81.剣闘王大会 決勝②
竜人リュウカンは、魔槍を呼び出す。
「来い、ガングール」
右手には先程、端に麻布を巻いて置いていた槍が飛んできていた。
いよいよ、第二ラウンドが始まった。
リュウカンが、麻布に巻かれた槍は、リュウカンの右腕に”ぱしっ”と納まり槍の柄を地面に叩きつけた。
”むんっ”
赤い波動は、オーキを吹き飛ばそうとする。
腕を胸の前でクロスさせ、右足を後ろに下げて左足に重心をかけ、半身の体勢になった。
オーキの髪が後ろに靡いた。10cm位ズズっとズレた。
「ふー、おめー、今はあんまり熱くねーだから、そよ風吹かされても嬉しくねーだよ。
凄いのが来るかと思って、ガードした自分が恥ずかしいだべ」
(ちょっとやせ我慢するオーキだった)
リュウカンは、顔が強張り戦慄した。
今まで、この波動攻撃で吹き飛ばせなかった者はいない。
オーキは、そのまま分かり易い軌道でリュウカンに横蹴りを入れた。
リュウカンは、魔槍の柄で受けた。
”ドガッ”・”ミシミシ”
”ざざ、ざざーー”
リュウカンは、片膝をつき、足を滑らせながら、後ろに20m後退させられた。
オーキが右手を挙げて、
「こい!」”ぱしっ”
天元の槍は、瞬間移動したかの様に右手に納まる。
「せっかくだから、おらも得物を使うだよ」
リュウカンは先手を取ろうと斬撃を繰り出す。
”バフュン”・”バフュン”・”バフュン”・”バフュン”
”斬”・”斬”・”斬”・”斬”
オーキは、薙刀で赤い斬撃を切り飛ばす。
今度は、オーキが薙刀を振り、衝撃波を生み出しリュウカンに飛ばす。
”シュイーン”
”バフン”・”バシュー”
リュウカンは、赤い衝撃波で相殺しようとしたが、切り裂かれ魔槍の刃に当たった。
オーキは、魔槍の刃を狙っていた。
昨日、俺達が考えた仮説は、槍を壊せば、これ以上の事は起きない筈だと。
魔槍に少々ヒビが入った。
「くそ、魔槍にヒビを入れやがって、許さんぞ。お前は、真っ二つにしてやる。。。。死ねーーーーーー」
今までの数倍の魔力が膨れ上がって斬撃に変換されていく。
”バーフューン”
”シュイーン”・”ザス”
オーキは、自身の衝撃波で相殺した。
昔の衝撃波では、これだけ大きな攻撃は相殺できなかっただろう。ボクネエさんとの訓練で、精度を増した攻撃は、相手の攻撃の急所に寸分の狂いなく当てる事で、小さな攻撃でも大きな成果を得れるようになったのだ。
リュウカンの皮膚は殆ど黒くなっている。息も絶え絶えで何所となく虚ろな感じだ。
「ふーふーふー、ふう、ふう・・・・・・・」
今度は、槍から赤黒い靄のようなものがリュウカンを覆いだした。
「あれ、体の怠さがなくなってきた。あはは、気持ちいい、何だろう空をふわふわ浮いている。力が漲って来たぞ」
”バーフューン””バーフューン””バーフューン”
右カーブ、左カーブ、中央と三種類の大きな斬撃が飛んでくる。
”シュイーン””シュイーン””シュイーン”
”ザス”、”ザ-”、”ザス”
オーキは、マントを前に出した。
”・バキン”
「く、」
マントを硬化するのが少し遅れ、右太ももに打撃を受けた。
「ちっ、まだ3連撃はキツイだ」
「はっは、今度は5連撃だ。死ねー」
「盾よ、」
オーキは、フォジックで盾を自分の前に移動させる。
”バーフューン””バーフューン””バーフューン””バーフューン””バーフューン”
”ボク、ボク、ガ、ガ、ガ”
盾を移動するのに集中したため、またもやマントの硬化が遅れ右太ももと左肩付近に打撃を受けた。
ーーー
オーキは、あまりフォジックの魔法は得意ではない。特に物を移動するのは、魔法発動速度がそのまま移動スピードになる。一般の魔術師より早くなったのだが、フラウとテンコと比べてしまうと10分の1以上遅く感じる。
