弱き民族、隠れるのは生き残る手段ですから」
メーミだけ俺達に分かるように近づいたのだろう。俺達は、武器も何も持っていないし、警戒もしなかった。
5人を前に座らせ、今度はオーク肉を焼き始めた。
”じゅじゅじゅじゅーーーーー”
どうも、大きさから見て左右が両親で、最初からいたのが兄弟姉妹の中で年長者のようだ。
「みゅ、とー様これ何ですか、ギガントモールではないですよね。」
「ああ、これはオーク肉だ」
「みゅみゅみゅー、オーク、オーク、オークー、お天道様ありがとうございます。ありがとうございます」
「「「「バクバクバク」」」」
”パシーーーーン”
「みゅ、痛たい、頭打つと馬鹿になるぞ、とー様」
「みゅみゅ、メーミ!肉汁溢しただろ、お天道様に申し開きが出来るのかー、阿保が―」
「みゅー、お天道様お許しください。メーミは悪い子ですー」
どうも、ミーアニャンコ族は食事のマナーに煩いようだ。
3回目のお替りで落ち着いた。
「みゅー、これで7日は食べないで生きられるー」
凄げーなこの一族。
紅茶を振舞い、ちょっと聞いてみた。
「実はここに調査に来たんだが、さっぱり何も分からなくてな。
そちらが良ければ、ガイドを頼みたいんだがいいだろうか」
「みゅ、それは、毎日食事が貰えるのか」
「それはいいが、日当銀貨2枚でどうだ」
「みゅーーー、飯付きで銀貨2枚のガイドーーー」
「少ないのか、じゃあ銀貨3枚でどうだ」
「みゅーーー、飯付きで銀貨3枚のガイドーーー
儂は痔が悪化しとるで、メーミが行くしかないな」
やっぱり、痔は歩くのきついか。
「じゃあ、何日になるか分からんが、契約成立で良いか」
「みゅうー、今日の夜のお供のガイドからでOKですー」
「いや、夜は寝るから明日の朝からでいい」
俺達そんなに急いでないぞ。まさか、痔って夜のお勤めとか思ってるのか、こいつらつまらぬ勘違いしてるな。
メーミが肉を半分残し、布に包み込む。
「どうした、肉が欲しいならもう少し分けるが」
「みゅー、3年前から寝たきりのばー様のご飯です。すみません厚かましくて」
テンコが例の根っこを出した。
「これ持っていくです。」
「みみみゅーーーー、こ、こ、これは、幻のドス黒紫の根っこ、天に召される前のババアが、5年は元気に生きると言う伝説のー」
ーこの世界の奴は、幻、伝説なのに見て直ぐ分かるのな。ー
5人は、一斉にタケオを見た。
「これは、旦那様からの盟約の品ですな」
「違うぞ、意味などない。だいたいテンコが呉れたんだぞ、要らないなら引っ込めるぞ」
ミーヤニャンコ族の親父が、急いで懐に仕舞った。
小さな声で「ちっ、口減らしが・・」って聞こえたぞ。
「みゅー、いいえ有難くいただきますー」
(この根っこをテンコから収納一個分押収したが、嫁を娶らされる危険アイテムと知って、全部テンコに返した。)
5人は、手を振りながら、明日又来ると去って行った。
・
翌朝、テントから這い出ると、日が昇り始めていた。
そこには、メーミ、ともう一人がゴーグルをかけ、登る朝日を直立不動で両手の手の甲を前に出して立っていた。
「「みゅお天道様、みゅお天道様、今日もいい日で・・・・」」
何か拝んでいた。
一通り、ごにょごにょ喋り終わったので声を掛けた。
「おはよう、早いな」
「みゅー、おはようございます。私メーミのばー様のメーミンと申します。この度は命を救って頂いて感謝の念に堪えません」
メーミんは、深々と挨拶してきた。
「袖すり合うも多生の縁、気にするな。朝飯食うか」
コクコクと頷く、メーミとメーミンだった。
今日の朝食は、彩り野菜、羊の乳、胡桃パンにバターとイチゴジャムのミックスだ。
焚火に火を付け、桶に水を魔法で出し、食事を用意した。
