83.コロシアムの為政者
ムサイシさんと別れ、今日はお開きになった。
オーキが、腕、太腿に怪我をしたので、治癒シップを貼り直し、今日はオーキの方を向いて抱き付きながら寝た。
頭を撫でられるのがオーキは大好きだ。
後ろからフラウが抱き付き、頭にテンコがくっ付いて寝る。
・・・・家族の一番幸せな一時だ。・・・・
ただ、夜オシッコに行き難い。・・・・
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チュンチュン
今日は、昼から剣闘王戦表彰式だ。町の役員会議室で行われる。
余り気乗りはしないが仕方がない。
町役場に行くと、場所が変わったと言う事で、元老院会堂で行われる事になった。
武器の携行をチェックされたが、俺達はマント以外何も身に付けなかった。(タケオだけスーツを着ている)
会堂のドアを開けると100人以上の兵士が周りを囲んでいた。
真っすぐ進めとの事で、前には6人の白髪の好々爺が1mくらい高い所から、こちらを向いて座っていた。
「そこで跪け」
何だこいつ。
「俺は、表彰式に来いと言われたから来ただけで、何も知らせず跪けと言われて意味も分からず従ったりはしない。
この町の人間じゃないし、田舎者だから礼儀作法も知らない。」
後ろから兵士が近づく。
「ヘブッ」
兵士は、頭に手を掛けようとするので、後ろ蹴りで10m程、吹き飛ばした。
「「「「「「「「チャキ」」」」」」」」
100人の兵士が同時に剣に手を掛けた。
そこに、前に座る真ん中付近の爺が、手を挙げた。
「やめい!」
兵士たちは、抜刀体制から直立の姿勢に戻った。
「すまんのう、騙すつもりはないんじゃが、ちとお主に聞きたい事があってな。いいかな」
「こんな強引なやり方をされる側としては、好きな人は無いと思うのですが、お年寄りには尊敬を持って接するのが家訓ですから何なりと聞いてください」
「実はな、竜人が持っていた槍についてなんじゃが、何処にやった」
「それは、お話しましたが、燃えて無くなりました」
「そんな事はあり得んのだ。あの槍の正体は、殺魔の槍と呼ばれていてな、千年以上前に消えた伝説の槍なのじゃ。
あの槍は、人間には消滅させる事は出来んと書かれている。
当時、数千とも数万人を殺したとも言われる殺戮兵器での、このまま放っておいたらまた惨劇が繰り返される可能性があってな、どうしても厳重に保管せねばならんのじゃ」
「何を言われても無いものは無いのです。無いものを証明しろと言われても。。それって悪魔の証明ですよね」
「では聞くが、闘技場で皆を救った盾は何処へやった」
「ああ、あの盾はボコボコになったので、とある鍛冶屋にあげましたよ。もう一度溶かして造れるように」
そこに、後ろから黒装束の者が耳打ちをした。
「そうか、裏が取れてるのだな。」
次に、話していた隣の爺さんが話し出した。
「奇麗すぎる。若いの、誠に奇麗過ぎるのじゃよ。使った盾は奇麗に処分され跡形もない。あれだけ闘技場が壊れる程の衝撃を受けた盾の砕けた残照が全く無い。
観客も関係者も誰も居なくなったら決着がつく。
その日のうちに、その盾は鍛冶屋の溶鉱炉に消え、証拠は何もない。
槍は、うちの者が良く見える前で、タイミング良く奇麗に炎に包まれ消えてなくなる。証拠は全くない。
お前さん、普通こんなに奇麗に進む事などあり得んのだよ」
「凄い難癖つけますね。こちらもこれ以上説明などできないですよ。それに何でしたっけ、何とかの伝説の槍ですか、本当にその槍かは知りませんが、あんな危ないものと似ていると分かった時点で何故竜人から取り上げなかったんですか、こっちは観客含め死にそうになったんですよ。
ここの町民を救った我々にこんな難癖付けて一体貴方達は何がしたいんですか」