それと、オーキには数種類の盾を用意しているが、どちらかと言うと機動力より防御力優先の盾なので重い。フォジックは、移動速度が重さに反比例するので余計と移動速度は遅くなる。それに加えて、得意ではないので集中すると他の動作も遅くなってしまう。今回は特に周りを気にしながら戦わなければならず、尚且つ、槍にのみ攻撃をする繊細なミッションでもあり、オーキが苦手な分野である。
こればかりは、研鑽を踏むしかない。
ーーー
マントの効果で切られはしないが、硬化しなければ、刃の攻撃を受けたのとダメージは同じに近い。
「クッ」
オーキは、おもわず右膝をついた。
リュウカンの見た目は、ほぼ真っ黒になった。
「おお、効いてるな。しかし、この攻撃はミスリルの盾など切り裂く筈だが、丈夫な奴だ。ちょっと威力が低かったか?じゃあもっとパワーアップだ。竜人の力を思い知れ、死ねー」
魔力が膨れ上がる。
オーキは、チャンスと見た。
「今だ、おらも行くぞ」
そう、オーキは、リュウカンが、大技で溜めに入り、槍を前に出す時を待っていたのだ。
オーキは、リュウカンより先に薙刀を振り衝撃波を3連した。
”シュイーン””シュイーン””シュイーン”
”ガキガキ・バキーン”
魔槍の刃が半分から折れた。
「あ、ああ、魔槍の刃が・・・」
魔槍から漏れていた赤黒い靄は、リュウカンに吸収されるように中に入って行った。
リュウカンは、両膝をつき驚愕の表情のまま固まっている。
頭がカクンと下を向いた。
「ふー、何とか間に合っただな。これで魔槍は使えねーだ」
ちょっと一息したオーキだった。
・
・
リュウカンの方を見ると少々おかしい。
背中が、ビクンビクンとしている。
リュウカンの頭が上がり、すっくと立ちあがった。
全身が真っ黒になり、目が明いている部分は、真っ赤にみえる。
首をコキコキ鳴らしながら、天を見る。
「君たちありがとう。久しぶりの娑婆は、眩しいぜ、俺はガングール。名前は覚えないで良いよ。みんな死んじゃうから」
オーキは、フォジック発動し速攻で主審と副審1の所に盾を移動させる。
”バフュン”・”バフュン”
”ガン”・”ガン”
審判は、びっくりした顔しながらそのまま立ち尽くしている。
「君感がいいねー」
「おめー、槍が折れてるだろ。何で平気なんだ」
「ああ、槍ね。」
ガングールが槍を振ると、欠けた槍が戻ってきて元にくっ付いた。
「あまり意味ないんだ。槍の形をしているだけだから」
「審判さん、観客も全員避難させてくんろ。
今度は、守れるか分かんねーだ。こいつ竜人の体を乗っ取った呪いの悪霊だ。」
審判「いや、しかし彼はどう見ても竜人ではないか。」
ガングールは、刃を観客に向けた。
”バフュン”・”バフュン”・”バフュン”・”バフュン”・”バフュン”・”バフュン”・”バフュン”・”バフュン”・”バフュン”・”バフュン”・”バフュン”
”バキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャ”
リュウカンが使っていた斬撃の数倍の威力はありそうだ。
”パリーーーン、パラパラパラ・・・”
一瞬にして、観客前の結界が全て壊れた。
「テンコ、フラウ、フォーメーションB!」
タケオは、大声で二人に呼び掛けた。
3人は、観客席の一番前で闘技台を3か所から囲むように別々に座っている。
3人の前には、大きな木箱が置かれている。その木箱が開き、高密度ミスリルの盾が出現した。
(これは、収納から出すと観客に異次元収納がバレるので、前もって箱に隠しておいたのだ)
フォーメーションBは、オーキがリュウケンの槍を壊せなかった場合、観客が狙われる時の防御フォーメーションだ。昨日考え、朝用意した付焼刃の作戦だった。
