82.剣闘王大会の終り
リュウカンとの決勝戦は終わった。
闘技台には、タケオ、フラウ、オーキ、テンコが集結した。
「オーキ、頑張ったな」
タケオは、オーキに抱き付き頬ずりして労う。テンコもフラウも駆け寄り、抱き合った。
ああ、生きててよかった。
タケオは、取り合えずガングールの槍を収納に仕舞おうと思ったが、、、
咄嗟にファイアーの魔法を発動し、槍を炎に包み炎が上に消えていくのと同時に槍を収納した。
誰かが見てる!
おそらく遠目の魔法だろう。相当熟練した奴だな何処から見ていたかは分からないが、観客席に俺がいた時は感じなかった。
闘技場は囲われているので、見れる位置は限られる。
そんなに前からではない筈だ。状況から見て、戦いが終わってからで間違いないだろう。
咄嗟の判断だったが収納に仕舞うのを見られるのは、余り嬉しくないし逆手にとって槍が消えた事の証拠にしたい。
こんなものが為政者の手に渡ったら何するか堪ったものじゃないからな。
「おーい、みんな盾を箱に収納してくれ、壊れたやつも全部だぞー」
俺は、白々しく皆に盾を回収する振り(フォジックで箱に入れる)をさせた。みんなも何かあると読んでくれて何も言わず盾を木箱に入れてから亜空間収納に移動した。
皆が集まり小さな声で聞いてくる。
「「「どうしたの」」」
タケオ「誰かが見てる。声は最小ボリュームで」
フラウ「だけど、これどう言い訳しようか」
闘技台はボロボロになり、観客席は、オーキの衝撃波ソニックで所々粉々になっている。
テンコ「正直に話したら、修理代請求されるかもです」
オーキ「すまねー、ちょっと気合入っちまって、つい」
皆がタケオを見る。
ここは、トーク上手なタケオ先生の出番でござる。
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暫くして、衝撃音が納まったので闘技場関係者が戻って来た。
最初は恐る恐る近寄って来たが、脅威は無いと思ったのだろう。
腕を切られた審判が治療されて腕を吊っていた。
審判が聞いてきた。
「先程は助けて頂き、ありがとうございます。
それで竜人は、どうしましたか」
タケオは、平静を装い。
「ええ、オーキが倒しました。そこに輪切りになってる黒いのが竜人族の人です」
じーっと審判達がリュウカンの亡骸を見ている。
「そうですか、これは完全に死んでいますね。皆、避難してしまって、顛末が分からないので教えて貰えますか」
ここで、トーク上手なタケオ先生は、事の経過を話した。
「まず、竜人が暴走して審判や観客に向けて斬撃を飛ばし始めたのは、御存じですよね」
一人の役人風の男がメモを執り出した。
審判など関係者がコクコクと頷く。
「皆さんが非難する時、鉄の盾を使っていたのも観ていたはずですね。皆さんの避難が終わった後、盾は、ぐちゃぐちゃになって吹き飛ばされました。
この威力は、竜人が使った衝撃波を強化した魔法だと思います。
残って壊れた盾は箱に入れて処分しときますので気にしないで下さい。
それから、戦いに我々も参加し色々な斬撃を搔い潜り、何とか倒すことが出来ました。
ただ、竜人の斬撃は鋭く強力で、我々が避けたところが、観客席の破壊された部分です。凄まじい威力でした。避難されなければどれだけの方が死んでいたか分かりません。」
「その、竜人が持っていた槍は、何処に行ったんでしょうか」
やっぱり質問してきたか。
「ああ、彼が死んだら燃えて無くなりました。ぼわっと燃えて天に昇るように消えてなくなったと表現した方が正しいかも知れません」
「何故、貴方達は盾を準備していたんですか」
「オーキが審判の方に言ったの覚えていませんか、魔槍に竜人が乗っ取られたと」
「はい、私が覚えています。それがなぜ関係するんですか」
「大会関係者の人で前回、前々回と竜人の戦いを見ていた人にも聞いて欲しいんですが、彼の戦いは、戦う毎に段々常軌を逸した行動が多く見られました。準決勝など当時の審判に聞けば一発で分かると思いますが、場外に落ちた相手を斬撃で必要に殺そうとしていたんです。
それを見た時、何かに取り付かれているように見えたんです。
彼が変わったのは、麻布に包まれた槍を使う時です。目が血走りとても尋常とは思えなかったのです。
そう、槍が体を乗っ取った様に見えたんです。