嫁達が起きて顔を洗って、頭をとかしてボーとした顔で胡坐をかいて座り出した。
「食べようか。パンはお替り自由だからバケットから勝手に取ってくれ」
みんなが、コクンと首を垂れて食事を始めた。
ぱくぱく食べる姿は、何か朝から元気が出るな。
しかし、朝から腹が出る程喰って、動けるのだろうか。
満腹になったのか、腹を擦りながらメーミが話し始めた。
「みゅ、ばー様を連れてきたのは、食事をご相伴に預れればとの思いも有りましたが、タケオ様が調査と仰っておりましたので、この谷を一番知ってるのは、ばー様ですから、何でも聞いてください」
こいつ、機転が利く。
「それは、助かる。昔ここに王家があった位しか知らないんだ。この谷の全容がまず知りたい。特にこの数千年の間、何が変わり、何が変わらなかったのか大雑把でいいから教えて欲しい」
老婆は、数千年前からの言い伝えから話し始めた。
ここは、時の王家が没落した後、都は風化し、荒れ地となった。
住みつくものは無く、只々風の音が鳴り響く荒野だった。
千年以上前、風が鳴り響く大地は、強い風が通る場所が削れ、十字の方向に谷となった。谷にはいつの間にか川が流れ、今では幅百メートルになった。
ここから3日の所に十字に渓谷が別れる場所がある。そこには数万とも数十万とも言われる円柱状になった石の柱が立っている。
ここを石柱群と呼ぶ。高さ数百メートル、その広さは直径20kmに及ぶ。
突然、円柱が鳴きだすと、円柱の中にいる生き物が帰って来たことはない。
昔の滅ぼされた王家の者が亡霊となって生き物を残虐に殺す谷と呼ばれるようになり、何時しかここは、王家の亡霊が住み着いた谷、そして王家の谷と呼ばれるようになった。
王家の谷の真ん中には、広場があり黄金で出来た町があると言い伝えられている。本当はそうなのか誰も行った事が無いので大嘘だろうと思われている。
一時、教皇国軍が真相を確かめようとミスリルで武装し300人の兵士が中に入った。風の音が響いたと思ったら”ガシャガシャ”と鎧の音がしたそうだ。
3日経っても帰って来ない。遠巻きから角度を変えながら見ると20m入った所に鎧らしきものが見えるので、一人が勇気を出して中に入り、鎧にロープを結び出て来た、みんなで引っ張ってみると教皇国兵だった。
その兵士の鎧の何処にも傷は無く、鎧の中の体だけが輪切りになっていた。
それ以来、誰も挑戦するものは居なくなった。
谷に行く途中に小さな小山が数十ある。小山の間には渓谷に流れる川があり、小山の中や川の近くでお宝が見つかる事が有り、トレジャーハンターは、そこを掘リ始めた。結構沢山の財宝が出て来るが、そこには、ギガントモールやパワークロコス等の魔獣が棲み、簡単には近づけない。
ギガントモールは、針糸モグラとも呼ばれるが、大きさは、小さいので体高1m、大きなものだと3mになる。普通に岩だと思い、座ると針が出てきて串刺しにされる。地中にも住んでいて、洞窟内に岩に擬態して得物を狙っている。
パワークロコスは、ワニの大型種で特徴は水の中からいきなり5m位は飛んで来て嚙みつく、その力は、ミスリルの鎧すらぐちゃぐちゃにして呑み込んでしまう。
大きさは、体高2m、全長4mから体高5m、全長10mにもなる大型がいる。
最盛期には、数百人はいたトレジャーハンターだったが、大半は、魔獣に殺された。それから、割に合わないと減り続け、現在は、数組に迄減ってしまった。
この小山群をトレジャーマウンテンと呼んでいる。
と言う事だった。
まず最初は、トレジャーマウンテンでも行ってみようと思う。
恐らく聖獣アクリスが言っていた王家の谷とは、石柱の中だろうとは思うが、通り道がてら見るだけだ。