また、観客席に斬撃が飛んでくる。
”バフュン”・”バフュン”・”バフュン”・”バフュン”・”バフュン”・”バフュン”・”バフュン”・”バフュン”・”バフュン”・”バフュン”・”バフュン”
”ガンガンガンガンガンガンガガガ・・・”
空中に浮かせた高密度ミスリルの盾で受け止め切った。
観客は、さすがに目の前まで赤い斬撃が迫ったため、自分達が狙われている事に気付いた。
「「「「きゃあーーーうわー」」」」
観客が騒ぎ始め、観客席はパニックになった。
審判含め、警備員等、闘技場関係者も気付き、観客を誘導し始めた。
警備員が、パニックにならない様に近場の出口に誘導している。
「皆さーん、落ち着いてーー、出口に向かって下さ―ーい」
審判が告げる。
「竜人、お前は、失格だけでなく殺人未遂で逮捕する」
「何言ってのこの人、面白いね。」
”バフュン”
”ブシュ・ガン”(オーキの盾防御)
少し間に合わず、審判の右腕を深々と切り裂いた。
「ぐ、ぐあああ」
「審判さん早く逃げてくんろ。こいつは、呪いに乗っ取られて殺人マシーンになっただ。守り切れるか分かんねーだ。」
審判団は、場外の窪みを利用し、必死に控室に非難していった。
ガングールは、また、無作為に斬撃を観客席に飛ばす。
”バフュン”・”バフュン”・”バフュン”・”バフュン”・”バフュン”・”バフュン”・”バフュン”・”バフュン”・”バフュン”・”バフュン”・”バフュン”
テンコ、フラウ方面に集中的に飛んでいく。
テンコは、丸盾を12枚出し、円を描きながら防いでいる。
フラウも12枚の四角い盾を連結せず個々を回転させ、全体を円運動で回転させながら全体を防いでいる。
”ガンガンガンガンガンガンガガガ・・・”
「「「きゃーー、うわーー竜人は殺人鬼だーーー」」」
逃げ惑う観客席は我を我をと出口に押し寄せていく。
「ちっ、こんなに人が集まってるとこに出くわすのは、中々無いんだよ。2,3千人は魔力貰おうと思ったのに。まあ、前の奴の時に数千人分くらいの魔力が残ってるから平気だけどね」
ガングールは、殺した相手から魔力を吸い取ることが出来る。宿主がいる間は、宿主の魔力しか使えないが、乗っ取れば全てが使える。
「しかし、丈夫な盾だねー、その星型はオリハルコン?いや、人間がそんな高価なもの使えないか。人間は自分の命よりお金が大切らしいからね。何かの魔法盾かな。
しかたない。そこの目障りなオーガ君を殺すかね。君も死ぬときは、恐怖と言う良い顔見せてね。それだけが楽しくて槍の振りやってるんだから」
「おめー、とんでもねー奴だな。だけんど前に封印されたんでねーのけ」
「封印?いや、ただ持ち主が死んだだけだよ。戦争になると俺は便利だからね。近頃大きな戦争が無かっただけじゃないかな」
世の中とは不条理だ。
戦争中は、沢山殺した奴を英雄と呼ぶが、平和になると何もしなくとも殺人鬼呼ばわりされる。
道具は、英雄ではないから、使わなければいいという事なのだろう。
「お喋りも嫌いじゃないけど、早く町に出て沢山切り刻みたいんだ。」
ガングールは、槍を回転させた。
「反射斬撃」
”バフュフュフュフュフュフュフュフュフュフュフュフュン”
色んな角度に斬撃が飛んでいく、円形闘技場のため壁にぶつかるが、跳ね返ってオーキに向かっていく。
「ふん、こんな技を持ってただか」
四方八方から来るので逃げ場はない。
オーキは、目をガングールに向けながら、来る斬撃を薙刀で振り落す。その速さは、人間では考えられない早さだ。
そう、今回、ムサイシ対策で訓練した超高速スピードである。
衝撃波は、まだ超高速で出せないが、物理的に薙刀を振るのをいっぱい練習したのだ。