もし決勝でそうなったら、最悪の場合無差別攻撃でも起こったらどうしようと思い、助けられる範囲は助けようと盾を置いておいたんです。
まさか、やってもいない無差別攻撃をこれからするかも知れないと皆さんに言っても誰も信用されないでしょう。
こちらも推測で絶対とは言い切れなかった。
実際に起きなければ使う必要もないので、箱に入れて前に置いておいたんです。
しかし、こんな強力な相手だとは思いませんでしたよ」
「確かに、予測を言われても運営側としましては、相手への妨害と判断し、受け付けないと思います」
話に嘘を混ぜながら、何とか壊したのは竜人一人に擦り付け、魔槍は燃えて無くなった事にした。
やはり、何故盾を準備していたかを突いてきた。ここは、事実を離さないと辻褄が合わなくなるのでそのまま話した。
後日何かあれば話を聞きたいと言われ、表彰式の時にと言われたが、オーキが最後に戦ったのは、一人ではないし、審判もいなかったので優勝は辞退したいと言ったのだが、どうしても参加してくれないと我々の首が飛ぶ(この世界では本当に飛ぶ)と言うので、これ以上逆らうと監禁されそうだったので参加する事ことになった。
役人ぽい人が、この有様では闘技場での表彰式は出来ないので、翌々日に町役員会議室で行う事となった。
・・・対応が早すぎる。・・
・・・嫌な予感しかしない。・・・
ここで逃げるとお尋ね者になりそうだし、どんな罪でもでっち上げられそうだ。
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次の日、ムサイシさんに会った。
おそらく今日一日しか会えないので、早速ムサイシさんに魔力循環の大切さと身体強化について実践を交えて説明した。
教本も買ってきて渡した。
「これが、拙者よりも強かった理由でしたか、しかし拙者に秘密を教えて良かったのですか」
「これは、みんな知っている事ですから気にしないで下さい。それより、何故、知らなかったかが不思議です」
「ええ、拙者は、東の国の一番東にあるミヤンモト村で孤児としてお寺で育ちました。お寺はこちらで言う所の教会の孤児院ですな。
5,6歳から殆どを山で暮らし、戦う獣が師匠替わりでした。
余り読み書きが出来ず、剣は独学ですので魔法など全く知ることなく育ち、東の国の都に剣士になろうと出て行ったのですが、皆面妖な技を使い、何処にも仕官出来ず、剣の道を究めようと流浪の旅をしていたのです。あれから10年ここに行きつくまでで、体に何か動くものがあるのは分かったのですが、友人も出来ず聞く機会はござらなんだ。その間に子供の通う寺子屋で一緒に勉学し、簡単な文字は分かるようになってでござる。
武者修行の対戦相手は、まず間違いなく駆け引きの話しか声を掛けて来ませんでな、戦闘を左右するようなことは享受できる者と会う事は叶いませなんだ」
この人、戦闘狂の凄いボッチだよ。
「何となくわかりました。魔力循環と身体強化は、個人差があって次の段階に行くのが分かりにくいんです。そこは本に加筆しておきましたので、確認して下さいね。
後、技を試す時など最初は絶対真剣を使わないで下さいね。
私は、それで自分で自分を何度殺しそうになったか分かりません。体の感覚が変わるので少しづつ試していくのをお勧めします。」
「タケオ殿、いや師匠、かたじけない、忝い、忝い」
ムサイシさんは、泣きながら手をぎゅっと握ってきて感謝の気持ちが伝わって来た。
しかし、この人の手の厚さは、俺の倍くらいある。一体どれ程の握力があるのだろう。
久しぶりにムサイシさんに才能測定をしたら、クロだった。
既に50以上レベルが上がっているので、何処まで魔力循環が上手く行くは未知数である。
「いえ、師匠じゃなくて、私も教えてほしんです。」
タケオは、黒魔路改改を出し、今自分のもてる最速の剣を披露した。
エアジェットを使った俊発からの右からの居合切りを見せたら、
「タケオ殿、私に斬りかかってみなさい」
いやいや、流石に魔力循環も儘ならないムサイシさんには、無理なんじゃないかと思うのだが、どうしてもと言うので言う通りにした。
木刀をだらりと持ったムサイシさんに左から斬りかかったが、通りすがりに頭をポカと叩かれた。
「どうしてですか、オーキには遅れを取ったのに、俺だってそれなりに速い筈ですよ。失礼ですがムサイシさんでは目で追えなかったでしょう」