長老は、隣の長老と小さな声で何かを話している。
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「話す気は無いんじゃな。だったら暫く泊って行ってもらおうか。衛兵こいつらに魔封じの手枷を付けよ。抵抗するなよ何も無ければそのまま帰るだけじゃで。両方が怪我してもつまらんからな」
「本当に貴方達は、自分の都合でしかものを見ないんですね。
それが長生きの秘訣ですか。本当に長生きすると良いですね」
タケオ達は一切抵抗しなかった。
タケオ達は、元老院会堂の中の地下牢に押し込められた。
手枷に魔封じをされたままだが、タケオを中心に牢番側にオーキが座り、4人で固まったまま胡坐をかいた。
誰かが小さな声で「プランA」と言った。
そのまま、座り続ける4人であった。
◇タケオ達が居なくなった会堂
タケオ達が牢屋に連行され、暫く別の議題を議論している中、剣闘場の審判団から急遽進言があった。
「元老様、緊急での発言をお許しください。」
剣闘王戦の審判団の代表が一歩前へ出た。
「なんじゃ。申してみよ」
「剣闘王戦優勝者の者達ですが、確かに我々は、彼らに救われたことは事実、民衆も同じです。
もし、彼らを疑わしいだけで罰すれば、民衆も流石に黙ってはおりますまい。それに救った英雄を罰し、賞金も与えずでは、他の国からも誰も来なくなります。その経済的打撃は相当大きいかと。民衆の口に戸は立てられません」
「確かにそなたの言う通りじゃ。しかしな、あの殺戮兵器が他の国に渡り、当町を攻めたらどう抗う。この町で使われたのは事実なのじゃ。攻めて来ないと誰が断言できる? 十分な取り調べは必要じゃろ。潔白なら謝って盛大に祝えば良いのじゃ。儂らは、この町に脅威がないか確認するので精一杯じゃ。」
審判団は、無理やり下がらされた。
タケオは、思った。審判団は味方のようだし民衆も悪い感情は持っていないものが多いようだ。
え、何でタケオがここの元老院会堂に居るのかって?
だって、プランAだから。
実際、為政者大っ嫌い,大噓つきの快楽殺人者と断言するタケオは、必ず牢に入れられると思っていた。そこで、簡単なタケオ等身大木偶人形を作ったのだ。
牢屋は暗いので、遠くからでは、まず見分けはつかない。
オーキの前に立ち、牢屋に入る時取り出して魔封じの枷を嵌めてオーキが人形を持って入れば、タケオは中に入ったと誰もが思う。変わるときに気配遮断のマントと自分自身に気配遮断を掛ければ、町の兵士程度のレベルでは誰も認識できない。
兵士が帰るとき、一緒に帰って会堂に戻れば皆が会議中に出くわしたと言う訳である。
但し、暗部の人間は、感知に長けている。最初に来た時ワザと守備兵を怒らせたのは、気配察知、魔力感知、危機感知を最大限に発揮し、相手の動向を探るためだ。
案の定、暗部の黒マントなど6名が元老をすかさず守る位置に立ち、左右に6名ずつが元老が座る柱の陰に隠れているのが分かった。
現在は、相手に感知されない出入口近くの端の柱の影で静かに聞いていたタケオであった。
これ以外に考えたプランを簡単に説明すると最悪プランだ。
プランBは、牢屋でなく即拷問されるパターンで、拷問関係者を殲滅し、逃亡のお尋ね者ルート→二度と教皇国、マケラ帝国に来ない。
(教皇国は、コロシアムの町と繋がりが深い、教皇はマケラ皇帝のおじさん)
プランCは、即兵士が斬りかかって来るパターンで、町の為政者と守護兵士殲滅→全世界凶悪犯指名手配→廃棄賢者トウースの隠れ家隠居暮らし→ダースでチームがたーっくさん。
とにかく、かかる火の粉は、全力ではらう。
ーーーー 枷 ーーー
さて、逃亡の為に、ここで問題となるのが魔封じの枷だ。