”カキキンカッ・キンキンカッ・カキキンキン・カッカキキン”
全てを叩き落した
「え?、これを凌げる人間なんていないよ。君は一体何者なんだ」
「おらは、オーガ人族のオーキだ」
「今度はこっちの番だ」
オーキは、衝撃波をカーブで連撃できる。
「シュイシュイシュイシュイシュイシュイシュイーン」
上下左右、斜めから衝撃波をガングールに飛ばした。
「ちっ、結構魔力使うから嫌なんだけどな。
旋風旋回、魔力全開」
ガングールは、槍を八の字に回しながら、赤い壁の障壁を作り撃退していく。
「パキキキ、キキキキーン」
そこにタケオの声が響く。
「オーキ、避難は終わったぞー、誰も見てないからなー」
「了解。ほんだば、頑張るだ」
オーキのオーラが膨れ上がる。
「はは、人間ごときが、大量殺人兵器の俺に勝てると思っているのが笑えてしまうな。お前らとは、魔力量が違うのだよ。早いだけではどうにもならんのだよ」
「おめーも、宿主の体が死んだら終わりだべ」
オーキは、超身体強化を行い、切り込んでいく。
ガングールは、槍を回転させながら、八の字に回し始めた。
「反射斬撃―乱舞」
”バフュフュフュフュフュフュフュフュフュフュフュフュン”
”バフュフュフュフュフュフュフュフュフュフュフュフュン”
”バフュフュフュフュフュフュフュフュフュフュフュフュン”
”バフュフュフュフュフュフュフュフュフュフュフュフュン”
色んな角度に斬撃が飛んでいく、円形闘技場のため壁にぶつかるが、跳ね返ってオーキに向かっていく。
さっきの量の数倍はある。回り全てから大量の斬撃が飛んでくる。
四方八方から来るので逃げ場はない。
「盾よ、三角包囲」
盾3mX3mを3枚出し、三角柱の形に囲い、真上に2mX1.5mの高密度ミスリルを出し完全に囲ったまま突進する。
ーーやはり、収納から直接出すのは簡単に配置できる。ーー
”カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ”
薙刀の間合いに入った。
オーキは迷わず鳩尾に突きを入れる。
ガングールは、横に避ける。
「くっ、巨大衝撃波」
”バフーーン”
相当の風圧も気にせず、避けた先を追って、薙刀を薙ぐ。
「ソニック!」
オーキの超高速強化時の衝撃波は、音速を超える。
「。。シュキーーン」
ガングールは、横薙が来る事は予測はしていたので、ジャンプしたが、余りの速さに避け切れず、踵から下が無くなった。
ガングールの巨大衝撃波が上から押え付けたのもあり、軌道が下に少しズレた為だ。
「くそ、人間の癖に、お前は、もっと生きのいい人間を見つけてから殺してやる。絶対殺してやるからな」
足が無くなってもそのまま立ち逃走を図りながら魔法を放つ。
「反射斬撃―乱舞」
”バフュフュフュフュフュフュフュフュフュフュフュフュン”
”バフュフュフュフュフュフュフュフュフュフュフュフュン”
「そんなんで逃げられると思ってるだか、調子に乗るでねー」
オーキは、薙刀を物凄い勢いでクルクル大きく回し始めた。
”キュルキュルキュリーーーーン”
「ソニック高速連射」オーキの必殺技だ。
”。。シュキキキキキキキキキキキキキキキキーーン”
リュウカンが斬撃を発すると同時に、オーキが放つ無数の音速を超える衝撃波が回りのガングールの斬撃を切り裂き、ガングール自身を襲う。
”ばしゅばしゅばしゅ”
「ごほっ、この肉体はもう駄目か、お前とは殺り合う事は出来なくなったが、また為政者が我を欲するだろう。その時はまた人を・・・」
輪切りになったリュウカンの肉体なのにも拘らず、槍は元通りに復元されていた。
”カラン”
槍は、リュウカンの手から離れた。
これで、剣闘王戦の戦いは終わった。