「これはですな。必見して一番躱しやすいからです。
まず、一度見ると、ある程度の速度、動きが分かります。
特にタケオ殿の場合、最適最速を目指して研鑽されたのだと思うのですが、そうすればそうするほど、動き出し時点で右に行こうが左に行こうがどうなるのかが分かってしまうんです。だから私は、その通過点に木刀を置くだけで簡単に頭を叩けたわけです。
我々日々研鑽する剣士になると、フェイントを入れても流れを読んでいるので全く通じないと思います。
いかに早かろうと剣の軌道と各関節の動き、足の位置を見れば簡単に躱せますよ。必殺技は、相手を追い込んで逃げれなくしてからでないと繰り出してはダメです。
オーキさんとの戦いで遅れをとったのは、短剣だからです。
もう一つは、剣の素人だからかも知れませんが、私の剣が目の前に来てから除け、短剣を振るのも目の前しか振らない。これでは、いかな剣豪でもこちらは長剣あちらは間合いの短い短剣では懐に入られると捌けないのです。
それでいて、真直ぐ対峙しかしない。動体視力、俊敏性、攻撃力、防御力が圧倒的に高かく、体術は無視される。
これでは、剣だけで捌かなければならず、隙を作る事が出来ない。全く剣士殺しの技ですな。」
自分が、あの時の死神ジョーになった気分だ。早くするだけに拘り、相手の方が早ければ切られる。そう思って研鑽した。体重移動やシュミレーションも研鑽したが、相手に隙を作らせるなんて考えもしなかった。剣の奥は深いし険しい。
そこにボクネエさんが現れた。
「これはこれは、ムサイシ殿では御座らぬか、拙者ボクネエと申す都で官人胥吏をしておりました。貴殿の御高名はかねがね承り、都にも聞き及んでおりました。特にコシロー殿との戦いは身震いしましたぞ」
・・何だ、官人胥吏って
「東の方ですか?ああ、ボクネエ殿は、都にお勤めの方でした
か、ひょっとして、オーキ殿の戦法を考えたのはお主か」
「お恥ずかしい限りですが、その通りです。私ではムサイシ殿には遠く及びませなんだが、オーキ殿の身体能力であれば圧倒出来るかと策を練った次第にございます」
「いえ、拙者自分の至らぬところを見つける事が出来、本に嬉しく思います。これでまた修行が捗る次第にて、何と感謝致したら良いか、しかしボクネエ殿は別嬪ですな。これでは、殿方が放っておきますまい」
・・・べっぴん(別嬪)て?便秘の顔してるとか?
顔をちょっと赤くしながらタケオをちらちら見るボクネエ。
「そ、そ、それはその今、つ、つ、ま、よ、よ、ばい(妻呼ばい)されておりますれば、拙者も満更でも、、、御座らぬ故、、、
三日餅も彼の方が教都に赴かれれば、もう少しかと・・・
・
そんな事より、タケオ殿から魔力循環などお聞きなされましたか」
「ええ、最初に書物迄頂き誠に感謝しております」
「それは良かった。」
「しかし、ボクネエ殿は、こちらに何用で参られたのかな。
もし、武者修行であるならば語らいたいとこでござる。」
「いや、某は、人探しに来ておるのでこれから教都に帰る所でござる」
「しかし、東の国の都では、鵺が出て村々や町などの民が食い殺されていると聞き及んでおりますが、討伐されたのでござろうか」
「解決されておらぬのです。ただ、古の書には、一度舞い降りた鵺はまだ子供で、人を喰らい暗闇の森へ帰り、2年後くらいに大人になって舞い戻り全てを喰らい尽くすとありますれば、未だ期限も1年半以上有り、その間に古の都を救いし他国の旅人を探せとあるのです。都の官吏の中で抜擢された者は世界中に散りその者を探す事となったのです、拙者はある程度心当たりも有り、今探しているところでござる。その者の名は偽物が蔓延ることから申せませんが必ず見つける所存にございます」
ボクネエさん、そんな使命があったんだ。
しかし、こういうのを勇者がやらなくてどうすんだよ。
勇者とは、地道にこういう依頼を熟して強くなるのが勇者道と見つけたり。 BY 勝手にタケオ
もう、誰だか決まっているようだし良かった良かった。
頑張れ救世主応援するからねーー。(手を振るだけです)
ここで、ボクネエさんとムサイシさんとは別れる事となった。
ボクネエさんは、明日教都に帰るそうだ。ムサイシさんは、マケラ帝国の海の小国家群に修行に明日行くのだそうだ。
ちょっと寂しいが、明日からはちょっときな臭い。