この世界では、魔法が一般的に使われるので、囚人は必ず魔封じの枷で拘束する。
魔封じの枷は、体に触れる事で魔力循環を阻害する。
魔力を全身に循環させるとき魔封じの枷は、魔力を通す。
この枷に通った魔力は、上から下へ通過するのを右横や左や外など循環を掻き乱し発散させるため、魔法が発動できなくなる。
素材は色々あるが、一般的には吸魔の魔石を使い、吸い取った魔力をランダムに内側、外側に放出するようにする。
この枷をしたまま魔力循環をするとランダムに魔力を外に発散されるのでMPが枯渇する、そのため魔封じの枷をしたら魔法の発動どころか魔力循環も出来ない。
この世界の衛生状況は大変悪い。その中でも牢屋は最も衛生環境の良くない場所の一つである。人々は、魔力循環をしているだけでも体内環境を整え疾病率を大幅に下げている。つまり枷を付けられた牢屋では治療もされないので、死亡率は非常に高い。
この枷の錠の仕組みだが、この枷には、人の腕の太さに応じて伸縮する機能と鍵が付いている。
枷の円柱の材質の厚みは5cm、長さ15cmも有り重さも片方10kgもある。両腕を挟む円柱はくっ付いていて左右の腕は動かすことは出来ない。
鍵は、魔法キーと呼ばれる魔法で締める。
ここで、どうやって伸縮するのかだが、警察の手錠と同じで蝶番があって、ぎゅっと上から押せば締まる仕様だ。
次に鍵だが、鍵の部分だけ魔力透過防御の魔鉱石(やや希少)を使っているので魔法発行時の吸魔石との混乱は起きない。
魔力錠は、マスターと呼ばれる開錠者、スレイブと呼ばれる一般に使用する開錠者、アドミンの開錠者の3人が登録されている。この町の監獄では、スレイブが牢番、マスターが警備責任者、アドミンが町専任錠前師となっている。
この3者の魔力紋以外の魔力では開錠できない仕組みだ。
では、タケオはどうやって枷を脱着させたのかだが、非常に簡単であった。 それはユグ糸である。
全員が透明のユグ糸を肌色にして巻いていたのだ。8㎜のユグ糸を巻き枷を掛ける時、固くして置けば1.6cmの手首周辺に隙間が出来る。糸を柔らかくすれば簡単に手首から抜ける。
ユグドシアルの糸の素材のスパイダーの糸の特色は、他の魔力を弾くし、自身の魔力を内包し干渉させない特性がある。つまり魔力は抜き取られないから魔力循環に支障はない。
つまり、この枷は肌色のユグ糸を巻いておけば何の役にも立たないという事である。
ーーー
いよいよ今日の議題も終わり元老たちも会堂にて全員で遅い昼食を食べ、奥の会議室に移った。
会議室へ廊下は途中から石畳になり周りも分厚い石壁で覆われており、シェルターのような堅牢さを感じる。もしもの要人避難場所も兼ねているのだろう。
当然廊下は薄暗くなるが、松明が所々に焚かれ、少々の明るさを保っている。少し歩くと廊下が急に広くなり、前に分厚いドアが一個でてくる。
広い廊下には、壁際に椅子が30くらい置いてある。きっと会議が終わるまでお付きの者たちはここで待つのだろう。
門番が一人ついていたが、兵士たちが4人ほど中に入り周りを確認している。
「異常なし!」
お付きの者、兵士たちがドアに集中している時、通って来た廊下が広くなる直前の松明が落ちた。
一瞬緊張が走った。周りの者が問題ないか確認している。
「落ちただけです。攻撃の可能性はありません」
激怒した護衛隊長が、門番を叱責する。
「おい門番、何故きちんと松明すら刺せんのだ。お前は今すぐ解雇だ!」
割って入ったのは、長老の一人で温和な爺さんである。
「まあ、ええ、松明が旨く刺さってなかっただけで解雇しとったら誰も居なくなるぞ。火は段々燃えるから刺した直後からだいぶ燃えた後なら落ちる事もあるじゃろ。今度から気負付ければええ」
「しかし、元老院の方々にもしもの事があったらこの町は潰れてしまいます」
