8. いよいよデビュー
15才、この世界では成人の仲間入りだ。行動の責任は、全て自分にある。
冒険者になるため十分な準備はしてきた。
自分がどこまで通用するかを占う上でも魔物との戦いは、重要だ。
僕ではなくこれからは、俺と言う様になるべくしよう。
人間は、環境の生き物だ。呼び方を変えるだけでも大きくなった気になる。
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いきなり、タケオは冒険者になると言っているが、この世界で何のコネもなく他の職業には付けない。
誰でもなれる職業は、冒険者、盗賊しかない。失敗すれば死ぬか奴隷落ちだ。
冒険者に魔物との戦闘は避けては通れない。魔物の脅威から守ってくれるから
冒険者という荒くれ職業が認められているのだ。
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タケオは、5年ぶりに洞窟を出た。
漬物石くらいの2つの石を道端に転がすと出てきた穴は、どこにも見当たらない。
次に気配察知を連続起動(MP0.1使用)
魔力感知を起動した。これらは、額当てに仕込んだ回路だ。
(魔力感知は、半径1kmの魔力だけを感知する。MP2使用し、超極薄の魔力を放出しその跳ね返りを探知する。通常の魔法の魔力感知は、半径500mの魔力感知が限界でMP30必要になる。超極薄の魔力であることと、極限の魔力循環で発達した感性を持つタケオだからできるのだが、比較する者のいなかったタケオは、これが普通なのだと思っているし、MPが増えたら半径10kmに挑戦しようと思っている。ちなみにこんな感知ができるのは、S級魔物かドラゴンくらいしかいない)
半径1km以内には、MP1程度の小動物しかいない。
「MP1程度の自分は、魔物からすればモグラやネズミ程度に判断されているんだろうな。」
やはり、魔物が嫌う高周波が効いていて半径10Kmには、殆どいないのだろうか。
西には、賢者の森に隣接する大森林が広がっている。
警戒しながら山道を10km早歩きすると3時間かかった。魔力感知にやや大きな反応あり、警戒しながら近づき気配遮断を発動した。
(トウースの賢者のマントを羽織れば実は気配遮断は必要ない。
伝説級の遺物と思われるマントは、凄い能力を持っているが、それでは訓練にならないので羽織っていない。もしもの時のために後ろに背負っている。)
2匹のゴブリンがいた。最初は単独を狙っていたが、こちらの都合の良い状況には中々ならなかった。
・能力把握を発動(額当ての一番左あたりに魔力を放出する)
1匹に視点を合わせた。
目の前左上に、LV5 魔攻20 MP20/20 攻0耐1
と空中に表示が出る。才能がオール4だろう。
もう一匹を見ると
目の前左上に、LV7 魔攻21 MP21/21 攻0耐1となっていた。
才能がオール3かな。
(空中に浮かぶ数字は、移送の魔導回路で表示している。
レベルや実際の魔攻、MP残、MPMAX、攻 耐(魔力の現在攻撃する力、防御に使用している力)は、才能の宝珠と共に獲れる宝珠がある。
この宝珠は、臆病鳥の鶏冠内にある数個の瘤を1か月ほど魔力を与え続けると結晶化して出来るのだが、メスは、魔攻、MP,魔回の才能を示す3つの宝珠になる
オスは、今現在の能力の魔攻、MP残量、MPMAX量、現在の魔力攻撃オーラ値、現在の全身に纏う魔力耐久力の5個の宝珠が摂れる。
(オスは、狩りの時、この数値を見て相手が強ければ速攻逃げの一手だ。その為、臆病鳥と呼ばれるようになったとか)
オスは大きく宝珠も直径10cmになってしまうのだが、残酷だが、雛のうちに採取すると直径5mm小さな宝珠になる。感度も小さいほど良い。これを額に嵌めて、魔導回路で制御しているのだ。一般の魔術師も稀に初心者が持っている者がいるが、直径5cmぐらいだ。これ以下だと戦闘中に良く見えないためだ。また、戦闘中に宝玉を見ていたら隙だらけになってしまうので冒険者達は、初めの頃しか使っていない。
しかし、魔力が支配するこの世界において、見た目や一回剣を交えたぐらいでは、力量は中々わからない。ゴブリンだってLV10の才能黄色に当たったら、中級冒険者でも不意を突かれたら危ないのだ。
このタケオの能力把握は、隙もできず即座に使用できる彼だけが持つ能力である)
話を戻すが、2匹のゴブリンだが、自分のレベル1,魔攻1,MP5では到底相手できる者ではない。しかし、勝つ方法はある。失敗したときの逃走経路とトンズラ靴(風の魔法で俊足で走れるブーツ)はある。
ここは、挑戦すべきだろう。戦闘とは常に格下が来るとは限らない。勝つ方程式があるなら後は失敗したときに生き残る方法さえ確立できれば、蛮勇ではなく大きな戦闘経験になる。
また、魔攻も格上を倒すとボーナスが付くしレベルが上がり易い。ここは、挑もう。
まず、1km以内に魔物はいないことを確認済み。
(1分前情報だから500m以内にはいないはず)
ゆっくり歩く2匹の背後に回る。
刃渡り35cmのミスリルの大振りナイフを抜く、左側の獲物の真後ろ30cmまで寄る。
”ぐえ、ちょー臭い”
頭を左手で上から抑え首にナイフを刺す。
”ブシュッ”
気が付いていない右側の一匹に横蹴りを喰らわせ、よろける所に頭に右手指を向け
”ファイアーボール!”。
頭が吹き飛ぶ。
ナイフを抜いて、気配察知で周りを確認しながら、残身する。
周りに問題ないことを確認し、その場所から離れた。
戦いを振り返ってみたが、課題がある。
刺したので血飛沫は、受けなかったが、場合によっては切らなければならない時もある。右足が効き足なのでどうしても左をナイフ、右を蹴るになってしまう。血しぶきが上がると視界が一瞬遮られ、動作が遅くなったと思う。
苦手意識がなくなるまで、左右どちらでも突く切るが出来るよう訓練しよう。
ナイフに”切れ味UP”を付与を忘れた。
蹴るときもブーツに”打撃UP”の付与をしなかったので、相手はよろける程度になってしまった。
戦闘に入る前”シールド”を掛けるのを忘れた。
集中すると周囲の警戒が疎かになるので防御を忘れるのは、戦士として致命的だ。父さんから口を酸っぱくするほど言われたのにどうしようもない失態だ。
良い点としては、ファイアーボールが思いのほか有効だった。
2,3匹なら連発でのファイアーボールでも倒せるかもしれない。
徐に自分の能力を表示した。右上に表示される。
LV2 魔攻3 MP6/10 攻0 耐1
レベルが上がっている。やはり格上を倒すと上がり易いようだ。魔攻は2のはずが+1されて3になっている。MPも5+5で10になった。
「あ、戦闘前に残MPを確認していなかった」
魔力察知や細かい能力確認などしていたが、全く考えていなかった。逃げるにしても魔力はいる。いつもチェックしていなければならない。
「本当に問題だらけだ。」
とりあえず、勝てたことが幸運だったとほっとする。
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