「はあ、お前は町を潰す気か。ええか、毎日使う訳でもない会議室に能力の高い門番を一人置いたとする。門番は侵入者を防ぐため動けない。では松明を確認するためもう一人優秀なものを置く、そうすると人数は倍、給料は6倍になる。
こんな事を、儂らが行く所々に配置してみろ金が幾ら有っても足りんじゃろ。
とある国では、剣闘王戦のような大会をしようとしたそうじゃ。最初、金貨2万枚で行うと宣言し、民の信を得たそうじゃ。所が実際には金貨5万枚掛かったと発表した。そしたらな、大規模な事なので予想外の事が起こるのは仕方がないと開き直ったそうじゃ。1割2割程度ならまだ納得したじゃろ。いい加減にもほどがあると思い、調べて行ったら賄賂や談合何でも有りで、挙句の果てに、これは大会に使った全額ではなく、直接関係ない部署まで大会の為に金を使っていたんだと。道を別に作ったり色々やっていたそうじゃ。もう税金をどれだけ投与したのか金貨20万なのか幾らなのかも分からん状態で効果は一体何じゃったか有耶無耶にされ、国民は、借金を税金で荷重される始末。
そんなお国が今度、隣国から大型魔導砲で攻められるとなって、軍備を増強しようとするんじゃが、そんなお国柄なのじゃろ最初は金貨100万枚の大規模戦線を張ったはずじゃったが、他の国なら金貨10万枚でもお釣りが来るほどのお粗末な攻撃力しか無かったそうじゃ。予算を組んでも借金だらけ、借金は子、孫の代に担がされ、反対を言う者は言うだけで何もせん。
この国は、戦う事も出来ず経済破綻して敵国の属国になって奴隷の様に絞り取られ、跡形もなくなった。
若者など半分は他の国に移住するわな、孫からしたらお爺さんがやったツケを何も意見も言えず払わされるんじゃ。堪ったものじゃないわい。愛国心も無くなるわな。こんな調子だからクーデターも起こらん。本当に情けない国じゃ。
この国は、子供が生まれんと言われれば、勝手に施設を立てる。子供を産みたくない、おなごの本当の気持ちは考えん。・・・
年を取ると話が長くなっていかん。
ええか、最初の一歩が大事なんじゃ。予算を決めたら守り切る事。少しはオーバーしても何とかなる。足りない部分は当事者の知恵で埋めれば、国は強くなる。予算を守れなければ止める勇気が必要じゃ」
爺の長ーい説教は終わり、6人の元老院の長老だけが会議室に入った。
お付きの者たちは、壁際で待機し、密談が始まった。
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「お主たち、本当に証拠もないのにあの小僧を殺すのか。儂は反対じゃ」
「「「儂もじゃ」」」
どうも4人は、反対のようだ。
強硬派の二人はと言うと。
「ええ、この責任は儂ら二人が取るから黙っていてもらえんか。もし、この町に何かあってからでは遅いんじゃ」
「だったら、2日以内に証拠が出ない場合は、即解き放つんじゃぞ。この前も罪のない民の手足を切り、一生を台無しにしたではないか。今まで何度も何度も同じことを繰り返し、勝手に証拠を捏造した事は調べがついとるぞ。今までに幾つかの功績もあるから黙っておったが、もし今度そのような事をしたら儂ら4人黙ってはおらんぞ。」
「分かっておるわい。この前は、裏の者の情報を信用し過ぎただけじゃ。情報元は粛清したのじゃから勘弁してくれ」
「良いか、この町は、教皇国との共栄でしか成り立たん、それに命を弄ぶような為政者は、必ず民によって粛清される。正義あってこその繫栄であって、我々も民の一人だという事を肝に銘じて行動せい、これは最終警告じゃ」
そう言って反対派の4人は、帰って行った。
ここの為政者は、この2人が相当強引に事を勧める奴のようだ。
どんなイデオロギーも長年続けば綻びが出るんだろうか。